レギオン きみと僕らのいた世界(2)

レギオン 2—きみと僕らのいた世界 (2) (電撃文庫 す 3-14)
レギオン 2—きみと僕らのいた世界 (2) (電撃文庫 す 3-14)杉原 智則

メディアワークス 2007-05
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ストーリー

ぼく」の風見徹(かざみとおる)、「おれ」のトール・カザミ、二人の世界が幻が二つ重なるかのように奇妙に混ざり始めて、現実と幻想、過去と未来が錯綜する2巻。
果たして世界の真実はどこにあるのか。真実が姿を現し始めた時、彼らが見つけたものとは何なのか。全ての謎が明らかになる2巻。

単純に「お話」として捉えた場合は

透の世界/トールのセカイはもはやこの2巻においては彼らの「今」に明確な区別というものは無くなっていきます。透の日常とトールの戦いは深いレベルでリンクしていき、現実は曖昧に、主体は曖昧に、意識すらも曖昧になっていきます。
しかし、1巻と大きく異なる所と言えば、物語の語り手が完全にトールに移ったという事でしょうか。彼の現在陥っている状況こそがこの物語においての現在であるという悲劇的な状況が明らかになっていきます。ここに過去と現在はつながり、未来に対してのある意味絶望的とも言える戦いが繰り広げられます。
しかしですね・・・。

物語の本質は深いです

この話は分類で言えばやはりSFになるんでしょうが・・・それ以上にですね、何か文章の裏側に人間(作者)が一人突っ立っていて、こちらじっと見ている様な気がします
読み終わった今、この話の本質を的確に表現をすることの難しさに直面しています。本当なら後数回読み直してその上で感想を書いた方が良いかも知れません。思いついた事がどんどん頭からこぼれていく様な気すらします。正直、今現在頭を掻きむしっています。
「意識とは何か?」「人間とは何か?」を深く深く、ある特異点<眠り病>と<異界>という二つを主軸に据える事で語りだしていきます。作者がこの物語を紡ぎだすに至るまでに突き当たった「人という存在に対する葛藤と戦い」が目に見えるかのようです。
時として子供っぽくて感情的、しかし見方を変えると大人っぽくて理知的な物語です。

「ぼくから見えるこの手と、葵から見えている手は違う、でも別のものじゃないんだ」
「いろんなところから見て——」
「いろんなところに光を与えるのが」
「物語」

十回読み返したら、読み返した分だけの物語がありそうです。
単純には二人の時と人を越えて果たされる約束の物語と言えますし、人間の弱さとそこから溢れ出す強さの物語とも言えますし、そして決して理解し合えないからこそ全ての人達は一人ではないと言う、真逆の結論を導くための物語とも言えます。

総合

星5つ。
想像以上の所に着陸してくれました。
物語自体はあの有名なアニメのラストシーンが生み出した苦悩から始まった作品のように思いましたが、その絶望を飛び越えて一つの原点に戻り、そして新しい人の見方を見せてくれました。あとがきで作者が集大成という事を言っていますが、まさしくその通りな作品なのではないでしょうか。
こう言ったらなんですが、スルメイカみたいな魅力がありそうです。これから何度か読み返す事になるでしょう。そしてその度に新しい発見があるような気がします。
つまり、この本は脳と臓物ですね。杉原智則という小説家の脳と臓物が、細心の注意を払って配置された物語です。ごった煮感が強いですが、逆に言えば「この味の元の食材は何?」「この香りは何の香辛料?」というようなじっくり味わうべき本だと思います。
単純な戦いの物語と受け取る事も出来ると思いますが、それだけの味わい方ではもったいないです。・・・ある種の難解さがある事は否定できませんが、それでも真摯に向き合って消化するべき本ではないでしょうか。
イラストは山都エンヂ氏ですね・・・イラスト口絵カラー以外は微妙な出来だと思いますが・・・しかし氏もこの作品のイラストには苦労したでしょう。結論から言えば、本文内のイラストは要らなかったかも知れません。

感想リンク

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