電波的な彼女

電波的な彼女 (集英社スーパーダッシュ文庫)
電波的な彼女 (集英社スーパーダッシュ文庫)片山憲太郎 山本 ヤマト

集英社 2004-09
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おすすめ平均 star
starこっちの続編を早く読みたい
star一見の価値有り!!
starイライラするけど面白い。

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作品のタイトルそのままに、確かにヒロインの堕花雨はかなりのオタクでかつ電波。こういう女性と少しでも付き合ってみよう(友情的な意味)という気になる本編主人公・柔沢ジュウは結構大したものだと思う。いや、得たいの知れない相手と言うのは例え女の子でも十分怖い。という訳で話の導入における読者の掴みはばっちりだと思われる「電波的な彼女」の感想です。

ストーリーの簡単な紹介ですが、いきなり柔沢ジュウが堕花雨に呼び出されて衝撃の告白を受ける所から始まる。

「我が身はあなたの領土。我が心はあなたの奴隷。我が王、柔沢ジュウ様。あなたに永遠の忠誠を誓います」

これは怖い
・・・これはホンの導入部分ですが、まあなし崩し的に少しずつ柔沢ジュウは堕花雨とそしてクラスメイトの紗月美夜との親睦をなんだかんだ言いつつ深めて行くのですが、ある時陰惨な殺人事件に巻き込まれる事で、彼の日常が崩れ始めます。こんな感じでしょうか。

ところで

上にも書いたとおりヒロインの堕花雨はかなりのキワもの。
そもそも前世からの絆を信じているオタクという辺りでかなり怖いのですが、それよりなにより怖いのはその他の部分です。彼女は「高い妄想力」と「優れた行動力」と「見事な分析力」と「的確な判断力」が高いレベルで結合して完成した「完全体ストーカー」なのですが、実際のところ実害は無いのでそのうちその存在に慣れてしまうところが実はさらに怖いです。
とにかく、堕花雨が女の子だからいいですけど、キャラクターの男女配置を換えたらそのままサイコホラーのノリですね。まあこの特殊なキャラクターが人気の秘訣でしょう。見事なまでのキャラの立ちようです。またそれが生かされていて実際面白い。

主人公の

柔沢ジュウは茶髪の半分ヤンキーですが、基本的に悪い人間ではありません。
多少世の中に拗ねているところがありますが、悪人にはなりきれません。個人的にはその微妙な行動原理が良くかけていると思うので好印象ですね。
上を見ると悪く書いているみたいですがヒロインの堕花雨も実にいいキャラです。読んでいて楽しい。こうした特長のあるキャラクターを作り出せた段階で、もうこの本はある程度の成功を収めていると言っても良いでしょう。前髪に隠れてよく見えませんが実は可愛いし。このキャラクターイメージも成功していると思います。

この作品は

全体的に見れば同じ作者による「紅 (紅シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)」シリーズより暗い印象があります(こっちの方が刊行されたの早いけど)。本編で起きる事件は一応の解決を見るけど、基本的にちょっとあんまりだなあという展開だったり。まあ、それも持ち味と言えば持ち味です。血みどろっぽくても一応すっきりしたければ「紅」シリーズをどうぞ。

とにかく

痛いです。とても痛い。人間の中に潜むダークサイドな感情がじっくり書かれる事もそうですが、物理的にも、ストーリー的にも痛いところがあります。
いぬかみっ! 1 (電撃コミックス)」とか「お留守バンシー (電撃文庫)」とかのシリーズが一番のお気に入りという人は手を出さないほうが良いでしょう。「円環少女 (角川スニーカー文庫)」とかが好きな人ならまあ大丈夫です。もっとぶっちゃけると「戯言シリーズ」に似ているところがあるので、「戯言シリーズ」レベルのえぐさだと思ってください。
ヒロインの堕花雨が怖いと書きましたが、彼女よりもさらに激しく現実的に怖い人や彼女の印象がちょっと良くなってしまう位の危ない人が出てくるので、とりあえずは覚悟してください。読書なれしている人ならある程度の予測が付くと思います。

しかし

全体的にみると十分楽しめる出来じゃないでしょうか。一冊完結タイプの作品なので、一冊読んでみて自分に合うようなら2巻以降の購入を検討したら如何でしょうか。けっこう悪くないですね。個人的には「紅」シリーズの方が好きですが、こちらも面白いので星4つ、です。