マテリアルゴースト(3)

マテリアルゴースト 3 (富士見ファンタジア文庫)
マテリアルゴースト 3 (富士見ファンタジア文庫)葵 せきな

富士見書房 2006-09-20
売り上げランキング : 12030

おすすめ平均 star
star深螺さんがいい
star泣きそうでした・・・。
starここまでで一作品

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「せめて3巻まで」という事で読んでみた3巻。

ストーリー

「死にたがり」主人公の式見蛍(しきみけい)と彼の持つ霊体物質化能力、彼に取り憑く幽霊の少女・ユウに、幼なじみの神無鈴音(かんなりんね)、通称・先輩こと真儀瑠佐鳥(まぎるさとり)らが出くわす、怨霊との戦いの物語。
今回はゲストキャラとして蛍の妹・傘(さん)が彼の所に押し掛けてくる展開です。

読む人によってはここより下は『心の安寧を損なう酷評』になっている可能性が高くなっております。

ファンの人は要注意! この感想が地雷です!

地雷と知りつつ、それでも読まれる場合には、以下の「続きを読む」をクリックして下さい(直接このエントリに来られた場合には「続きを読む」は表示されませんのでご注意下さい)。

ゴメン、ムリです

次の話は読まないなあ・・・と思った3巻でした。この話が1巻、せめて2巻なら印象が違ったんでしょうが・・・。やっぱり酷評の類いなので、「続きを読む」にしておきます。この話が好きな人は続きは読まない方が精神衛生上よろしいかと思います。
ちなみに悪い所の前にこの作者の良かった所を書いておきます。

  • あまり設定に凝らなくても物語を面白くするだけの描写力がそれなりにあると思えるので、テーマが違えばまた読む気になれそうな所。

でしょうか。話が違えばまた違った出会いもありそうです。

そうそう、追記しておこう

書いておきたいと思った面白いと思った記述がありましたね。

「はい。人は、意外とスタンドアロンではありません」
「スタン……ああ、独立してないっていうことですか?」
「はい。常時接続です」

この比喩は結構納得しましたね。
まあ個人的な印象から言えばP2Pネットワークの「ノード」に近い感じの印象です。接続時間と回線速度が上がれば上がるほど直接/間接的に接続する相手が増え、また所有するデータが多ければ接続される可能性も上がってくる・・・と。
また、人生の場合、P2Pネットワークに繋がる時間が長くなればなるほど接続数が増えて、より「死ねなく」なります。ですので若いほど(人生P2Pに接続時間が短い)ほど、接続も切りやすくなるでしょうね。
そういう意味では(感想を書いている私より接続時間が遥かに短い)蛍が私から見た時「容易に死を選択しようとしているように見える」のは当たり前の事かもしれません。

この3巻で

式見蛍の「死にたがり」が彼自身から生まれるものではなくて「異物を排除しようとする世界に強制されたもの」であるという事なんですが・・・えー、
「普通の自殺志願者と大きく違わないよ?」
って感じでした。なんでそんな風に思ったかと言えば・・・。
自殺を望む人間は「結果的に自分で自分を殺す」というだけのことであって、全ての自殺者は「間接的に世の中によって殺される」という見方が出来るからですね。まあ、主犯(自殺者)と共犯(教唆犯/示唆犯)の関係になるのかも知れませんが・・・。
人が自ら死を選ぶ理由はそれぞれですが・・・自殺のほぼ全てはこれに当てはまるでしょう。世の中(老いて行く悲しみや、病の苦しみなどの生き物が持つ苦しみや、金銭の問題や人との軋轢などの人間の社会、その他色々の外的要因)に追い詰められさえしない限り(つまり満たされていれば)、基本的に生き物は「生きようとする物」だからですね。
極論では「全ての自殺は他殺である」とも言えるでしょうか。苛めで自殺する少年少女がしばらく前に話題になりましたけど・・・彼らは確かに自殺しましたが、世の中によって殺されたとも言うことが出来ます。

つまり

彼の自殺願望が「異物を排除しようとする世界に強制されたもの」なんていう事は、普通の自殺志願者と構造から言えば大きく変わりない事なので、特に大きな変化とは思えませんでした。苛められている事に気がついていなかった少年が、この話でやっとそれに気がついただけのように感じました。
特に失望させてくれたのは・・・ラスト付近の主人公のこの台詞。

「傘だって……いや、他の人だって……もしかしたら、僕のこと、そうやって思っていてくれる人が、居るんじゃないかって。い、居ないかもしれないけど。で、でも……でも『生きる』って、そう簡単に……僕の一存で……放棄してしまっちゃ、いけない、大事なものなんじゃないかって……思って」

・・・一応の成長と思えますが・・・ちょっとびっくりしました。
彼はそんな当たり前の事を一度も実感しないまま、今まで堂々と「死にてぇ」と言い続けていたんですかね?
自分の命は自分一人のモノだと思っている、恵まれている事にも全く気がついていない「無知が原因の自己中心的な性格をした子供」だと思えました。
愛すべき家族がいて、好きになってくれている女の子がいて、気遣ってくれる友達がいて・・・。
しかし、それらを知りつつそれでも「今が余りにも苦しいので自殺したい」というのならまだ納得出来たんでしょうが・・・それに気がついていないだけとなると、これはもう感情移入できませんね。

まあ本人も

この後の反省の言葉で、

「当然のことだって笑われるだろうけど……皆、前から言っていたことだけど……僕、馬鹿だから。こうやって……こうやって、大切なものがなくなりそうにならないと……心で、その言葉、実感、できてなくて。本当の意味で理解、できてなくて。でも、今は……だから……」

自分の事を馬鹿だと言ってますけど、その通りですね。このシーンで誰にも殴られないのが不思議な位です。流石に失望してしまいました。
まあ「初めて実感出来た」という所は評価してあげますけど・・・そんな事は自殺を扱う物語として1巻の最初の時点からクリアしていなければいけない所だと思いますね。つまり、

  • 「みんなのためにも、自分の未来の可能性のためにも死ねない」

けど

  • 「今の自分がとても苦しいから死にたい」

なんていうジレンマは物語の前提として存在していなければいけない所だと個人的に思います。この3巻のラストの展開はシリアスな成長物語として読めますが、流石に子供過ぎて付いていけなくなりました。
そういう意味では、この話が1巻ならまだ次が読めたかもしれませんが、3巻かけてやっとこれだと・・・流石に主人公の言うとおり、彼の馬鹿さ加減に呆れまして次は流石に期待出来なくなりました。私はこれでこの作品を見切ろうと思います。

ここまで読んで

最終的に思ったのは「この話は結局、持っている者(自殺を真面目に考えた事の無い作者)が持たざる者(自殺志願者)を『分かった様な気になって』書いている物語なんだなあ」という事でしょうか。
2巻の感想にも書いた通り、作者が自殺願望をおもちゃにしているのはこの3巻でも変わりないようにも思えましたし、改めて不快感を払拭する様な大きな展開はありませんでした。
もう、こればっかりはどうしようもない事ですね・・・。あわなかったという事でしょう。

総合

書いても批判めいた事しか書けませんのでこの辺りで止めておきますが、星1つです。
伏線などが後半で張られますが、4巻を読みたいと思わせてくれるほどではありませんでしたね。
ただ、上でも書いた通り文章力はあるんではないかな? と思えたのでこの作者の次の作品に期待してみます。