サイレント・ラヴァーズ(2)鋼鉄の英雄

ストーリー

大規模都市カイオン vs 七都市連合軍の果てしのない戦いの続いていく中、歴戦の兵士・アラシに率いられたクロスナイフ小隊を中心に物語は綴られる。
主人公のヒバナは徴兵された一人の少女兵士。ヒバナが故郷の恋人・セツナの事を一心に思い続けている少女。
そしてもう一人の主人公であるアンタレス。彼はVG-TYPE-Dと呼ばれる機体そのものに宿った人間であった。その人間の名こそセツナ。ヒバナにとっては遠く故郷で待っているはずの恋人の魂だった。
過酷な運命に引き裂かれた二人の恋人たちの戦いを綴るシリーズの第二弾。

一巻では「暗い・・・」と書きましたが

まあ話の舞台が最前線ですからこればっかしはもうどうにもならないですね。
このスタートラインの「ある程度の暗さ」は我慢してもらうとして・・・それでもこの2巻はグッと面白くなっています。ある意味、えげつなさは1巻より増してしまっていますが。
1巻の時はあくまで「兵隊」と「兵隊」の争いでしたが、今回は非戦闘員がプロパガンダの為に利用され、虐殺されるという事態が発生します。つまり七都市連合軍の仕業に見せかけた残虐行為を行う事で、連合の評判を失墜させようというカイオン側の作戦です。
これはエグい。で、これを実行するのにうってつけと言える最悪の人選をカイオンは行ってきます。

これに対して

七都市連合はクロスナイフ小隊を差し向けて、実行犯を潰すように上層部から命令をうけます。
アラシ、ヒバナ、そしてアンタレスは蹂躙されたある村に辿り着くのですが・・・そこで彼らが見たものは戦争のはらわたとも言えそうな酸鼻を極める光景でした。

とまあ

戦争の醜さというのは増してはいるんですが、各キャラクターの魅力もグッと増しています。今回は特に隊長のアラシが赤丸急上昇ですかね。
1巻の時こそ血も涙もない歴戦の兵士といった感じでしたが、描写が増えるに従って人間味を増してきまして、実に良い感じに味が出てきていますね。彼はアンタレスに対して結構キツい事を言いますが、その言葉の端々に不器用な優しさとも言えるものを滲ませます。

「お前はもう人間には戻れねえ。そのことをすっぱり諦めろ。諦めて前を向きやがれ」

目の前に二度と触れ合えないと思われる恋人がいるのですから、かなりアンタレスにとっては厳しい言葉ではありますが、それを知らないアラシには気を使いようもないということを考えると、精一杯の前向きな言葉ではありますね。少なくとも冷酷なだけの人間ではありません。
ここ以外のエピソードでも、今回は非戦闘員が巻き込まれている事件という事もあって、さらに彼の意外な人間性を垣間みる事が出来ます。

また

アンタレス(セツナ)もただ自分の運命を呪い、敵を呪い、戦争を呪う、という負の連鎖から抜け出しつつあります。それこそ悲しい事ですが、恋人のヒバナやアラシ、そして助け出した非戦闘員の少女の言葉や態度によって変わっていきます。

(なぜおれは、こんなにも、ヤドリの村の人々の悲しみと怒りを我が事のように感じるのだろう)
(そうだ……。人は自分の身に起きた悲劇を忘れて生きることはできない。おれは虐げられた男だ。抗いがたい大きな力によって、なすすべもなく幸せを踏みにじられた男だ。だから、同じ境遇の人たちの気持ちがわかるんだ)

「おれは悪魔の姿をした人間だ!」
アンタレスは隻眼を激しく輝かせ、天も地も聞けと大声を放った。
「お前は人間の姿をした悪魔だ! お前こそが真の悪魔だ!」

ちょっと痺れましたね。デビルマンとか思い出しました。
1巻が正直なところヒバナの話だとしたら、2巻はセツナ(アンタレス)の思考に比重を置いた話ではないでしょうか。ヒバナもあちこちでいい味をだしていますし、とにかくキャラクター全体の厚みが増した一冊でしたね。

エデン計画

1巻で示唆されていたこの計画の内容が本巻で明かされますが、まあとんでもない計画もあったもんです。
実は個人的には立候補したいですが、まあそれはともかく、この計画の成功という未来にしかヒバナとセツナの幸せが無いのだとしたら・・・まあ現状は応援するって感じでしょうか。
実際なんだかえげつないものを想像していましたが、それ程胸くそ悪いシロモノではありませんでした。

あと

ちょっと特筆しておきたいのは、今回は中立な立場を取っている新聞のジャーナリストが登場するのですが、その時アンタレスとのやり取りがちょっと良いです。長いですが、引用します。

「マツリです。よろしく」
アンタレスはカメラアイを強く輝かせ、マツリに赤い光を浴びせた。
「なぜ、ことさらおれに自己紹介をする?」
「それは――」
ディアブロが物珍しいからか」
「…………」
「物珍しいから新聞記者としてそそられる、物珍しいから取材をしたい、か?」
図星を突かれてマツリは沈黙した。
「おれはディアブロになどなりたくなかった。だが、ディアブロにさせられた。それ以上話すことなどない。何も話したくない。おれの過去については一切触れるな」
「決して、そういうわけでは……私はただ、その、挨拶を……」
マツリは言い訳したが、目はアンタレスを正視できずに泳いでいたし、声は尻すぼみだった。

ここだけではちょっと分かりませんが、このマツリというジャーナリストは、本編で別に悪人として登場しているキャラクターではないという所が注目ですかね。どちらかと言えば戦争の被害者の立場の人ですが・・・。しかし、その善良そうな人の心に残酷な部分が潜んでいるということを表現する様な部分が沢山あります。
今回はメインの話がよりストレートに残酷なので見落としがちですが、敵も味方も同じように愚かで醜いのだという事を強調する話の作りが結構良いですね。

総合

星4つに昇進。
特にラストのあたり、正直な所すっとしましたね。まあ正しいやり方なのかどうかといった所は受け取る人それぞれに任せるとして、個人的には小気味良かったというのが本音です。いい気分・・・ってことにしましょう。
正直、暗い話は苦手なので、波瀾万丈でも未来に希望が持てる様な話にしてほしいですね。特にヒバナ貞操とかは作者にはちゃんと守ってもらいたいです。じゃないとセツナが悲惨すぎるんで・・・。
イラストの水準はメカデザインも含めて個人的に高いと思っていますが、どうですかね? そっち方面に強い人の意見を聞きたい所です。