天使のレシピ(2)

天使のレシピ〈2〉 (電撃文庫)
天使のレシピ〈2〉 (電撃文庫)御伽枕

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1巻の話のうち一つの不快感が結構強烈だったので、敬遠しそうになったのだけれど、「まいじゃー推進委員会!」のid:tonbo氏におすすめされて読んでみたのですが・・・結論として、こちらは読めた。怒る事なくちゃんと読めた。今作も前作と同じように短編連作形式をとっているので、短編毎の紹介をしてみる。
しかし・・・前もって書いておきます。おすすめしてくれたid:tonboさん、ちょっとキツい評価になってしまいました・・・。

ストーリー

相変わらず微妙に天使の存在意義が薄い所があったけれども、まあ本を二冊も続けると微妙に天使の価値が見えてくる所もあって、やっと微妙に良くなって来たという感じですか。

FAKE

妹視点で描かれる「禁断の恋」のお話。これは切ない。普通に切ない。どうにもならん事が世の中に沢山ある事を自覚していて、それを横車を通すとどういった波紋を起こすかも分かってしまっていて、行くも戻るもどうにもならない状態になっている話。さて、妹の決断は一体どういう決着をつけるかというところが焦点ですが・・・。架空の物語(演劇)と、現実の恋の葛藤を上手くオーバーラップさせて話を象徴的に作り上げています。
個人的にテーマはありふれているなあとか思いましたけど、見せ方は上手いと思いましたね。星4つ

相談員

いやあ、生痛い、生々しく痛い話。
自分の彼氏が実におおらかな性格をしていて、自分という彼女がいながらも別の女の子とも平気でくっついてしまったりしているというシチュエーション。丁度間の悪い事に天然入った美少女が「彼氏の事で相談したい」と彼氏に近づいてくる(しかもスキンシップ過剰)ので、彼の事が大好きな少女はモヤモヤ、イライラとする。そしてなんとかして彼氏からその「天然少女」を引き離そうとする訳ですが・・・。
主人公の少女の心の中に潜むエグい「真っ黒くろすけ(つまり嫉妬)」の存在そのもを憎んだり、あるいは当たり前の感情なんだと言い聞かせてみたり、あるいはコントロールして、手練手管を使って彼氏や「天然少女」の引き離しを上手い事やろうとする辺りの「裏側の醜い心情」と、彼にくっついたり抱かれたりする事に最高の喜びを覚えたりといった忙しくも「素敵な感情」の行ったり来たりがこれでもかいっ! という感じで描かれて行きます。いやあ、恋というのは辛いものですな。
恋愛(というよりは女の子)の美しくも醜い所をきっちりはっきり描いてくれて、いやあ、これは心のどこかが痛いですな。別に同じような感情は男女別にして持つようなものでしょうしね。
痛い所が楽しいと言えば楽しい、痛い所が上手いと言えば上手いけど、うーん、個人的な感覚としてはもうずっと昔に通り過ぎてしまった場所の物語という感じがするな。リアルなんだけどまだ甘っちょろくて生易しいというか・・・。でも30代のおっさんに「甘っちょろい」と思わせるという事は、十代、あるいは恋愛のスタートし始めの物語としては見事かも。
痛いけど楽しかった星5つ
・・・最後まで致してしまうえっちい描写がありますけど、途中までですがこらまた生々しいんだわ。男/女とアレした事の無い少年/少女には結構クる描写かも知れません。でも恋愛ですしね、無駄とは言えない描写です。でも良いですね。幸せそうで。エロっぽいですけど悪くないです。これはこれで不可避な感じ。・・・ちょっとリアルえっちいイラストも付いてますけど。という訳でちょいエロカテゴリ追加。

実習生

「相談員」の裏側で展開している物語。上記で「天然の美少女」という登場人物が出てきますが、この少女とつきあっている大学生のお話。上の話でも彼女は「総天然」として描かれている訳ですが(つまりむかつく女の子)、その彼女に振り回されて疲れてしまっている大学生です。
「総天然彼女」は愛や恋といった感情を性格に理解して処理する事が出来ない少女で、恋愛に関する事が何一つ分かっていないという困ったちゃんなのですが、主人公の少年の努力の結果、徐々に主人公の好きになってはいるようなのですが・・・ある時「高校の先輩に相談に乗ってもらっている」という話を聞いてから雲行きが怪しくなり・・・という話。
やっぱりこちらはこちらで「真っ黒くろすけ」の存在があったり、そもそも彼女の考えている事や気持ちが理解出来なくなったり、何が正しくて間違っているのか分からなくなりつつあるのですが・・・上の「相談員」となって彼女との恋愛実習生となって行くという。
・・・悪くはないけど、いまいちかな。この話、男性主人公になると生々しさが減って読みやすくはなるんだけど、その分魅力も半減してしまうという傾向があるように思う。この話は星3つですかね。
男性主人公になると突然心情描写にリアリティが半減するのは惜しいですね。なんか解脱した仙人みたい。どうせなら全部少女を主人公にした方が良いと思う。

テンシヲサガセ

おまけみたいな話かな。恋の天使の存在を調査している生徒と、天使のふれあいのお話。正直あっても無くても良かったとは思うけど、無いと話に天使が出てくる理由がなくなりそうなお話。でもただ単に「普通に」心の問題なので、天使の羽やら落とした心やらはほとんど評価出来ないな。この話は好きじゃない。星2つ

結果

星4+星5+星3+星2/4話=3.5+αの何か、という事で四捨五入してまあ星4つかな。
個人的な印象としては、描写能力は十分素晴らしいのですが、ある程度リアルな恋愛をテーマにしようとしているわりに、男性/少年主人公がそれこそ天使の様に幻想的で良く描かれてしまっているため、ちょっと感情移入しにくいというのがネックでしょうか。
1巻〜2巻を通して読むとその傾向に気がつくのではないかと思います。あまりにも少年達に我欲が少なすぎて、都合が良すぎるとでも言いましょ〜か・・・ね。そのかわりに少女の心情描写は秀逸なので、そのためだけでも読む価値はありそうです。個人的には上記にも書きましたが、女性主人公の話だけに絞った方が良いのではないでしょうか。

追記

少年のリアリティが無いと書きましたが、例えば少女キャラの場合、内面の精神世界と恋愛に関する肉体的欲求

  • 話したい→仲良くしたい→くっつきたい→いちゃいちゃしたい→えっちな事もしたい→もっと好きになる

が緩やかな坂道の様に断絶無く繋がっている様に読めるのですが、少年キャラの場合は(全員とは言いませんが)内面と肉体的欲求の間が坂道ではなく崖の様にギャップがある様に感じるといった所でしょうか。
思春期の少年の持つ強い性欲なんて今更言うまでもありませんが、やっぱりそれにしたって心と密接に繋がっているんよ? と思います。つまり原因(恋心)と結果(性欲)の間の因果関係の描写が弱いのです。女性からみたら少年はこれらを全く別要素としてバラバラに持っていそうな感じがするのかも知れませんが、んなこたありません。
まあ男の場合、

  • 恋心←→性欲

なので、「オイオイ、どっちが先なんだよ・・・」と本人も分からない時があったりしますが・・・。
すっごい個人的な話になりますが、私は若かりし頃、女の子を好きになった時に「ヤリたいから、ヤれそうだから好きになったのか? それとも好きになったからヤりたくなったのか?」で悩んだ時期もありました。・・・真面目で繊細だったのかも知れない・・・いいなあ若いって。
恋愛要素をメインにするなら、もうちょっとその辺の心の動きを少年(あるいはかつての少年)に真面目にリサーチして本に取り入れてくれれば良いんではないでしょうか。

感想リンク

まいじゃー推進委員会!
すすめてくれたのに、結構厳しい評価になってしまい、すいませんとしか・・・。
ライトノベル読もうぜ!