レギオン きみと僕らのいた世界

レギオン—きみと僕らのいた世界 (電撃文庫 す 3-13)
レギオン—きみと僕らのいた世界 (電撃文庫 す 3-13)杉原 智則

メディアワークス 2007-04
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ストーリー

ぼく」と自分を表現する風見徹(かざみとおる)は、図書室にあったノートに記された物語に引き込まれる。それは同級生の美少女・矢島葵(やじまあおい)の書いた、オリジナルストーリーだった。徹は葵に頼んでその話を読ませてもらう事に成功して、彼女の紡ぎ出す物語にのめり込んで行き、それと一緒に葵にも気をかけるようになって行く。しかし、無秩序に発生しだした奇妙な「眠り病」と違和感が彼らの日常を覆い始めていて・・・。
おれ」と自分を表現するトール・カザミは自分から全てを奪った「異界」と呼ばれる奇怪な人類の敵と戦うために「騎体」と呼ばれる戦闘機械を操る兵士となっていた。「眠り病」をもたらし、全てを飲み込む異界との戦いを過ごすうちに、トールは「自分が一体何者なのか」という疑問を感じ始める・・・。
2つの世界、2つの物語。どちらが夢で、どちらが現実か? どちらが過去で、どちらが未来か? どちらが嘘で、どちらが本当か? 平行して語られる物語の終着点に何が待つのか?

透の世界

これはもう普通の現代社会なんですが、奇妙な集団や、得体の知れない「眠り病」を含む奇怪な空気が包んでいます。また、透の学校生活と一緒に葵の綴る物語が語られる事によって、物語での変化と世界の変化が奇妙な符号を見せていたりなど、ホラー調な作風となっています。
葵の綴る物語に登場する「エリカ」というキャラクターと、主人公の名前が、二つの世界の関連性のような物を匂わせるのですが、透の世界では殆ど論理的な展開は無く、また徹自身がただの学生であり無力であるという事も含め、不気味な黒雲が立ちこめている終末感とでも言えそうな何かがあります。

トールの世界

異界の侵攻を受け、人々が次々と死んで行く殺伐とした世界です。騎体という戦闘兵器で「眠り病」をもたらす異界との終わりの見えない敵との戦いがひたすら続いている世界です。主人公はトールですが、徹に比べて過酷な世界に生きて来て「大切なものを全て奪われた」という描写がある事から、空虚な印象を与える人物として描かれています。
兵士としての過酷な日常を送りながらも、その割には自己という物に対しての論理的な考察や、人間と騎体とのリンクを持つために意識という物について高度な思考を働かせたり、人間の本質とは何か、魂とは何かといった事を考えたりするSF的な作風となっています。

総合

二つの似ているようで全く違う世界を平行して描くというのは面白い試みでしたし、全体的にシリアスな展開が悪くないです。この本一冊でホラーとSFが同時に楽しめる贅沢な作りですね。
星4つ。
二つの世界が次の話でどのような繋がりを見せて行くのか、過去と未来なのか、幻想と現実なのか、それすらはっきりとした答えが出てきませんが、二つの世界の境目が読み進めるに従って曖昧になって行く描写には奇妙にゾクゾクする感じがありますね。
あとがきによると次が完結編とのことですが、今からちょっと楽しみですね。次は完成度次第で5つ星が出るかもしれない予感がありますが、はて、どうなるのか。
イラストは山都エンヂ氏です。そんな嫌いな絵柄ではないですが・・・うーん、作品のイメージと意外に合わないような感じがしないでもないのです。しかしもっとシリアスよりの絵を描く絵師さんだと、作品全体があまりにも重々しくなって読むのが苦しくなった可能性がありますね。なので全体のバランスを見た場合、良い絵師さんを選んだと言えるのかも知れません。