BLACK BLOOD BROTHERS(3)

BLACK BLOOD BROTHERS(3) -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区震撼- (富士見ファンタジア文庫)
BLACK BLOOD BROTHERS(3) -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区震撼- (富士見ファンタジア文庫)あざの耕平

富士見書房 2005-03-18
売り上げランキング : 9471

おすすめ平均 star
star赤と黒の交錯
starスロースターターのエンジン着火かな?
starはまりました!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

さて、立て続けに読んでいるので他が色々な意味で疎かになっているのですが、生きているのでいいやもう。

ストーリー

「九龍の血統」が、確実に特区内への侵攻を進めている気配を察知した特区の重鎮達が警戒感を高める中、特区内に誕生した「九龍の血統」を討ち果たしたジロー。しかしそこへ更なる存在が姿を現す。「九龍の直系」を名乗る吸血鬼・ヤフリー・趙(チャオ)。彼の存在そのものが、ジローを追いつめる。彼の背後に見える「過去の遺恨」が。
そんな緊迫した状況のなかで、ジローは決断する。
「特区を出る」と。
自分たちの存在こそが危険を呼び、周囲に血と危険をまき散らし、そしてコタロウを脅かしていると。しかしそんな彼の決断をおかしいと感じる葛城ミミコ。ジローが少しも悪く無いのに、なぜ彼が苦しまなければならないのか分からない。だが混乱するミミコを残し、ジローはミミコの前からコタロウとともに姿を消したのだった。
しかし話はそれで終わらない!そんな嵐のような出来事の後、話の中心にいつだって存在していたコタロウが、ジローに反抗する!
蒔かれた伏線を一気に回収するかのように収斂し、大バトルの様相を呈するシリーズ第3巻。

正体を現し始める敵

「九龍の血統」の一族。
それはジローを含め、特区のあらゆる所に因縁と怨嗟と憎悪を呼び覚ます存在です。彼らは敵として登場するのですが、それでも非常に魅力的です。
特に2巻でも少しだけ出てきたカサンドラ——カーサですが、彼女の存在そのものが奥深いですね。何となくですが、彼女が何を望んでいるのか想像はできなくも無いのですが・・・口にするのは野暮でしょう。

コタロウ本領発揮

もう一言でいえばこれに尽きるかもしれないですね。別に突然凄い能力芽生えるとかではないですが、確実に、着実に、しかし無意識に「正しい方向」へ兄を導こうとするコタロウは、確実にキーマンです。
「特区を出る」と言い放った兄に対して、彼は真っ向から反対します。「殆ど絶対服従」で「常に完全に信頼している」兄にです。

「その……さ。なんていうか、上手く言えないんだけど、とにかく……、いまみんなと別れるのはよくないんだよ! 一回セイやケインさんとちゃんと話そう。その方が絶対いいから!」

言葉だけではありません。彼は実際に行動でその意思を貫いてしまいます。

ミミコ本領発揮

コタロウに続いて誰が光っていたかと言えば、何の力も無いと思われていた葛城ミミコ、その人です。
吸血鬼という強大な力をもった存在の前で、ただのカンパニーの一介の調停員である彼女の力が及ぶモノなど何も無いと思えますが・・・この3巻は、葛城ミミコの「小さいけどとても大事な一つの発見」のための話とも言えます。
この3巻での彼女の活躍はとても大きな転換点の一つですね。
とても奇妙な話ですが——ジローとコタロウに味方する他の全ての勢力は「ミミコがたった一つの正解へと辿り着けるように導いて、そしてその正解をジローへと伝える事を実現するため」にこそ、その力を振るったと言えるでしょう。

いつかそれは、母なる海へ。

誰がミミコにこの言葉を言わせたのかまでは分かりませんが、それはもしかしたら「特区」に宿る巨大な意思のようなものが彼女に天啓のように与えた言葉だったかも知れません。

そしてジローですが

今回は結構みっともない所を見せている彼ですが、それは彼の実直さ、誠実さ、愛情、責任感の現れでもあります。まさしく押しつぶされたバネが一気にはじけるかの様な大爆発を見せてくれます。まさしく「銀刀」の名に恥じない暴れっぷりでは無いでしょうか。

もちろんですが

結果として「九龍の血統」の侵入を許した特区ですが、それを指をくわえてみていた訳ではありません。
カンパニー、セイ、ケイン、そしてトリックスター的な位置に存在するぜルマンを含めた全開の戦闘が見られる話でもあります。彼らが如何に特区を守り、人を守り、吸血鬼を守ってきたか。これだけでも今まではっきりとした動きを見せてこなかった分、大激流となって物語を流れていきます。
彼らの代表として、ある一人の登場人物の台詞を引用してみましょう。

「よく聞け。二度とは言わん。私は、ここで生まれ、ここで育ち、ここに帰ってきた。死ぬのも、ここだ! 特区が滅びるなら、喜んでもろともに滅びる。誰にも口出しなどさせん。わかったな。二度と戯れ言を吐かすな!」

これは痺れますね。こう言った一つ一つの魂の流れそのものが特区を支えていると言えるでしょう。

総合

文句無しですね。星5つ。
一段落といった感じではありますが、アクション、構成、そして大きな流れの転換。見所は沢山あります。
実は私は「この作者の語りは時々あまりにも正論過ぎて、正論を通り越して説教くさい」と思っている(た)んですが、吸血鬼という数千年を生きる闇の生き物と言う存在がそれ口にする事で「重みのある当然のもの」として受け入れさせてくれている様な気がします。
・・・こう言ってはなんですが、幾ら自分を犠牲にしようとも「クスリをキメた十数歳の若造」のキャラクターが口にするものとしては、この作者の用意する台詞は「あまりに強過ぎて」役者不足に感じてしまいます。
激しい意思を感じさせる言葉には、それに耐えるだけの役者が必要だったのだな」・・・なんて思いました。この話では違和感無く台詞の一つ一つが実にしっくりきますね。Dクラッカーズのファンの人には申し訳ないですが・・・。
さて、この展開を踏まえて4巻はどういった話になって行くのか興味は尽きませんが・・・心配する事無くこの流れに身を委ねて、最後まで読んでいきたいと思います。