ドラゴンキラーいっぱいあります

ドラゴンキラーいっぱいあります (C・NovelsFantasia う 2-2)
ドラゴンキラーいっぱいあります (C・NovelsFantasia う 2-2)海原 育人

中央公論新社 2007-08
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おすすめ平均 star
star苦労話
star続編とは得てしてこういうものです
starう〜ん…

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面白いね。久しぶりに読んでいる最中に時間を忘れたな。特に後半に入ってからはもう夢中で読んでしまった。
しかし本屋で売ってねえなC★NOVELS! 3件目の本屋でやっと見つけたぞおい

ストーリー

前作のどさくさによってドラゴンキラーと呼ばれる特殊な力を持った女性・リリィとの縁が出来た兵隊崩れの主人公・ココは小悪党。
ココは結局ドラゴンキラーであるリリィを雇って相変わらずバロールの街で便利屋をやっていた。ドラゴンキラーという最強とも言える切り札を持ちながら「派手にやりたくない」という理由から相変わらずの便利屋稼業。
仕事の量は増えたものの、リリィのもの凄い食事量によって経済状態は常に逼迫。ろくでもない暮らしは大きく変わっていなかった。
そんな矢先、とりあえず順調に行っている様に見えたが、ある時を境に仕事のキャンセルが相次ぎ、ついでにココの兵隊時代を知る人物が現れ、その彼の世話を何故かすることに・・・。
人がいいのか悪いのか、情がないのか深いのか、ココ本人にすら良く分かっていないような主人公とその相棒が繰り広げる悪党共大活躍ファンタジーの第2弾です。

1巻と同じく

気の利いた台詞ややり取り、悪党(小悪党?)なりのポリシーというか哲学というか、様式美とも言えるような罵倒だか喧嘩だか皮肉だか分からない会話などなど、見所が沢山あります。

主人公のココは

なんというかもー、本当にろくでもない野郎で、ムカついたら銃をぶっ放して人を殺すわ、酒は痛飲するわ、煙草はばかすか吸うわ、頭痛持ちだわ、ひたすら下品だわ、デリカシーが無いわ、酒場の女の尻は挨拶代わりに揉むわ、・・・と並べ立てたらきりがないような奴ですが、全く憎めないところが不思議ですね。
彼はなんだかんだ現状に不満を言いつつも、自分の信念やら感情に忠実で、さらには意外にも情が厚い。一見そうは見え無いどころか冷酷非情に見えたりしますが、読めば読む程「人が良い」という印象になって行くから不思議です。
・・・行動や発言は最悪なんですけどねえ・・・。

俺がこの世で嫌いな生き物といえば、竜とドラゴンキラーと黒猫だ。そのうち二つが俺の事務所に居るのは、えげつない運命の巡り合わせである。そのことを考える度、侘しい気持ちで一杯になるため、あまり深く考えないようにしているが、それでも黒猫が鳴く度に撃ち殺してやろうかという気になった。

猫相手にこの状態。小物というか、根性が小さいというか・・・。しかしエサをやっているのも彼だというからお笑いですね。
酒場の親父のラダーマンとの会話も最悪に下品かつバカです。

「あぁ、不味いな。最低だ。小便飲んだほうがまだましだ」
「小便飲むと健康になれるって話があるぜ。試せよ。なんなら俺のを飲むか? ちったあ真人間になれること請け合いだ」
「そいつは最高だ。じゃあまずあんたが飲まねえとな。ついでだ、俺のも一緒に飲めばさらに効果が出るだろうよ」
「抜かせ」

顔をあわせりゃこんな感じで、さらにはお互いどうやって相手に貸しをつくろうとか、金を踏んだくろうと考えている困った人達です。
それにまた、彼お得意の実利を中心にした台詞も出てきますね。以下はリリィとのやり取りですが・・・。

「正々堂々と正面からというのは無しか?」
「どうしてもやりたけりゃ騎士様にでもなればいい。奴等が何か知ってるか? 知らなきゃ教えてやるよ。名誉とか誇りとかっていう冗談に命を賭けられる変態どもさ。分かりやすくいうと、馬鹿だ」

・・・その割にはどーもその馬鹿に片足を突っ込んでいるようなところがあるのがこの主人公のココですね。変な男です。

相棒のリリィですが

相変わらずアルマを溺愛しているというか過保護な母親状態になっていますが、まあそれは変わらないので良いとして。
多少はバロールの街の流儀に慣れて来たのか、ココの取り扱いに慣れて来たのかどっちかは分かりませんが、日常的なシーンでは結構リリィの方が上手くやっているというか・・・ココを尻にしいているというか・・・尻は小さいらしいですが。
治安最悪の街で暮らす割りにはその堅苦しい性格は相変わらずで、ココの世話女房のような・・・ただの無駄飯喰らいのような・・・唯一の常識人のような・・・そうでもないような・・・ココとの関係は謎極まりないですね。

「殺されかけておいて、よく言う。私がどういう顔をしているか、きっと見えていないのだな。馬鹿もここまでくると、見せ物に出来るレベルだ」

と心配する素振りを見せたかと思えば、ココの事を人に訊かれて、

「あれでなかなか、良いところが、良いところが、良いところが、あるのか?」

・・・思いつかないんかい! とかだったり。
あと一つ朗報があります。ヒロインのリリィですが(特定の人に取ってはアルマとかアズリルとかスプリングの可能性もありますが)、えっと、処女です。本人が自ら告白していますし、嘘つく理由も無いから処女でしょう。・・・全国の処女膜ファンの皆さん、喜べ! 取りあえず俺は喜んでおく。わーい!!

全体では

悪党共が跳梁跋扈し、裏をかいたかと思ったらかかれ、暇つぶしに人殺し、という最悪な状況で展開される陰謀と暴力のお話と言っていいでしょうが、リリィとは別のドラゴンキラーが現れた辺りから話がとたんにきな臭くなり、そのドラゴンキラーがある結びつきを持つ事によって事件に着火、そしてどんどんと類焼するという展開です。もう大火事。
ただその後半こそ実に良いテンポで話が進みますので、読んでいるうちに夜があけるという感じでしょうか。如何にもラノベ的というようなご都合主義的な展開もまた良しですね。

総合

文句無し星5つ。本当に面白かったなあ・・・大好きですね。
ココとリリィとの間にある何とも言えない信頼関係とか、悪党同士の腹の探り合い、下品で面白い会話など見所がいっぱいです。
こういう本を読んでいるとしみじみ思うんですが、どんなに世界設定に凝っていても、どんなに新しい概念をひねり出そうと、登場人物たちが生き生きと描かれていない作品はつまらない、という事です。
この話、設定そのものはそんなに凝っている訳ではありません(書かれないだけであるのかも知れませんけど)が、登場人物の暮らしぶりが実にいい。ココの悪たれっぷりや、リリィの真面目さが紙面から匂いだすようですね。
イラストはカズアキ氏の手によるものです。枚数はそれほど多くはありませんが、意外にムードがあって好きです。
ついでですが・・・巻末を見ると続編として「ドラゴンキラー売ります(仮題)」という作品が予定されているようでもあります。「COMING SOON!」ってなってますけど、そんな直ぐには流石に無理だろ・・・作者の人、頑張りすぎて死なない? まあ一読者の私は直ぐに続きが読めれば嬉しいけどね。

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