“文学少女”シリーズ3 “文学少女”と繋がれた愚者

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

本当ならこの本は”文学少女”シリーズの3巻なので、1、2巻の感想を先に書くべきだとは思うのだけれど、とりあえず纏めました。

今回も

相変わらずの文学少女”遠子先輩と、少年・心葉(コノハ)を中心として、クラスメイトの「芥川」の苦悩を巡って話が展開します。この”文学少女”シリーズの読者の皆様は既にご存知の通り、特定の有名な文学作品をモチーフとして話を作っています。今回は・・・いえ、秘密にしておきましょう。読む楽しみを奪いかねません。

実に

良かったです。
しかし、この続きを読みたい様な読みたくない様な複雑な心境に今現在陥っています。
今回は簡単に言えば、「破壊と再生の物語」という風に言えるとは思いますけど、全体的にはあまりの生々しさに時としてページをめくるのが辛く感じる程でした。
あくまで一般論の話ですが、ラノベでは本来あり得ない様な状況を舞台として物語が作られる事が多いですが、この”文学少女”シリーズは、ヒロイン(?)の”文学少女”遠子先輩の「本を食べる程好き」「良い文学は食べると美味しい」という妖怪じみた設定を除いては、現実世界と変わりません。その世界で喜び、悲しみ、怒り、憎しみ、夢や愛といった事が語られる訳ですが・・・。

この

”文学少女”シリーズでは「本来あり得ない」ラノベ的要素と「現実」の配合加減が絶妙で、登場人物達の陥る苦悩や閉塞感、喜び、絶望などが読者に対して強烈に迫って来る感じがします。ちょうど「狼と香辛料」において、「金が無くなる恐怖」というのが「現実にも起こりうる恐怖」なので、他人事のように感じられない、というのと近いと思います。
今回、主人公の心葉の感じる緊張感や、芥川の苦悩やら、身近にありすぎてフィクションと思えないような迫力がありました。まさしく手に汗握る展開です。アクションシーンなど欠片も無いのにも関わらず、です。
描写されるもつれにもつれた感情の糸、不幸な出来事が重なるようにして出来上がっている混乱した人間関係の絵巻、それを”文学少女”はどのように解きほぐすのか? そして解きほぐした先に光はあるのか? 最後のページをめくるまで全く安心出来ませんでした。(ネタバレっぽいので以下反転)実は読了後も安心しきれていません

本書を

読んで頂ければ分かりますが、見事な出来映えです。
正直2巻は私の好みからは少し外れていたのですが、今回は直撃でした。星5つです。おすすめですが、個人的には続刊が早く出てほしい様な、出てほしくないような・・・。シリーズ完結するまで、買うのを控えようかなとか、チラッと思ってみたり・・・我ながら臆病者ですね。

追記

本編の内容とは関係ないですが、この"文学少女"シリーズを読めば、題材となっている元の本を「読んだ気」になれます。
このシリーズはある意味一冊丸ごと別の本の紹介に費やされているような所がありますので、読んでなくても知ったかぶりをするのに実は最適。遠子先輩の台詞を覚えておけば、もう誰かの前で自信満々に解説するのに十分。女の子にモテる、か、も。
あとイラストについてですが、このシリーズのイラストはなぜか大好きです。少女マンガにありそうな絵は個人的には苦手なのですが、竹岡美穂のイラストは少女マンガっぽくても全然平気です。不思議なムードがあるように感じるからでしょうか。
あ、全然関係ありませんが、背表紙のタイトルにシリーズ何作目なのか入れないとそろそろマズいと思います。じゃないとパッと見何作目なのかちっとも分かりません。もうちょっと「後発の読者」が買いやすい環境を整えましょうよ? 本屋で平積みされなくなったら商売終わりってわけじゃないんだから。コンピュータソフトウェアの話じゃないけど、ユーザビリティを無視した製品は消費者にいつかそっぽを向かれると思うよ。>ファミ通文庫編集部

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