吸血鬼ハンターD

吸血鬼ハンター“D” 新版 (朝日文庫 き 18-1 ソノラマセレクション 吸血鬼ハンター 1)
吸血鬼ハンター“D” 新版 (朝日文庫 き 18-1 ソノラマセレクション 吸血鬼ハンター 1)菊地 秀行

朝日新聞社出版局 2007-12
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いや、避けては通れないだろうと言う事で取り上げる。

スタートの一冊

私のライトノベル(当時はこういう呼び方をしなかったと思う)の入り口となった幾つかの本のうちの一冊ですね。
最近は書店では見かけなくなったソノラマ文庫より刊行されていて、現在もまだ続編が出続けている作品でもあります。作者は有名な菊地秀行氏で、まあ最近だと大人向けのエロスやらバイオレンスやらがてんこもりの作品中心に(「魔界都市シリーズ」とかね)書いてますけど、当時の菊地秀行と言えば「魔界都市 <新宿> 【完全版】 (ソノラマノベルス)」に「吸血鬼(バンパイア)ハンターD (ソノラマ文庫 (225))」「エイリアン秘宝街 (ソノラマ文庫 カセット版 1)(トレジャーハンターシリーズ)」などのジュブナイル(今でいうライトノベルか)作品の名作を次々とぶっ飛ばしていた時期でもあります。で、そのうちの一作がこれ。

ストーリー

時は遥か未来、一度は栄華を極めた人間は生物界の頂点から落ち、「貴族」と呼ばれる吸血鬼達が世界を支配する時代が訪れた。
そして時はまた遥かに流れ、「貴族」達が世界の表舞台から去りつつあるものの、人間達は生物の頂点に返り咲いたとは言いがたく、「貴族」の残した生物兵器や怪異、魑魅魍魎の類いに怯えながらもなんとか生き続けている荒廃した未来世界が物語の舞台となる。
しかも吸血鬼である「貴族」達の脅威は完全に過去のものとなった訳ではなく、辺境の地において未だに人々は「貴族のくちずけ」の恐怖に怯え、恐れ、憎み、ひっそりと暮らしている。
そんな過酷な生活の中、人間の中から怪物達を猟る事で生きる「ハンター」と呼ばれる人間達が現れた。彼らは自らの肉体/科学技術/妖術を鍛え上げ、妖魔、怪物、邪妖精、化物達を猟る。
そしてその「ハンター」の中の僅かに一握りの天武の才を持つ者達は、人間にとって最大の脅威である「貴族」を猟る事を生業としている恐るべき者達もいる。そんな彼らを人々は畏怖と僅かな憧れをもってこう呼ぶ「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンター」と。
この物語は美貌の吸血鬼ハンターである”D”を中心として語られる、人々の喜び、悲しみ、怒り、希望、絶望、そして恐怖と滅びの物語。

いやあ

熱くなりますね。
菊地秀行氏の吸血鬼物は吸血鬼に対する愛情にあふれまくり、その迸るイメージの奔流は他の吸血鬼をテーマした作品の追随を許しません。
これはあくまで個人的な見解ですが、吸血鬼を扱った作品で菊地氏を超える作家は未だに(少なくとも国内では)現れていないと思います。
吸血鬼の恐怖、悲哀、美しさ・・・あらゆる意味で菊池氏の作り出した「吸血鬼ハンターD」の活躍する世界は、夜にしか花開かない美、闇においてのみ真価を発揮する爛熟した情景に満ちあふれています。

このシリーズ

吸血鬼ハンターD」はその後着々と続編が出版され、現在ではかなりの続刊が出版されていますが、その記念すべき最初の一冊目が「吸血鬼ハンターD」です。
吸血鬼ハンターD」においては”D”の性格描写や台詞まわしに現在とは若干の違いが(今より多少人間的)見受けられますが、そんな事は正直瑣末な事です。Dを初め、辺境に生きる人々の逞しさ、弱さ、そして醜さ。あらゆる物が高い水準で描かれています。とにかく読まないと始まらない、それが「吸血鬼ハンターD」です。

正直

巻数を重ねるごとに文体や表現の変化も見られる事もあって、個人的に自信を持っておすすめ出来るのは今回トップで取り上げた「吸血鬼(バンパイア)ハンターD (ソノラマ文庫 (225))」に加えて「風立ちて“D” (吸血鬼ハンター愛蔵版シリーズ)」と「D‐妖殺行 (吸血鬼ハンター愛蔵版シリーズ)」の3冊です。しかしいつ読んでも面白い。
今では非常に有名な画家になってしまった天野喜孝の美麗なイラストが表紙を飾り、その秀麗さは本編内部の白黒のイラストにおいても妖しい世界観を描写するのに多大な影響を与えています。
一枚目のイラストで書かれたヒロイン・ドリスの妖艶さ、可憐さといったら! 菊地氏の筆の巧みさも相まって、もうたまりません。

ちなみに

吸血鬼ハンターD」は基本的には一冊/一話で完結するタイプの作品ですので(上下巻とかは別)、安心して読み始められます。
もし読んでいなかったら、ぜひ手に取ってみて下さい。損はしません。いわゆる最近のラノベにあるような「萌え」やら可愛い女の子やらは殆ど全くと言っていい程でませんが、それを補って有り余る程のイメージと、命の輝きがあります。
ぜひ「吸血鬼ハンターD」を、あなたの書棚の一角に加えて欲しいと思います。