殺×愛1—きるらぶ ONE—

殺×愛1―きるらぶONE (富士見ファンタジア文庫)
殺×愛1―きるらぶONE (富士見ファンタジア文庫)風見 周

富士見書房 2005-11
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おすすめ平均 star
star密くんの過去と今
star前巻より良い。

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殺攻めの愛受け、ではない(多分)シリーズです。役柄を考えるとサクヤ攻めの密受けです(密総受け?)。

ストーリー:0巻からほとんど変えてないです。

突然世界に訪れた破滅の時間。謎の《天使》と呼ばれる存在が、人間の作り出してきた全てを「回収」し始めたためだ。世界中がこの破滅に直面しており、既に国によっては滅んでしまった所さえあるという状況になっていた。

椎堂密(しどうひそか)はそんな世界で生きる一人の高校生だったが、自分の中に大きな秘密を持っていた。彼が世界を破滅に導く引き金を惹いた存在であるという事。そしてソその出来事以来、普通には死ねなくなってしまった体。

彼を滅ぼす事が出来る者は、彼と相思相愛になった相手だけ。そしてそれこそが世界の破滅を止める方法だという。そしてその椎堂密の前に現れた終末委員会(世界滅亡に対抗するための組織)からやって来た少女サクヤ。彼はサクヤを利用して自分を殺してもらうための手を打ち始める。
世界の滅亡と、それを目の前にして展開する少年少女の恋物語

念のため設定

読む人によってはここより下は『心の安寧を損なう酷評』になっている可能性が高くなっております。

ファンの人は要注意! この感想が地雷です!

・・・酷評ではないような気もするけど、念のため設置。ついでに続きを読むにしておきますね〜。

ああ、妬ましい

椎堂密が妬ましい
椎堂密が妬ましい、不完全で幼い自分でいる事が許される外的要因(破滅を開始した)を既に獲得してしまっている。
椎堂密が妬ましい、女神のような母性をもった女性たちに一方的に愛される内面/外見を持っている(とにかく愛されてます)事にされている。

・・・実は彼よりも「全ての苦痛や出来事に対して合理的な理由を持たされなかった人(たとえば普通の読者)」の方が多分、何倍も心理的には悲劇的で危機的な青春を送っているんだけど、物語上では椎堂密の方が何倍も悲劇的で危機的になるようにされているんですね
彼はこの物語の構造そのものから、自由気ままにヒネた青春を過ごすために必要な理由をほとんどタダで受け取っています。

  • 破滅の引き金を引いたという事実は、自虐でいる事を自分にも他人(読者)にもある程度許す機能がある
  • 死にたくとも死ねないという事実は、彼が虚無的に行動する事を他人(読者)にもある程度納得させる機能がある

訳ですね。

彼はつまり

「『小利口な子供が初めて現実にブチあたった時に、自分を正当化するべくグダグダとこねる理屈』を大人達(読者と言い換えてもいい)に一方的に否定されないだけのドラマを内部に持たされて生み出されている」

という訳です。

  1. 悲劇の主人公として配役が自分の責任の無い所で決められている人生。
  2. 悲劇を理由にグレても許される人生。
  3. 悲劇を理由に容易く絶望しても許される人生。
  4. ひたすら自嘲的に、虚無的に生きる事を許されている人生。
  5. 「自分は何者なのか」と問いかける必要の無い人生。
  6. そしてそれらを持ちつつも、悲劇性のお陰で女神のような女性たちに愛される人生(エロい事付き)。

6は単なるご都合主義ですが、それ以外は世界設定によって概ね許されてしまうという・・・。
ああ、超羨ましくない? 俺もこんな風に分かりやすい青春を送ってみたかった! 誤解やら勘違いではなく、明らかに世界の中心にいる青春! ヒネヒネでもそれ程おかしくない青春! 挙げ句そのままの自分を受け入れてくれて、エロオッケーな少女たちがわらわらと登場する青春!

「ホントはイケナイことだって、わかっているんだけど……。もう隠しておけないよ……」

「ひーちゃんだもん。平気だよ。私はなにをされたっていい……。だから、お願いだよ」

「これでもう、センパイは私のナワバリなのです。ドロボーネコも近づけません」

以上本文より引用。
3つの引用元はそれぞれ違う少女が椎堂密に対して放った言葉です
実はこの前後の会話含めてエロエロです。セリフだけ見てるともう「なんでココが濡れてるんだ? ん〜? 恥ずかしがらずに言ってごらん?」という状況がありますな。
うっわ殺してえ
つまり椎堂密、おまえは俺の敵だという訳だな?
しかし殺せないみたいだから永久に棺桶の中に閉じ込めて地下20メートルくらいに埋めてやる。よーし俺が死よりも激しい苦痛を与えてやるからすぐコッチに出て来い! おい一休!一休! この屏風の中にいる少年を引っ張りだしてくれんか〜!?
野郎を見事埋めたら、俺が同じ役所で話に入るからな!? そうすればあっという間にオマエ、酒池肉林よ? 酒・池・肉・林。まずはやっぱり急いで食べないとマズそうな妹くんの微ちゃんからかな? えーっと、妹を

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・・・久しぶりに使ったなコレ。
というような感じでひたすら彼のラッキーな境遇を羨ましがりつつ読むのが正しい読書スタイルではないかと愚考するものであります!
え、違うの?

というような

作品構造をもっているため、一部の読者が反発するのは何となく分かります。

悲劇のヒロイン(?)ぶってるけど、もの凄くラッキーメンじゃねーか!

というのがホンネなんでしょうな。
作品中で彼は、

僕は《偽悪者》なんかじゃない。
正真正銘の《悪者》なんです。

なんて言っていたりします(このもの凄く恥ずかしい自己認識は作品世界内部では正しいかもしれない)が、作品の外から見ると「実は恵まれた境遇にいるけど悲劇のヒロインにされている主人公」となるんですな。
そしてそのヒロインを救いたいと思っているイケメン騎士が沢山そろっていると。でも最終的に彼を救うのは唯一彼にとっての敵だった相手であって、その敵と心の交流をして恋に育てて行くと(多分ね?)、そうなるのかな?

しかもこれらの反応を起こさせる原因が作品設定そのものに依存しているために、作品構造にとりこまれている他のキャラクター達には誰も彼のヒネクレっぷりを完全に否定する事が出来ない。ほ〜ら捻れた王様が一人完成した。
実に贅沢でしょ? そら一部の読者が猛反発するのも分かるかも。ご都合主義の塊だからかな?

ただ、上手いのも確かかな?

そんなことをして、なんになる?
死者が蘇るわけでもない。想いが届いたかどうか知る術もない。手を合わせたぐらいじゃ奇跡は起きない。
死者を悼むつもりが、ココロが痛むだけ。
いたずらに悲しみを増幅させるだけだ。

この辺り、「上手く書けているなあ」と思いますね。来夏の思考と対比させるあたりがまた上手い。こういう風に描写する所に作者の狙いを見てしまいますね。
つい勝手に想像してしまいますが、世界の破滅の引き金を引いた自分にはそのような「死者を忘れて次へ向かって行くための儀式」など贅沢すぎる、自分はその悲しみを乗り越える資格などない、というような感じでしょうか。幼くて、無様。しかし誰も一度は感じずにはいられない感覚を表現している、とでもいいましょうか? 微妙な所をつつくのが上手ですな。
他にも、

全ては。
無駄なのにね。

だけど、僕にとって、現実の友達付き合いもゲームと大差ない。無数の選択肢の中から最善のものを選んで、友好度のパラメータを上げる。そうすることで、自分の望む関係性を獲得していく——現実なんて、そういうタイプのゲームだろ?

まさしく堂々たるニヒルでヒネクレ思考
キャラクターの好き嫌いは別にして上手だと思いますね。実に程よくムカつく野郎だ。やっぱり羨ましがって読むのが正しいスタイルですな〜。
だって堂々とグレられて、グレてやりたい放題やってたら女が股を開く開く(うわ)! この辺りっていわゆるヤンキー漫画の主人公少年系だと思うんですけど、どうだろうか?
・・・実は女性から見た時こういう少年て、可愛いのかなあ? うーん、なんかほうっておけないのかも知れん。不良少年が童貞を卒業するのが早い理由がちょっと分かるような・・・。

総合

星4つつけるかな。
構造的にムカつく部分などを探しつつ読み進めるのも楽しいけど、それ以上に主人公のラッキーっぷりや、少女達の初々しい恋模様を楽しむ方が幸せでしょうね。話としては、2巻でも(タイトル1だけど)密の言う「あの人」が誰だか分からない所が気になりますけどね。その辺りは次を期待して読んで行きたいです。
あとイラストとデザインは相変わらず良いですね。安心してみていられるクオリティですかね。カラーイラストはちょっとつまらないけど・・・。

感想リンク

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