ぼくと彼女に降る夜
ぼくと彼女に降る夜―ナイトサクセサー 夜を継ぐ者 (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 八街歩,深崎暮人
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 文庫
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困った・・・正直とても困った本だった。tonboさんとのやり取りのあと使い出した付箋紙をこんなに大量に消費した本は初めてなんですね。色々と突っ込みどころ満載な方向で。
ストーリー
主人公の清夢騎士(すがむないと)はどこにでもいる高校一年生を「装って」暮らしている少年だった。その理由は彼の辛い過去にあったのですが、その「偽装」は知性の面と身体能力の面の両方に及んでいた。そうして過ごしてきた15年間が、一人の少女・ヨルミルミとの偶然の出会いによって書き変わって行く・・・。魔乖咒(まかいじゅ)を操る魔乖術師との戦いに身を投じて行く主人公達姿を描いた現代ファンタジー作品。
設定は・・・
作者があとがきで言っている様にありふれた設定です。
本当にそのままどっかからパクってきただろコレ!?と思わないでもありませんが、それでも楽しければいーやー!というのが私個人のスタンスなので、その辺については特にまあいいやって感じですけど・・・まあつまりぶっちゃけ聖杯戦争ですねこれ。
戦う理由こそもちろん別に描かれていますんで、その辺は良いんですが・・・説得力を持たせるに足る説明が無いのがちょっとアレですね。途中魔乖術師達に敵対する組織が出てきたりするんですが、その辺の背景の歴史描写とか、ちょっとあんまりだ。作者が予め知っていた「高校生が習う世界史」からそのまま引っ張ってきたような説明と、その荒唐無稽で大規模な組織の感じがかなりへっぽこな感じがしてしまった。
でもまあ、オリジナリティーが無い訳でもないんで、世界観に関してはまあ許せる感じではあります。
すっごい違和感を感じるのが
キャラクターが落ち着かない。もっとはっきり言えば、こんな奴ぁいねえ!
あっちでこういう行動をしたかと思えば、こっちでその印象をひっくり返すような発言をするようなところもあります。なんとなくキャラクターの全体像がぼやけて「ああ、彼や彼女はこういう人格の持ち主なのね」っていうことが伝わってこない。特に主人公のナイトくんですね。彼はヤバいですよ!
「そのかわり、わたしもあなたのことはナイトと呼ばせてもらうわ」
「あぁ、別に構わんが」
・・・ヘンだろこんな喋り方する十五歳。「構わんが」って・・・変な喋り方にかぶれたオタクか!?
「あぁ、付き合おう、例え、地獄の果てまででもな」
だから一体あんたは何モンなんだってんでしょうか!? 普通の高校生でしたよね!? 傭兵部隊出身とかじゃないですよね!? 名前はナイトでも幼い頃から主に仕えていた職業騎士じゃないですよね!? もう・・・なんですかこの高校生は。イタい。名前だけじゃなく描写までイタい。きっと親はDQNだ。つーかよく考えたらこのサイトに出てきそうな名前ですね。イタい。本当にイタい。
ヨルミルミさんは比較的いい感じですが、ぶっちゃけ某「あかいあくま」の劣化コピーの様な気がします。強い所も弱い所も、戦う理由も、その弱さも。料理はヘタみたいですけどね。ドイツ語中心のルビが振られているので余計にその印象が強いです。
設定の話をした時にも同じ事書いていますが、別に何をどう参考にしてもいいと思うんですけど(これはホント)、ちゃんとした肉付けやこの作品ならではのキャラの個性をご都合主義的でなく描き出して欲しいですね。中途半端な描写が目立って、付けたしとかつぎはぎにした感じが強いです。
それから
日常パートの登場人物である仁野陣矢(通称ジンジャー)と佐藤杏子(通称シュガー)も結構違和感がある。こんなあだ名で呼び合う変な高校生っているんかいな? しかもシリアスにそれで会話する高校生って・・・ヘンだ。
ラスト近くでジンジャー君はシュガーさんにこう言います。
「意地をはるなって。あいつがそれだけの覚悟を決めたんだ。せめて俺たちくらいは笑って見送ってやろうぜ?」
ナイトくんは自分が生きて帰れないかもしれない戦いに行くために二人に一応の別れを告げるのですが、その後のシーンです。ナイトくんはもの凄く深読みすれば「死地に赴く」っぽい事は言っていますが、普通はそうは受け取れないやり取りです。
ちなみに彼ら(ジンジャーくん&シュガーさん)はナイトくんがどんな問題に巻き込まれているか全く知りませんし、これは彼がただ早退するだけの時に起こった会話です。彼らは普通の日常を生きているただの十五歳のはずですが、どこの古兵(ふるつわもの)の発言ですかコレ? ナイトくんはどうあれ、彼らからみたら早退するだけなんですけど!
その他の人たちは・・・
もう一人の重要人物のアイリスさんとナイトくんのやり取りはなかなか良かったですね。独特な口調には違和感がありましたけど、まあそこそこ結構楽しませてもらいました。でも彼女も・・・某あいんつべるんの匂いがします・・・ちょっとどーにかならんか・・・。いや本当にね? いいんです別に、私はたとえ明らかなパクリだったとしても面白く読む事が出来ればもうなんでも許せる人なんです。でもなあ・・・良く書けてないし・・・。失格だな〜。
もう一人出てくるマシューさんという人もいるんですが・・・彼はもう最低の描写ですね。ダメのダメのダメ。何この三下?一応恐れられているはずの人なんですが・・・行動と思考が完全にヤクザの鉄砲玉クラス。
言いたい放題だけど
星2つ。星1つでもいいね久々に。
世界設定とかにも稚拙な所は散見されるけど、そこはまあ及第点をあげます・・・が! とにかくキャラクターから感じる違和感が酷いと思いましたね。全くダメ! 全く命が通っていない感じがする。つーか、これデビュー作じゃないのねって事が一番の驚きです。
このつまらなさはアレに似てる・・・そう「僕たちのパラドクス」ですね。
まあその・・・この作品の主人公のイタさを味わうために、買って読んでみるのも、ありかも知んない・・・。
あ、そうだ、イラストレーターの深崎暮人氏は良い仕事してたと思いますよ。口絵カラーも、本編内の白黒もね。文章より間違いなく見応えがあります。
追記
なんとなくあのゲームに似てるなーって印象を持った本が2冊続いた訳ですが、作者の力量で全く面白さが変わるもんですね。もしこれら作品の作者があのゲームの影響を何らかの形で受けていたとしても(もちろん単なる個人的な印象の問題の可能性もありますが)、絶対銀月のソルトレージュをおすすめします。