アンダカの怪造学(3)デンジャラス・アイ
アンダカの怪造学(3) デンジャラス・アイ (角川スニーカー文庫) | |
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ストーリー
仇祭遊と名乗る奇怪な少年がいた。
顔を斜めに走る傷跡がまるでジッパーのように見える奇怪な風貌をしたその少年は、空井伊依(すかいいいより)の幼少の時代を知る幼なじみであり、伊依が怪造学に足を踏み入れる事になった切っ掛けを作った少年。
しかし・・・伊依の知っていたかつての純真な少年であった遊は、「ある事件」を切っ掛けに全く別の人間のようになり、そしてある大それた野望を持って伊依の前に現れた——「自らこそが正しい」と信念を持って。
そして、その少年の出現と時を同じくして、怪造学を学ぶための学校が一つ崩壊したというニュースが入ってくる。そしてあの舞弓がその犯人と戦い、死に至りかねない怪我を負ったという・・・。
緊迫を孕んだ信念の戦いが展開される第3巻。
寂憐院の一族と伊依
今の姿からは想像もできない程の凄まじい伊依の過去が明かされます。
もともと父・滅作からの扱い・・・という怪造修行もメチャクチャだったようでもありますが、それ以上に寂憐院という家にいた時の伊依が凄いですね。なんという扱いを受けているのか・・・としか言いようがありませんが、本当にどうやって現在のようなある意味まともな少女に育ったのかが謎ですね。
というか、そのあたりの展開は少年漫画的都合の良さを感じなくもないですが、まあそんな感じの話しだし? シリアスなようでシリアスになりきらない、不思議な空気を持った作品ですね〜やっぱり。
本編は
人間最終兵器の戦橋舞弓(たたかはしまいゆみ)が半ば戦線離脱状態で、意地はって学校に出てきたりするものの話している最中に「痛みで失神」とかトンデモ行為を繰り返す事になったり、転校生としてやってきた遊が伊依を「親しい間柄」と表現した事でクラスが大騒ぎに発展したり(伊依人気が凄いですね)、担当教師がまた変わるハメになった伊依の新担当教師が実に神的にアブナい人だったりと、色々ありますね。
今回はシンプル「信念の戦い」です。何のために伊依が怪造学を行うのか? 怪造生物たちは彼女にとって何なのか? 怪造学は人にとって過ぎたおもちゃではないのか? 怪造学は人を幸せにするのか? といった「伊依の根っこ」に関わる問いかけが次々とされる事になります。
「みんなと仲良くしたいっていうのと、みんな消えてしまえっていうのと、どっちが狂ってるっていうんだ!」
本編である人物から発せられた問いかけですが、ある種人間の本質をついてますね。深刻ではないにしても、それなりに共感を感じる一言でしたね。
総合
星4つ。
・・・しかし何だろうこの不完全燃焼感。つまらなくないし、さくさくと読んでしまうし、面白かったとも言えるんですが、何故か星5つには届きません。何か足りないんですな・・・。
・・・渋さ・・・かな? 人生に対する深い洞察からにじみ出た「生きている」という、奇麗事で済まないモノの匂いでしょうかね。そう言ったものが、文章から滲み出てきませんね・・・その分安心して子供にも勧められるエンターテインメント作品に仕上がっているかもしれませんが・・・。
それにしても不思議ですね。話が面白く、語り口も軽妙、表現やキャラ描写の秀逸さ。これらがなまじ良いために、上記で指摘した「足りない部分」が奇妙な空白となって心に残ってしまう様な気がするんですかね。それで星が1つ減っている様な気がします。
エナミカツミ氏のイラストは相変わらず。良いですね。