ひかりのまちーnerim's note

ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)
ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)長谷川 昌史

メディアワークス 2005-02
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おすすめ平均 star
starライトノベルのひとつの指標となる作品
star短編形式で読みたかった作品
star普通

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ストーリー

100年に一度「日黒期」と呼ばれる期間が訪れる街・ラクネリムはそのパラクタの街に住む少年で、父・スマスナを政治家に、そして優秀で人望のある兄をもって<いた>少年。ネリムの敬愛していた兄は6年前に失踪してしまっていたため、今はいない・・・。郊外の森にあると言われた秘密を調べに行ったまま、そのまま帰ってこない兄。
ネリムはまだ兄が生きていると信じていた。しかし森は閉鎖されてしまい、真実の手がかりは自分の手に届くところに容易には降りてこない。日黒記とは何か? 兄の行方は? 街の水面下で蠢いているような何かの匂い。ネリムは「本当のこと」を探しに一人暗闇を模索し始める。そんなおり、一人の不思議な女性・ディネと出会う事になって・・・。
ネリム少年の見つけ出した真実とは? 少年が大人になっていく過程を街に隠された真実に合わせて綴る物語。

シリアスなラピュタかな

雰囲気と空気を一言で言えばですけどね。
街の雰囲気や人々の暮らしぶりなどが、あの物語の前半の「炭坑街」の空気に似ています。しかしあの物語ほど子供向けのフィルタがかかっていないので、時に街や人は苦く、そして政治の匂いや利権の匂いがして、そして女性の身体は温かい・・・そんな感じでしょうか。
尊敬する兄の失踪を原因に深まってしまった父との確執や、ネリムに思慕を寄せるアシュタミ、彼をライバル視する少年・レッチの存在など・・・少年と言いつつももう子供とは言えない、しかし真実を知らないので大人とも言い切れない主人公ですね。

ディネが導く物語

この話の導き手と言える女性ですね。
ネリムが大人へと成長していくのを色々な意味で手ほどきする女性です。その、本当に色々な意味で。しかし甘いだけの物語ではないですね。大人になって行く事の苦さまでも担っている女性ですね。ネリムは彼女の手で大人の階段を登る事になりますが・・・。うーんなにやら複雑な経験ではないでしょうかね。
しかしネリムにとっては不可避な道だったのでしょう。彼の求めた「真実への道」がそれだけ汚れていて、そしてその道に足を踏み入れるには通らなければならない穢れ・・・とでも言えば良いかもしれません。

開かれていく「本当」

色々な人に導かれて真実へと辿り着くネリムですが・・・あまりと言えばあまりな話です。
しかしいつか知らなければいけなかった物語ですね。ちょうど、街に隠されていた真実に「夜明け前の明かりが差し掛かっている」時間帯にネリムは東に向かって自ら走り出したのですね。彼は白日の下に示される真実を待つ事無く、夜明けを求めて走り出すのですね。
彼が最後に手に入れるのは・・・真実と共にある人生の渋さ・・・かな?

魅力的な世界観

上記で触れましたが、なかなか雰囲気も良く(作中ずっと夜ですが)、良くできています。
読者が違和感を感じるように疑似科学的なキーワードを文章の中に散りばめていて、ネリムの感じる街への違和感と読者の感じるこの話への違和感を上手に同期させていると思えますね。

ただし

ページ枚数の関係か、どうしても謎の解かれる展開はちょっと急ぎ過ぎの感じがしましたね。もう少し展開に余裕があっても良かったかなとかも思いますし、秘密を後半に集中させずにもう少し分散させても良かったかなあ・・・なんて思わなくもないんですが、まあ種明かしをラストに集中させた関係でカタルシスを作り出す事にも成功していますんで・・・。まあこれはこれで良かったのかも。

総評

星4つ付けますね。
何となく、本当に何となくですけど「キノの旅」とか好きな人は結構この話は楽しんで読めるんではないでしょうか。あの話に通じる苦さのようなモノがストーリーの根っこにありますね。また、少年の成長物語でもありますので、ある種の(まあつまり大人の女性の)甘さみたいなものもありますけど。熱くて火傷しそうな真綿に包まれて真実がやってくる・・・って感じでしょうか。
イラストはNino氏です。作品のイメージとも良く合っていて、動きもあり、良い絵師ではないですかね。