Beurre・Noisette 世界一孤独なボクとキミ

Beurre・Noisette―世界一孤独なボクとキミ (集英社スーパーダッシュ文庫)
Beurre・Noisette―世界一孤独なボクとキミ (集英社スーパーダッシュ文庫)藍上 陸

集英社 2006-09
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アキカン!と同じ作者という事で読んでみたら・・・作品のテーマのシリアスさに驚きつつも楽しんで読んでしまったかな。

ストーリー

乱場小唄(らんばこうた)は17歳のお菓子作りが好きな線の細い少年。しかし高校生活は2度目だ。前の学校でいじめられた結果、今の学校に逃げて来たためだった。そして逃げ込んだ新しい学校で、彼は平穏な生活を望んでいたが、神無月みだらという一人の不思議な少女と出会ったところから何かが狂いはじめ、平穏無事とはほど遠い生活へと変わっていってしまう。それはいじめとは違うけれども、平穏とはほど遠い生活だった。
彼は新しい学校生活にとまどいながらも何とか順応していこうとするのだが、気になる少女、神無月みだらが学校内に存在している宗教<ブール・ノアゼット>に入信しているという事を知ってしまう・・・。

変な話だね

ごった煮で味が混ざりまくっていて、手放しでは評価できないけど・・・作者が書きたかった「ドロンドロンの煮詰まった何か」見たいなものを感じたね。
えーっとこの感じは・・・そうそう、「日日日」の「ちーちゃんは悠久のむこう」の時以来かな。正直完成度という意味では「ちーちゃん」の方が上なんだけど、「混乱」と「混沌」と・・・つまり「やりたい事が山ほどあってどれを書いたら良いか分からない」という感じが作品としての誠実さ(?)を上げていて、個人的には好感触でしたねえ。
構成は上手いとは言えないけど、それでも迸るエネルギーというか、ページ数がたりねえよ! 的な若さというか、そんなものを感じました。

物語は

主人公の乱場小唄をとりまくムチャクチャ学園生活と、神無月みだらの謎という辺りが中心なのだけど、それ以外にトンデモキャラがどんどこ出てきます。特に変なのが森中林檎(もりなかりんご:姉)、森中梨(もりなかりん:妹)コンビによる「右翼っぽい過激派である『ますらお同盟』」の存在。特に姉が変。
いきなり学校内に軽トラで乗り付けた挙げ句、拡声器を使って演説をぶちかます美少女の変態です。

共産主義者どものアジがやかましい昨今、皆様もさぞ不安な日々を送られているものと忖度致します。コミンテルンが消滅し、ソ連東ドイツが潰えても、未だにおの世界には共産主義という危険思想を持ち続ける輩があとを絶ちません。郵便ポストが赤いのも、サラ金業者のティッシュ配りがしつこいのも、全て共産主義者どもの陰謀に他なりません』

・・・あー。電波だ。
まあなんだかんだ言いつつ小唄は彼女と知り合いというか友達になってしまうのですが、そうすると途端に林檎がただの過激派ではない事がわかります。ちなみに小唄がお菓子作りが得意というのは上で書いていますが、そのお裾分けを林檎に持っていったところ、

「『お裾分け』など、まさに共産主義の発想ではないか! さては、これで私を懐柔しようと目論んでいるんだな!? このコミンテルンの犬め! 私は騙されないぞ!」
「ちょ、ちょっと」
「覚えてろっ! このアカの手先がっ!」
だだだっ! と、首を中途半端に捻られたニワトリのごとく、林檎は一目散に逃げていく。
「うべっ!」
——と、よそ見をしていた林檎が壁に衝突して、トカゲのようにひっくり返った。

「それはきっと恋よ、姉さん」
またもや梨が、さらりととんでもないことを口走る。
「な、なにっ! 恋だとっ!?」
みるみる林檎の顔がリンゴのように真っ赤に染まっていく。
「そう、恋よ。姉さんにも、ついに収穫期がやってきたのよ。青林檎が赤く熟れ始めたのよ」
「そ、そんな、恋だなんて……」
がっくりと、林檎が地に跪く。

つまりですね、過激派に身をやつしたツンデレです。超萌える
まあ勿論思想かぶれである事は間違いないので、時としてうっとおしく、時として意味のある助言をして、主人公を導いたりします。

そして

ヒロインの神無月みだらですが、変な女の子・・・宗教にかぶれているのか〜。と思いつつも最後の最後まで謎めいていて、最終的にはとんでもないキャラクターに着陸してくれます。何しろ主人公に会った瞬間に、

「あなた、神さま、憑いてるよ?」

と言い放つ少女です。超電波です。しかしそれだけでは終わらないところが面白いですね。

「小唄くんは、神さまに、見初められたの。小唄くんは、いつも神さまといっしょ。だから、小唄くんは、孤独じゃない。それが……とても、うらやましい」

最初のうちこそ完全に電波少女ですが、読んでいくと徐々にその内面の謎が見えてきて、最後にはきっちりその謎が解けます。そうすると積み重ねてきた彼女の発言が「どういう意味をもっていたのか」が分かるようになって、「ああ〜つまりそういうこと」みたいな気分になりますね。

もちろん

彼女たち以外にも変な剣士とか、宗教かぶれの教祖っぽい奴とか情報通とか色々出て来て、もうすっかり訳の分からない話になってくれますが、正直に言って最新作の「アキカン!」よりもキャラクターの魅力という意味では上です。
みだら、林檎を頂点にした変人達ですが、それに加えて思春期の信念の固まっていない心の揺れ動く様などが意外に丁寧に書かれていきます。
ストーリー全体でみると「いじめられっこの小唄の再生物語」なので、実は結構シリアスなのですね。そのシリアスなテーマに真っ向勝負しています。結論はありきたりと言えそうですが・・・それでも物語が結論から逃げなかったのは良かったですね。

総合

星3つ。もうちょっとで星4つにしてもいい。
話の構成やキャラクターの配置とかストーリーに宗教を絡めて来てしまう感じとか、コメディなのかシリアスなのか分からない感じとかが、単純に「物語を楽しむ」という側面で考えた場合結構邪魔な要素になりそうですが、それでもそのごった煮感が面白いし、キャラクターは魅力的だし・・・ということで、マイナスとプラスがぐちゃぐちゃに混ざった怪作ですね。でも台詞に変なパワーがあったりして、うーん「アキカン!」が好きなら読んでみる価値有り、でしょうね。
星3つだけど、うんうん、なんか妙に印象に残った作品でしたね。
イラストは・・・ぶっちゃけ表紙が一番印象が悪くて、中のイラストは結構好きですね。