ジョン平とぼくと

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ストーリー

魔法が普通に世界に満ちている世界。そこに暮らす学生のぼく・北見重(きたみしげる)は、彼の使い魔のジョン平と一緒に今日も学校に行く。ジョン平はラブラドールレトリバーに似た犬で、特に何か力がある訳ではないけど、彼の忠実な味方だ。
数週間後に控えた魔法の実技試験がちょっと気が重い事を除いて、特に何事もない日常をおくっていたジョン平とぼくだったが、あるとき科学の先生が変わったのを切っ掛けに学校内に不穏な空気が漂い始める・・・。

ジョン平は実に、かわいい

使い魔というだけあって、ジョン平は犬ですけど、しゃべります。長年一緒にいて主人との間の魔法的な繋がりが強くなっていくと、動物はただの動物の枠組みを越えて知能や寿命を手にする事になる、という設定があるせいですね。これを本の中では「馴致(じゅんち)」と呼んでいます。なじませる、とかって意味ですね。
という訳で、馴致のすすんだ使い魔はしゃべったりする訳です。

「じゃ、やくそく、してた、さんぽいこう、しげる。いいてんきだ、よ」

「じょんぺい、は、しげる、と、いっしょに、いる」

死ぬ程可愛い。
まあ可愛い筆頭としてジョン平をあげてますけど、使い魔は基本的にしゃべる動物なので、全般的に可愛いのです。
ちなみに重くんの家には父の使い魔・エンダー、母の使い魔・ジルバというのもいますが、猫のジルバはともかく、エンダーはなんとパンダです。馴致の進んだ使い魔は主人と似た思考と行動をするようになるため、重くんの前でエンダーはまるで父親のように振る舞います。パンダですけどね。

魔法世界の仕組み

これについては結構細かいところまでよく考えられていまして、最初は結構「良くあるネタっぽいに違いないな」と思っていたんですが、単純に「そういうものがある」という事にせずに、色々な物理現象を交えつつ必要な時に必要なだけ説明を入れてくる感じてして、読み終わった時には「いやあ、良くできた設定だなあ」と思うに至りました。
魔法の呪文なんかもあったりするんですが

「ランドセル。かえで。ろうそく。ぶどう酒。くじら」

とかだったりします。変な感じですが、面白いですね。ここだけ見るとお子様向けって感じですが、かなり良くできた設定です。それを上手く現実世界になじませて話を作っていますね。

でもなあ

ほのぼの展開とその後の急展開の落差が大きすぎるので、ちょっと後半は「アレ〜?」って感じになってしまいました。
ほのぼのだったら許せた主人公の性格も、火事場展開するようになるとイライラしてくるもんでして、後半は主人公の煮え切らなさ、意思表示のつたなさ、世間から自分を微妙にずらしている感じなどが、いやな感じに思えてしまいました。・・・このへんは伏線らしきものを消化しきっていないところにも理由がありそうですね。
戦わなくても良いところで戦って、戦うべきところで逃げ出している感じ。彼なりに頑張ったわりにはラノベ的ご褒美も無いし・・・結局空回りしていたって感じが強くて、読了感はあまり良く無かったですね。
一言で言えば「主人公の”ぼく”に、作品内で見せ場が全くないから楽しめなかった」ですかね。

・・・ところで

「秘密にされる事」でよりいっそう傷つけられる事ってあるよね?
これは読んだ人なら分かってくれると思いますけど、友達に対して「そんなもん友情でもなんでもないわい!」とか、主人公に対して「本当にニブくてバカで駄目なヤツだな!」とか思うのは俺だけですかね。・・・近親憎悪? いや流石にここまでヘタレじゃないね。

総合

ジョン平が可愛いので星3つかな。
前半のほのぼのムードが良く、そのまま行ってくれれば雰囲気で星4つとかもありえた分だけ惜しいなって思いました。
後半の展開で「純粋ほのぼのエンタメ作品」から一気に「リアル青春ダメ物語」になってしまって、ちょっとほのぼので通してくれればもっと良かったのにと思えた作品でした。
特定の人にはもの凄く主人公の気持とかがわかるのかも知れないですが・・・モテない空回りの青春送ってきた人とか・・・でもわざわざラノベでそんなプチイタい本、読みたく無いよね? なにこの痛痒い読了感。
・・・でもまあ、次が出ているみたいなんで、今回の痛みを越えて成長した主人公の姿が見てみたい気もします。
銀八氏のイラストは特に動きがある訳ではないですが、作品のイメージに良く合っていて良かったですね。

追記

そういえばこの本で「なんか伏線の消化とかが中途半端でムカつく」とか「主人公がだらしない」とか思って嫌になった人は以前紹介した「福音の少年-錬金術師の息子-」を読むとすっきりするんではないでしょうか。あちらもオリジナリティーに溢れた世界観ですし、主人公がへたれなのも同じですが、最後の方はばっちりと締める作品となってます。