イヴは夜明けに微笑んで
イヴは夜明けに微笑んで (富士見ファンタジア文庫 174-1 黄昏色の詠使い) | |
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えーと、正直作者による「あとがき」の書き出しの微妙なイタさの為にこの本を今まで敬遠していたんですが、間違いでした。面白かったです。
あらすじ
つまり相手を讃える言葉を紡いで望んだモノを、詠った者の元に呼び寄せる技です。名詠式には五色の「色」があってそれぞれ「赤」「青」「黄」「緑」「白」とある訳です。色それぞれの特色ももちろんあります。
そして、その名詠式を学ぶ学園にある一人の少女と少年がいました。一人はまだ誰もなし得た事の無い「夜色名詠」を目指すといい、もう一人は五色全ての名詠を自分のものにすると言いました。そして、二人はそれぞれを身につける事を「勝負」する事になりました・・・。
そして一世代程時は流れます。そこから本編がスタートします。
名詠式=召還魔法
の図式で、まあおおよそ間違いではないですが、ファイナルファンタジーの黒白魔法+召還魔法みたいなイメージですね。鳥やら蛇やらを呼び出す事もできますが、妖精やら幻獣の類いまでも優れた詠み手なら呼び出す事ができます。ゲームで使われる魔法の様に破壊的な使用方法も無いではないのですが、どちらかと言うとより幻想的な技といった感じでしょうか。実際にこの物語世界で名詠式の技術がどのように日常の暮らしに組み込まれているかまでは物語ではほとんど語られません(戦争で使われたりするのかも知れませんが)が、うーん、取りあえず物語の中ではもっと穏やかなイメージがしました。
ファンタジーの分野では既に十分語り尽くされた「魔法」というものを主軸に置いた作品なのですが、新しい名前を与えて、新しい世界を与える事で、ああこんなにも別のイメージを読者に与えてくれるんだなあ〜などと思ったりしました。
キャラもいい
結構登場人物は多いのですが、それぞれ結構キャラが立っています。特別な事や、突拍子もない事をするキャラクターは実はほとんど出ないのですが、それでもちゃんと主張する何かがキャラのそれぞれにあります。ほんの少しの言葉や行動で、それらのキャラクターの側面を表現しきった作者は見事ですね。昨今のキャラクターにしばしば与えられる「明らかな記号」を特に与える事なく、これらを実現したところは見事と評価したいです。
ただし、そのかわりに強烈な個性を発揮するキャラクターもいませんので、そこは今後に期待したいところです。その分だけちょっと評価が下がっていますが、正直些細な事です。積み重ねれば、味が十分今後出て来そうですし。
それと、もうちょっと、本当にもうちょっとだけ分かりやすい「現在進行形の」恋愛要素を入れてくれたりするとよかったかな(これは贅沢か)。いえ、無い訳じゃないんですけどね。とても良い感じの恋愛要素があるんですけどね。ちょっとアレだったりするので・・・。
全編を通して
後半はアクションっぽくなるのですが、それでも「優しさ」を感じる空気が常に流れている作品ですね。その割には一定の緊張感を失っていないと思います。この「優しい」雰囲気、続編が出たとしても失っては欲しくないですね。物語の展開如何では難しいとも思いますが。
ただ、ちょっとヒロインの「はじける瞬間」については流石にご都合主義っぽいとか思わなくもないですが、まあ、許容範囲内かな・・・もしこれ1冊しか出ない可能性を作者が考えたとしたら、まあ当然の展開のような気もします。