オイレンシュピーゲル(2)

オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2)
オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2)白亜 右月

角川書店 2007-05
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おすすめ平均 star
star★5じゃ足りない
star先が読めない長編バイオレンスアクション!!
star前巻は紹介編?今巻から長編突入!

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読んで一言。えげつないけど面白い。

ストーリー(1巻と大きく変えてない)

「機械化児童」
国際都市ミネアポリスにおいて政府の障害認定を受けた子供は児童福祉局=通称<子供工場>で機械化されて、労働児童(ミネアポリスでは11歳から労働可能なように法整備されている)となった少年少女達は才能を認められた場合、特殊転送式強襲機甲義肢——通称<特甲>が与えられ、治安の維持にあたらせた。
また、戦争などで文化の意地が困難な他国の文化を受け継ぐ様な形で「他国文化」の「名前」を付ける事によって保全金、ちなみに日本名を名乗った場合、毎月の保全金+社会保障が支払われるという。
そして「ケルベロス」はそんな機械化児童である三人の少女コードネーム「黒犬(シュヴァルツ)」の涼月、「赤犬(ロッター)」の陽炎、「白犬(ヴァイス)」の夕霧、3名で構成されたMPB(ミネアポリス憲兵大隊)の小隊である。
そんな少女三人が治安維持とカウンターテロリズムのために活躍する・・・暗くて、えぐくて、血みどろで、救いが無いような、あるような、そんな物語。
ケルベロスの3人を主役にした初の長編作品。

皮肉が効いてる!

最初、事件の始まる前ですが。
タバコのパッケージにある注意書きをそのまま銃の注意書きに変えて書いている辺りはニヤニヤ笑いが止まらなかったですねえ。

『拳銃など小火器類の使用は、統計によると、あなたにとって死亡または服役の原因の一つとなります』

『発射された弾丸は、あなたの周囲の人の迷惑となります。引き金を引く時は十分にご注意下さい』

実に気が利いてる。
身勝手に吸いまくる煙草は銃と同じと言っているようでもあるし、銃はどこまで行っても人殺しのために存在していると言っているようでもある。両者同時にこき下ろしている感じが実に清々しい。

最悪と呼べる状態からスタート

人工衛星が落ちてくるというとんでもない状態から始まる一連のテロは、ケルベロス小隊の3人を任務とはいえ別々の場所に引き裂いてしまう。機械化を受け入れ、実戦経験の豊富な彼女達にとっても不安な事件となっていく。
何しろ核テロなんですから。
そしてそれよりなによりインパクトがあるのが、事件の背景に至る未来の”くそったれな世界”が作者の豊富な妄想力と知識によって”いかにもありそうな世界”に置き換えられてしまっていく所ですね。不快だけど納得させられてしまうのはもう見事としか言いようがないです。まあ、ちょっとした描写なんですけど、

涼月の率直な感想——”イラク戦争のときのアメリカ軍による捕虜虐待の映像みたいだ”。

ロシアの大統領選があるたびにチェチェン紛争がなぜか”勃発”/チェチェンに攻め込むと必ずロシア国民から支持され大統領の人気が上がることから、”紛争が起きたとするための架空のテロ”がロシア政府によって計画されたという疑惑が発生。

こんな塩梅。例の911まで引き合いに出して、暗澹たる未来世界を描写することに成功していますねえ・・・。
実に不愉快で、実に堪え難いことですが、自分の頭の中にある情報と、この本に書かれている情報を比較検討した結果「そんな未来は無いに決まってんだろ」と言い切ることが出来ずに、グイグイと物語に飲まれていってしまう感じ。

とにかく

バラバラに散らされたケルベロス小隊は各々が”テロリズムのはらわた”やら”不都合な真実”の一端に触れていくことになります。
特に涼月は今回お疲れさまですね。女の子ですけどぶん殴られたりしてますし。お疲れさまでした。
しかし展開そのものは本当に醜い未来の集合体みたいな作品なんですが、それでも主人公たちの少女の中にある瞋恚の炎とも言うべき真っすぐな感情が、この話に一点の救いを与えてくれます。

殴られるのと同じ程の実感——理屈抜きの。あたしは拷問が嫌いだ。そんなのは大嫌いだ。あんな不愉快なもの二度と見せられてたまるか。連中がまたあれをやろうってんなら、その時は相手が誰であるかに関係なく、ぶっ潰してやる。

一つだけ分かるのは、このままで済ませてなるものかという、溶岩のように燃えたぎる思い。
「ぜってぇー……ぶっとばす」

そしてそして、溜めに溜めまくった後の大爆発が実に痛快だ。

「なめんじゃねえっ! あたしはっ、これしか知らねーんだ! 生まれてから一度もっ、七歳で機械にされたときから、これ以外っ、なんっにも威張れるものがねーんだ! あんたが戦争の鬼だろうが何だろうが、生まれたときから自由に両手を開けたやつに、このあたしがっ、これで負けるわけねーだろっ!」

でも一番痛快だったのは、この台詞だったりして。

「語学はBなんだ」

総合

1巻の時も楽しめましたが、さらにこの2巻は面白かったですね。読みにくさは相変わらずですが、それでも面白かったですね。星4つに昇進かなあ。
ケルベロス小隊が活躍していますが、実質涼月が主役の話ですかね。大荒れに大荒れですが、それに立ち向かうケルベロスの3名の戦いがどう展開していくか、ぜひ読んでもらいたいですね。
ちなみにスプライトの皆さんもゲスト出演しているという豪華な作りです。
イラストの出来もよろしく、次の話が楽しみですね。