イリヤの空、UFOの夏

イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)
イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)秋山瑞人  駒都 えーじ

アスキー・メディアワークス 2001-10
売り上げランキング : 13568

おすすめ平均 star
star一度は読んでおいて損はないシリーズ
star秀作
star超良質ライトノベル

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
イリヤの空、UFOの夏〈その2〉 (電撃文庫)
イリヤの空、UFOの夏〈その2〉 (電撃文庫)秋山瑞人  駒都 えーじ

アスキー・メディアワークス 2001-11
売り上げランキング : 35679

おすすめ平均 star
starまたもやハチャメチャ。
starしかしながら、
starイリヤ』の中で、僕はこの巻が一番好き。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
イリヤの空、UFOの夏〈その3〉 (電撃文庫)
イリヤの空、UFOの夏〈その3〉 (電撃文庫)秋山瑞人  駒都 えーじ

アスキー・メディアワークス 2002-09
売り上げランキング : 52094

おすすめ平均 star
starこの巻からシリアスに
starおもしろいね
star第3巻

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
イリヤの空、UFOの夏〈その4〉 (電撃文庫)
イリヤの空、UFOの夏〈その4〉 (電撃文庫)秋山瑞人  駒都 えーじ

アスキー・メディアワークス 2003-08
売り上げランキング : 85427

おすすめ平均 star
star高評価の様ですが
starイリヤの幸せ
star悲しい最後…

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

表紙に可愛いアニメ絵がついてる本ってキモくない?なにこれ、オタクが読むのかなぁ?キモチワルーイ?ほら、特にこの本とかどう?うわぁ〜キモッ!
「おい、そういう事を言う前に一度通して読みやがれ!」
ライトノベルと呼ばれる「いわゆる可愛いイラスト付き」の本に偏見を持つ奴はとりあえずこのシリーズを全巻読破した後に同じ事が言えるかどうか聞きたい、超聞きたい。

ストーリー

突飛なキャラクターが出て来るものの、主人公達の内面的には意外と普通でありがちな青春。そこに「イリヤ」が加わる事で何か変わって行く日常。少年達の当たり前で健全な渇望やら欲望やら恋やらの間に落とされる「イリヤ」という一見普通の少女がつれてくる夏と、怪異と、あからさまに不穏な活動をする大人達、そしてUFO。
主人公の少年・浅羽は中学生で、天才の変人・水前寺率いる園原電波新聞(学校未公認)に所属する、まあそれほど特徴のない少年。本来なら彼は物語の主役をはれるタイプの人種ではないのだが、ある夜、忍び込んだ学校のプールで少女「伊里野(イリヤ」と出会った事が彼の夏を特別なものに塗り替えていく。

この作品の世界

彼らの世界は実は限りなく「戦時下」の状態に近いものがあって、戦争の被害そのものが直接出ている訳ではないけれど、その「炎のにおい」は僅かながらテレビなどのマスコミを通じて漂って来ている。
イリヤの空」の舞台となる街は「軍の基地施設」があるため、住人達はまだまだ戦争のリアリティを感じているとはいえないものの、「攻撃目標となるのではないか」という奇妙な不安と恐怖が街を覆い尽くしている。そしてそれは浅羽の側に登場したイリヤからも強く漂って来る。それはイリヤに付きまとう死の匂い

心にえぐり込んでくる物語

それでも1〜2巻辺りでは健全な日常を書きつつも得体の知れない不安感を行間に滲ませつつ、嵐の前の静けさの様に穏やかに進行して行く。しかしそこから続いて行く怒濤の3巻、4巻。
いやあ、全部出版されてから読み始めて良かった。こんなもん途中で止められたら実に苦しい。
とにかく緊張感を孕んだ圧倒的の一言につきる展開。戦争そのものを描いている訳ではない。しかし3巻の「水前寺応答せよ」から始まるこの物語の暗部は、一度は少年であった(あるいはリアルタイムで少年の)心を揺さぶらずにはおかない。

かつての少年少女達に告ぐ

主人公の浅羽の持つ弱さ、強さ、無力感、愚かさ、そして何もかもを投げ打つ事の出来る若さの素晴らしさはかつて少年(あるいは少女も)であった者が全て持っている”何か”だ。
単純に「若さ」といってしまうには生臭過ぎる混沌とした”何か”。それは大人であったとしても馬鹿にする事も、目を背ける事も許されない類のものだ。なぜなら誰でも一度は子供だったのだから。
そして大人になってもきっとあの無力な子供は心のどこかにいるはずだ。
そしてこの物語を読む時「かつての少年」が心のどこかで叫び出す。あの時もっと力があったら、あの時もっと信じる事ができたら、もっと、もっと、もっと、と
何もかも全てを望む傲慢な若さでもって今でも叫んでいる。たとえ何歳になっても。
それでもこの物語は子供達の物語であって、無力な彼らの中を容赦なく時間は流れ、きっと変えようのなかった結末に向かって進んでゆく・・・。しかし、どうだろうこの結末は。

この物語の

実質的な最終章である「南の島」の章のラストシーンの描写は神がかっている
なんと美しく、切なく、一片の曇りも無いラスト。そしてゆっくりとエピローグで静かに終わって行く物語と、イリヤの連れて来た忘れられない夏。
浅羽とイリヤ、水前寺、晶穂の夏が一体どういう風に過ぎ去って行くのか、ぜひ全巻を読んでこの夏を追体験して欲しい。きっと忘れられない、ほろ苦く甘い傷となって、ひっそりといつまでも息づいて行く様な記憶を心に残してくれるはずである。

余談だけど

本編のメインストーリーと直接は関係ないけど3巻の「無銭飲食列伝」は是非とも十代、二十代を問わず恋する女性に読んで頂きたい傑作です。彼女達(イリヤと晶穂)の誇り高い生き様に、乾杯。