狂乱家族日記 弐さつめ
狂乱家族日記弐さつめ (ファミ通文庫) | |
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ストーリー
乱崎凰火(らんざきおうか)は世界のピンチを救うという名目の元、かつて破壊の限りを尽くした神・閻禍(えんか)の血を受け継ぐもの達の矯正計画を日々実行していた。つまりぶっちゃけ彼ら彼女らと家族として過ごすというものである。
で、その凰火(27)の「奥さん」として家族の頂点(っぽい所)で君臨しているネコミミ狂乱娘・凶華(きょうか)がとんでもない事を言いだした。
「新婚旅行をしてみようと思うのだがどうか」
ほとんど発作的に思いついたのではないかと思える様な凶華の一言からいわゆるまともな日常は崩れ去り、家族どころか近隣住民の皆様まで巻き込んで得体の知れない新婚旅行が開始されるのだった。もちろん息子と娘たちも一緒に、というトンデモ展開。
狂乱狂乱また狂乱! といった展開の中に「家族って、ナニ?」的な疑問を据えて発射される変なお話の第二弾。
一晩で 家の目の前 滑走路
まあ何でもありなんですけどね。
とにかく凰火の目が覚めると家の目の前が滑走路になっていて、さあ新婚旅行に出発だ、という状況になっているという展開。ああライトノベル。という感じですかね。
ちなみに家族は当然のように全員参加。1巻で家族に加わった千花(ちか)も付いてきています。現在絶賛オカマ道を邁進している銀夏(元の名前:銀一)を矯正するべく激しくも恐ろしい愛を注いでおります。
「女のあなたなんかあたしが殺してあげる。あなたの心をあたしだけのものにしてあげる。絶対にね。うふ、うふふ」
まあつまり非常識な人間が一人加わったというだけですけど。
1巻のメンツに千花を加えて新婚旅行の翼は大空へはばたく・・・んですけど。まあ大方の予想通り、墜落。
南海の 孤島に匂う 陰謀が
当然のように凶華は今回も怪しい行動をとり続けるんですけどね。
「うはは、どうした凰火、己の妻の美貌に言葉もないかこの助平!」
全力で幼児体型なんですけど。最近はそういう方向のニーズが多いから良いのか。
こんな感じに余裕ぶっこいているかと思えばふとした瞬間に、
「……貴様は本当に、この凶華様のことを愛しているのか?」
1巻にもあった「愛の欠落から来る不安と渇望」をこのキャラクターも時々見せてくれます。どこまでホンネなのかウソなのかマジなのかジョウダンなのか本当に分かりにくいキャラクターですが、しかしそこが面白いというかなんというか。
無人島なのにホテルがあったりとか、謎の支配人がいたりとか、猿の襲撃があったりとか・・・襲撃?
死神と 今の自分と 家族達
今回は1巻では触れられていなかった凰火の過去が少しばかり語られたりします。恐らくは凄惨な過去の一端とでも言いますか。
描写は僅かなのでまだまだ先が長いのだろうなあ・・・なんて思ってしまいますが、それでもこの話はあくまで「家族」の話なので、家族の一員として所属している以上、凰火すらも救われる対象になっているのは間違いないでしょうね。
なにかを壊すたび、だれかを殺すたび。
自分が砕けていくようで怖かったのを覚えている。
凰火の中に今でも恐らく居るのであろう死神と、狂乱しているようでも、欠落しているようでも実はとても人間的ではないかと思われる家族達の存在。
「家族が危険にさらされているときにすら狂乱できないような人間が、人間なものか! 奇跡をおこせる人間なものか! 奇跡をおこさねば助けられない娘を助けるために、いくらでも奇跡をおこしてやるのが親だ! 人間だ!」
振り返って指を突きつける。
「貴様は機械の股から生まれたのかッ?」
なんだか作者の家族観とでも言いましょうか、そういったものが滲み出ている台詞ではありますね。愛の欠落、それ故に非人間的な家族達。
しかしそれ故にどこまでも愛の存在と尊さを説く家族達。目を見て話す事、必要なら何でも捧げる事が出来る事、言葉をかけてあげる事、抱きしめてあげる事——当たり前の事ですが、求め、求められないと決して得る事が出来ない大切な何かを、狂乱した家族達は凰火の目の前に不器用に示していきます。
このように書くと変ですが、恐らく登場人物の中でもっとも大きな欠落を抱えているのが主人公の凰火なのでしょうね。この話はきっと家族達を救い、凰火が自分自身を救っていく、そうした物語になって行くのでしょう。
まあ、それすらも当たり前と言えば当たり前のようにあるべきものですよね。だって家族なんですから。
偉かった 生物兵器と 女の子
今回は生物兵器として生まれた雹霞と、孤独人形としての命を強要されていた優花の話でもありますね。やはり彼らもいまの狂乱家族の在り方に付いて語っています。
「狂乱家族という世界が天国なのか地獄なのか、それはぼくにもわからない。優しいみんなのそばにいられるという幸福、世界の救済という責務を背負っているという不幸、みんなまとめて天国も地獄もごちゃまぜにしたこの家族が、だけどぼくは嫌いじゃないよ」
狂乱しつつも家族として絶対になくしてはいけないものがここにあるのでしょう。ある意味において、天国なのでしょうね。
——例え話をしてみましょう。
「プレゼントが隠されているから」って言われて探し続けた広い広い家の中、プレゼントは見つからない。探して探して探しまわって、諦めかけたその時にようやく見つけた。
家の大黒柱の根っこのすみっこ、もの凄く小さいけど、とてもはっきりと、しっかりと、永遠に消える事の無いくっきりとした文字で、
『YES』
と書いてあった時の様な安心感——他のものでは一切の替えが効かない、小さいけれど揺るぎない、自分自身という存在の全肯定とも言うべき、何か*1。
そうしたものがこの狂乱家族にはあるんでしょう。
総合
星4つ。
相変わらずの回りくどさですが、それでもしっかりと楽しませてくれますね。今後巻数を重ねていってマンネリにならない事を祈りますが、まあ適当な所で話を完結させた方が良いだろうなあ・・・なんて思ってみたりして。巻数を重ねすぎると詰まらなくなる傾向がこの作家にはあるような気がするんで・・・。
イラストはx6suke氏ですが、個人的に好みという事もあって十分な出来ですかね。