狂乱家族日記 壱さつめ

狂乱家族日記壱さつめ (ファミ通文庫)
狂乱家族日記壱さつめ (ファミ通文庫)x6suke

エンターブレイン 2005-06-01
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おすすめ平均 star
star原作とは別物ですね。
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star面白いです

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ストーリー

乱崎凰火(みだれざきおうか)は世界をほぼあまねく覆っている大日本帝国の「大日本帝国政務執行機関直属超常現象対策局」に所属する「ありとあらゆる怪異に対応するために組織されたチーム」のトップにいる27歳。名前と所属組織名を聞くと凄まじい猛者っぽい人物を想像するが、本人は眼鏡の似合うひなたぼっこでもしていそうな性格をしていた。
そんな彼の運命は「街で無銭飲食をしまくっているネコミミ少女」をつかまえたあたりから大きく狂い始めて、組織のトップ、政府のトップなどから直々にある指令を下される。この任務の失敗はそのまま人類の運命に関わる——と。
乱崎凰火はその任務を真摯さをもって「全力をもって任務にあたる」と約束するのだったが、その任務とは・・・。

「——彼女と結婚することだ」

ネコミミ娘と。
それに加えて子供となる予定の男三人に女二人までついて来るという。まったく意味が分からない任務ではあるのだが、それにはそれなりの理由があるとか無いとか・・・とにかく、寄せ集めの集団による家族生活が始まるのだった。

トンデモ話としては

うーん、キャラクターは沢山出て来るけれど、どちらかと言えば「ギロチンマシン中村奈々子」に近いかな。アンダカ寄りでは無いようなする。少なくともこの1巻を読んだ段階ではそんな印象。
で、個人的には「アンダカの怪造学」よりこちらの本の方が好み。なんとなく「ちーちゃんは悠久の向こう」の時に出てしまっていた「日日日の臓物」の匂いがこの本の方が強い。
おふざけではあるけど、テーマには「家族愛」——つまり「愛」があって、そして虐げられている人がいて、その人の感じる絶望と怒りとやり切れなさと反撃がある・・・と。またしても学校が大変な目にあってますが、本当に日日日って作家は学校がキライなんだなあとしみじみ思ったり。
多分ですが日日日自身が「型にはまりきれない逸脱児」だったんでしょうねえ。プレス機にかけて強制するがごとくの日本の教育の現場でさぞかし苦労したのかなあ、などと思ってみたりします。

それとやっぱり感じるのは

愛の欠落ですよね。
キャラクター達はそれぞれ作家のある部分から抽出して出来上がっているのでしょうが、愛情という意味で非常な欠落を感じる作りになっています。また、そうした描写の時、匂います。「屁かと思ったらウンコが出ちまった」的な作者のホンネが。愛が足りないという腐敗した匂いですね。
しかしですね、恐らく作者の直面したであろうその欠落や怒りが描かれるとき、そしてその欠落からの再起を掲げるとき、作者の内面の輝きが現れる様な気もします。それこそが楽しい部分ですね。
例えば、愛の欠落から生まれた負の連鎖が下へ、下へと流れようとする時の、冷たい作者の視点

「あなたがいないとお祖母様が怖いのよ、兄様もそう、あなたを殴れないとストレスがたまってみんな不機嫌になるのよ。あなたは呪いの藁人形、あたしたちに攻撃され、あたしたちのストレスをぶつけられるために生きている孤独人形」
(中略)
「あなたがいないとお祖母様はあたしのことを打つのよ。兄様もあたしのことを蹴るのよ。あたしは孤独人形になるのは嫌だわ、あなたが殴られるべきよ、あなたが蹴られるべきなんだわ。」

ちーちゃんは悠久の向こう」でも「陸上部での先輩風を吹かせたただの横暴」の描写がありましたが、それと似た構造をこの言葉の裏に感じます。
そしてここからくり返し書かれる事になるのが、そうした権力構造がもたらす理不尽な要求からの脱却と打倒と反撃ですね。・・・こういう展開は実に臭い。しかしホンネっぽくてエグくて、それだけ魅力的。

「戦うのだ。居場所を得るには戦いが必要なのだ。そこらのけだものどもを見ろ、めそめそ泣いて死のうとするやつなんていないぞ、みんなナワバリを得るために命懸けで戦っている。すなわち居場所を得るために戦わないやつは動物として欠陥個体だ!」

この辺り、おそらく日日日のホンネであり、しかし人は弱くて一人で戦いきれないから、この言葉を家族に言わせるのでしょう。そして家族達が一丸となって立ち向かう訳です。

もうひとつ

印象的に思った所を抜き出しておきます。

まぁ、たかが子供の犯罪ごっことはいえ、苛めというのだったか、苛めを撲滅するなんてことあれくらい派手にやらなくては不可能だからな。遊びで苛める子供たちは遊びで粛正するしかないのだ。どうせ大した理由もない苛めだったのだろう。

・・・暴論ですが、一理あるかなあ・・・なんて思いましたね。
時にサバンナに住むチーターの子供などが、捕まえたまだ生きている獲物を使って遊びながら狩りの練習をしたりしますが、やられる獲物にとっては遊びどころではないですね。
それを人間に当てはめてみて遊びで他人を虐げる人間に「自分がやっている事」を自覚させるには「やっぱり遊びで苛めてやるしかない」という事になりますか。・・・もちろんコレは力がある者が言える暴論ですが、それにしても真理の一端をついてはいるのかな? なんて思いました。
そしてこれらの暴論を「家族だから」という組織の最小単位に落とし込んでそれなりに正当化する事に成功している辺りは、結構興味深かったですね。家族ならそこまでやっても不快じゃないんだな・・・という。
まあ、勘違い家族って言うのもありますので、常に正しい訳ではありませんが、この「狂乱家族」においては正解だったのでしょう。

総合

星4つ。
まあこんなもんですかね。
少なくとも個人的には「アンダカの怪造学」より作者のホンネが出ている感じがあっちこっちでしていて、好感がもてました。逆にそこを不愉快に感じる人も多いと思いますが、その辺りは各自読み比べてもらえると良いでしょう。
イラストはx6suke氏ですが、結構お気に入りですね。特に口絵カラーのキャラクター紹介を兼ねたページはなかなかだと思いました。

感想リンク

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