煉獄のエスクード(3) RHYTHM RED BEAT BLACK

ストーリー

教会の「エスクード(盾)」として活動をしていた深津薫(ふかつかおる)は必要にかられて日本の高校生に身をやつして再び学生として振る舞っていた。実体はある高校で連続で発生している失踪事件の調査であり、学生に戻った訳ではないのだが、任務そのものに懐かしさを感じる薫であった。
時を同じくして、薫はある一人の魔術師と行動を共にすることになっていた。その魔術師はフィンランドの事件の時に登場したクラウディアの弟子である少女・ルクレシア(ルーシア)という。その魔術師はかなり問題がある性格ではあったものの、これは教会と魔術師側の取引の結果であり、拒否する事は出来ない内容だったのだが・・・。
調査を続けるうちに失踪事件も一定の進展を見せ、学校の地下から巨大な魔獣ケルベロスの屍骸が発見されたのだが、その屍骸が発する光に包まれた時、薫達は自分たちが想像を絶する場所に存在する事に気がついたのだった。
人間と悪魔達の歴史の裏に隠された暗闘を描いたシリアスファンタジーの第三弾。

3巻は

半分はルーシアの為にあった話と言っていいと思いますね。実に面白いキャラクターですね。魔術師に対して敵意をもっている教会側の人間ですらついつい「愛らしい」と思ってしまうような仕草や動きをしているんですが、その第一声が、

「跪きなさい、この虫けら」

「で、でも、薫さんとなら上手くやっていけると思うんです。こんなとろくさい女ですけど、どうかもらってやってくださいっ!」

まあただ単に正直なだけだったりするんで、この時は人に言われた通りに言っていただけだったんですが、つまり性格の方面での秘密持ちで、一定周期で、

  • 素直でお馬鹿で純真で愛されやすい少女(上記の発言をかました問題児)
  • 高慢ちきで態度がでかく敬遠されがちなプライドの高い少女(下記の発言をかます問題児)

「あら、わたしにこんな所にまた来いとでも言うのかしら、牧師。手を借りるのは貴方がたなのですから、訪ねて来てくれるぐらいしてもいいと思いますけど?」

「こ、こんな侮辱を受けたのは生まれて初めてよっ! わたしとあのクソババアのどこが似ているか言ってご覧なさいっ」

を行ったり来たりするという問題児なのですね。しかしこの設定が色々理由付きで考えられていまして、とても魅力的なキャラクターとなっています。『天然の一点物だからこそ最悪』とか『二重人格だからこそ萌え』とかの二つ名を付けたいくらいのギャップが素敵です。
こういう問題行動の多いキャラクターを主人公の深津薫と組ませたのは大成功だと思いますね。彼は主人公ですが、覇気とか突進力とかに欠けるタイプなので、こういう暴走娘と一セットで行動させるとバランスが取れていいと思います。薫の突っ込み属性(多分)も今後生きてくるんではないでしょうか?

全体は

薫/ルーシアコンビと、真澄/ヴァルデリーという変則コンビの話を交互に語るカタチで綴られます。ヴァルデリーというのはやはり魔族の一人で、今まで名前だけ出て来ている盟主トゥロワヌの下僕の一人の妖艶な女魔族ですね。とにかく年上コンビはエロい。BL方面でもエロければ、普通の方面でもヴァルデリーがエロいのでとにかくエロい。正直エロは任せたという感じな位ですかね。
今回も実はレイニーは殆ど登場してくれないんですけど、なんとなく仕方がない感じがしますね。なんといっても強力すぎるんですね・・・いろんな意味で。

実は

今回も菊地秀行の書いた「吸血鬼ハンター”D”」の内のある一作を思い出したんですが(タイトルは秘密にします。出した瞬間にネタバレっぽいんですんで)、まあモチーフにしている可能性は大かも知れませんけど、全然違う話として楽しめますね。
・・・しかし扱いの難しいネタを持って来てますね。この作家はわざと自分の首を絞めているんではないだろうかとか思っちゃいました。

総合

星4つですね。
吸血鬼がベースにいるので、物語自体がやっぱり微妙に悲劇と親和性が良いというのはアレですけど、そこに上手く生き抜き部分(つまりルーシアとか)なんかも挟めるような感じになって来ているのと、話が全体で動いてきつつあるのが大きいでしょうか。
世界全体の大きな秘密の一端も明かされつつあり、今後の展開が楽しみですね。つまり、魔道書「外道祈祷書」の秘密・・・という事になりますか。大体の所想像は付きますが、怖いですねえ。
ともぞ氏のイラストは特に口絵カラーイラストが美しいですね。しかし薫はもうちょっと厳しさを増した顔にした方が良いんではないかなあ・・・死地を何度も潜って来た強者なんですから。天下御免の向こう傷の一つや二つ付けてやった方がハクが付きそうだけど。今のままだとなんか軟弱な少年に見えすぎるというか・・・不満と言えばそのくらいですかね。