サンタ・クラリス・クライシス

ストーリー

高校生の桐生浩二はクラスメイトの桜智子に一方的に強烈な恋心を抱く少年である。しかしクラスメイトからの評判は彼の間違った美意識やらで平均的どころか下の方にいる少年でもある。
智子への思いに日々悶々と過ごす浩二であったが、あるとき突然空から金髪美少女が振ってきた! 彼女は自分をサンタクロースだといい、また実際にそうであるらしい。サンタのソリにも乗っているし、謎めいた不思議パワーのようなものも使える。ソリを曳くのはトナカイではなく得体の知れない巨大ペンギンだったが・・・。
サンタの彼女・クラリスはサンタクロースとしての修行をするために遠く離れたフィンランドからやってきたらしい。クラリスは浩二の所に居候する事になり、その「一宿一飯の義理」から浩二の智子への恋を成就させるべく奮闘するのですが、クラリスは今まで誰かを好きになった事が無いのでどうしたらいいか分からない。浩二の逆噴射的な恋と、クラリスサンタの奮闘を描くラブコメディ。

なんてベタな設定だ

空から美少女サンタが振ってくるってあなたそれなんてエロゲ? って感じですが、それを上手く料理してこその話ですね。こう言っちゃなんですが、至極アホらしい話です。ですがキャラクターたちの内面や、内面が作り出す得体の知れない青春的行動が上手く書けていて飽きさせませんね。
もちろん「現実にこんなヤツおらんだろ!」みたいな人物は出てきますが、その辺りを上手く処理していかにもラノベ的ラブコメに仕上げています。

キャラクター描写がいい

桐生浩二

とにかく主人公の桐生浩二のその性格が生々しくありがちで、かつ恥ずかしい。ちなみに彼にはジャクリーンという親しい人がいるのですが・・・。

「浩二クン、寂しかったかにゃー? 安心だにゃっ! ジャクがお相手仕るにゃ!」
脳内想像の産物でなければ、最愛の恋人になれたに違いない、と浩二は強く思う。

引用箇所から分かるように脳内彼女です。実にイタい。そのイタさがまたいい。しかし彼は脳内彼女に果敢に別れを告げ、現実の恋へと邁進していく訳です!果敢にも!無謀にも!

智子フレイバー、補給――――――。

智子ビジュアル、補給――――――。

智子ヴォイス、補給――――――。

無限リピート、開始――――――。

ご覧の通り、もう殆ど変態です。しかし恋に落ちるというのは一種の狂気のようなもの、あるいはインフルエンザの様なモノであるのだからして、この位の変態的な行為は見逃してやる大きな広い心が必要です、女性のみなさん。
彼の奇矯な行動はこれに留まらず、内面の荒れ狂う恋を現すかのように智子相手になると完全に珍妙な生命体となって行動してしまいます。

一瞬で恋に落ちたので激しく動揺し、時間を聞かれたのに浩二は「水曜」と答えた。
智子が怪訝な顔をしたので浩二はさらに慌て、「ウェンズデー」と英語で言った。すぐに意味が不明なことに気づき、浩二は慌てに慌てた。
智子が時間を尋ねていることの意味を文法レベルで理解して、しかしもうしゃべれなくって、浩二はなぜか腕時計を外して智子に投げつけ、そこから逃げ出した。下駄箱まで走って、そこで荒い息をつきながら己の寒さに驚愕した。
「オレ、マジで! マジで頭弱い人だろ〜〜〜〜〜ッ!」
そう絶叫して、片っ端から下駄箱の扉を開いて回った。何かをせずにはいられなかったのである。

なんてキテレツな生き物でしょうか? しかし恋とはこういうもの。人を人からただのケダモノあるいは奇怪な生物まで落としたりするものです。まあ上向きに作用する事もありますけど。
とにかく浩二はこういう少年で、爆発空回り少年です。智子の心が広くておおらかでなければこの第一印象で彼の恋は終わっていたはずですが、運が良かったですね。笑いをとったと解釈してくれました。

クラリス

サンタクロースの見習いです。なぜか浩二の家に居候する事になりますが、今まで父と母以外の人に殆ど会った事がないために一般的な人間の感情に疎く「恋」とか「人を好きになる」というキモチが分かりません。まあその辺りを学習するために修行に来た訳ですからして・・・。好きという感情について聞かれたとき、

「ない。わたし、ずっと家で育ってきた。学校行ったことがないから、同じ年の友達ができたことがない。したがって、好きになったことがない」

などと答えたりする。しかもしゃべり方も微妙。
しかしちゃんとフィンランド国籍を持っていたりしますんで、これ幸いと浩二と同じ学校に通い、社会勉強に勤めようとする訳ですね。ただし、猛烈なナイスバディを誇る金髪美少女であったりしますんで、かなり混乱を起こしてくれます。
まず学校に転入するときの先生からの紹介。

「えー、今から皆さんを調教することになるフィンランドからの留学生、クラリス・ユーティライネンさんだ」
と自分の願望を述べてしまった。

どうもこの先生は金髪少女に調教されたいらしいですが、いずれにしてもクラリスの「恋を知るため」の勉強生活が始まる訳です。クラリスの言葉を借りれば、

「わたしは人を好きになる、ということをクリスマスまでに学ぶ。でもって浩二にクリスマスに智子をプレゼントする。これが私の目標。邁進。邁進。邁進。サンタ邁進。クラリス邁進。クリスマスまでに邁進」

となる訳です。一部とんでもない事を口走っていますが、真剣で真面目で一途なクラリスは実に可愛らしいですね。普通の少年なら一撃でやられそうですが浩二は既に恋の病に罹患しているため無事です。

まあ・・・

およそご想像の通り、恋には障害がつきものでして、浩二の恋も、クラリスの学習も、奇妙な方向に捩じれていくんですが、そこに到る過程がまた実に青春だったりします。突飛と言えば凄く突飛、でもちょっと遠目で見ればどこにでもありそうな恋愛がここにはあります。
浩二の空回り奮戦記も、智子の複雑な内面も、クラリスの感じる違和感も当たり前と言えば当たり前。でも真面目で、真面目だからこそおかしくて笑えて、ちょっとホロリ、そんな話でしょうか。

総合

星4つ。
短い話ですがきれいにまとまっていて、読了感も爽やか。想像以上に面白かったですね。
現役の学生諸君にはひょっとしたらイタい話かも知れませんが「そんな時期は十年以上も前に通り過ぎちまったンだ〜ッ!」というオジサンは回春薬として一冊どうでしょ? という感じですかね。
読んでいてしみじみ思うのは、ヤマグチノボルが過ごしてきた青春時代は多分メチャクチャこっぱずかしいシロモノだったんだろうな〜という「同士を発見したような気持になる」ってことですかね。
イラストは・・・まあ女の子は可愛らしく描けているかな。まあまあってことでいいかな・・・。