電波的な彼女 〜愚か者の選択〜

電波的な彼女―愚か者の選択 (集英社スーパーダッシュ文庫)
電波的な彼女―愚か者の選択 (集英社スーパーダッシュ文庫)片山憲太郎 山本 ヤマト

集英社 2005-03
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おすすめ平均 star
starもっと裏をかいて欲しい
star期待を裏切らない続編

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2巻は斬島雪姫というかなり強烈な新キャラが出てきて、上手い具合に物語をひっかきまわしてくれます。

簡単なストーリーの紹介ですが、「えぐり魔」と呼ばれる「子供の目ばかりを狙う」猟奇殺人事件が頻発し、それに主人公の柔沢ジュウが巻き込まれるところから話が始まります。またそれとは別に、斬島雪姫という娘とジュウは堕花雨の関係で会う事になるのですが、彼女は「刃物越しの二重人格者」です。「紅」シリーズを読んでいる人ならすぐに気がつくとは思います。柔沢ジュウは「えぐり魔」を捕まえるために、堕花雨ではなく斬島雪姫の協力を得る事になります。「えぐり魔」の正体とは? 柔沢ジュウは「えぐり魔」の新たな犯行を止める事ができるのか? といったストーリー。

はい。このあらすじだけで憂鬱になれる人は好きでも手を出さない方が吉かも知れません。犯罪被害者が子供ですし、犯罪の内容は猛烈にえげつないしで、結構えぐい内容です。1巻の感想で、雨の電波っぷりが怖いと書きましたけど、雨など可愛いもんだと思える連中が登場する事になり、けっこう読了後の後味も悪いです。
しかし、一般人であるジュウがなぜ「えぐり魔」を止める事に力を傾けるのか、自分には力も無いのにどうして危険を顧みずにそんな事に足を突っ込んで行くのか、なんてあたりが他のキャラクターを通じて非常に丁寧に描かれます。この辺りは柔沢ジュウのその人となりを見事に表現していてとても良い。彼はただの不良高校生だけれど、主人公としての資格があるなあ・・・と思わせてくれる一冊です。

新キャラの斬島雪姫も非常に良いキャラクターです。ある意味常に本音で生きている冷徹とも言える性格をしているのですが、そこがジュウとの対比となって実に映えます。ジュウはどう考えても情で動くタイプの人間ですが、雪姫はそうではありません。ちょっと引用してみます。

「だって、くだらないプライドを優先して、能率を無視するんでしょ?」

けっこうグサっとくる台詞を吐いてくれます。それと同時に、

「柔沢くん、あーんってして、食べさせてくれる? くれたら我慢する」

こんな台詞を吐く娘でもあります。キャラとしては非常に立っていると言っていいでしょう。

あと、ちょっとだけ顔を出すジュウの母・柔沢紅香ですが、ちょっと母としては行き過ぎの感があって、まだまだ書き込みが足りないと感じたりします(母じゃなければいいんですが)。
まあ変人って事では十分足りてはいるんですけど「ああ、こんなダメな親がいるからこんな息子が出来るんだなー」という感じがいやっていう程します。ジュウを危険から本気で遠ざけたいのか、実は煽って近づけたいのか、どんな人間にしたいのか、正直分かりません。殴り倒した挙げ句、分かった様な事を言っていれば良いってもんじゃないと思うんで。イマイチ好きになれませんでした。もーちょっと親としての自覚を持って、子育てを真面目にやれという感じでしょうか。うん。
今回、雨の出番は雪姫にあおられてちょっと少ないのですが、読み応えたっぷりです。個人的には星4つの大健闘、といった所なんですが、上にも書いた通り、暗いし、えげつないです。読了後もスカッとサワヤカとは行きません。そうした意味では「ちょっと暗い内容の本は避けたい」という人は読まない方が良いでしょう。「紅」シリーズのような少年漫画的な展開がありません。ただし、そこがこの「電波的な彼女」シリーズの持ち味でもありますので、ちょっと位のえげつなさには耐性があるという人はぜひ手に取って見て下さい。丁寧に書き込まれた良書だと思います。