世界平和は一家団欒のあとに(3)

世界平和は一家団欒のあとに 3 (3) (電撃文庫 は 9-3)
世界平和は一家団欒のあとに 3 (3) (電撃文庫 は 9-3)橋本 和也

メディアワークス 2007-09-10
売り上げランキング : 67366

おすすめ平均 star
star今度の相手は元勇者?の父親

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

星弓一家はそろいもそろって超常的な能力を持った一家で、父ちゃん勇者、母ちゃん魔法使い、姉は地球外まで悪の宇宙人とやらと戦いに出かけたりしているし、弟は一人で何十人もぶっ倒せるような力を持っているし、妹は素晴らしい回復魔法との使い手だし・・・。
なんだか良くは分からないけど、とにかく世界からは「正義の一家」という役割を与えられているらしい。
主人公は星弓軋人(ほしゆみきしと)は、星弓一家の長男。とんでもない家族に囲まれながらもなんとか正義の味方みたいな役回りをこなしつづけているのだが・・・今回ついに、今まで不在だった星弓家の家長である父・耕作が帰還するのだった。
そしてその父の出現と同時に出現した一人の女性。その名をエルナというのだが・・・どうやら父と母の共通の知人であり、かつ友人であり、そしてさらに昔色々あったらしい関係だという。
父の帰還、謎の女性の登場によって揺れ動く星弓一家。果たして物語の行く末は? という3巻ですね。

父と子

どうしても「ちち」と入れると真っ先に「乳」と変換されてしまう我がMacの漢字変換に頭を悩ませつつ感想を書きますと、父と子の対話というか、ライバル関係というか、馬鹿親父と馬鹿息子というか、そんな感じの話ですね。
今回初登場の星弓家の父・耕作ですが、いやもう良い感じの親父ですよ。渋くてカッコいい親父ですね。
・・・しかしまあ、女性陣(主に妻)に頭が上がらないのは期待通りですし、馬鹿なのも期待通りですが、それでいて飄々として余裕があり、奥行きの深さを感じさせる父として描かれます。

「ふむ、皆、変わりはないかね?」

最初に発した言葉がこれで、

「ふふ、この程度の危機、いくらでも乗り越えてきた! でも今回ばかりはちょっと助けてほしいかもなんてぬおおおぉぉぉ!」

最初に発した悲鳴がこれで、

「まあなんにしろ、節度を持って高校生らしい清い交際をだね……」
「学生時代に七股かけてたやつにそんなこと言われたかねえ」

最初の父と子の馬鹿な会話がこれです。
「父さん」でも「父ちゃん」でもなく「親父」って感じですね。いいキャラです。ひょっとして星弓一家で一番良いキャラかも知れないな。

軋人とエルナ

まあ軋人にミョーに接近している女性と言えば柚島香奈子という娘がいますが、そこに今回割って入るのがエルナですね。エルナは星弓の父母と友人ですが、年齢は若いので、軋人辺りと釣り合いが結構とれてしまう感じです。
今回はこの絡みがあるので、それにつられて柚島香奈子の可愛らしい所も結構見る事が出来ます。・・・まあその、良い所はエルナに持ってかれちゃったみたいですけど。
で、エルナは「ある目的」をもってこの世界に来ている「異世界からの来訪者」な訳ですが、その目的を巡ってきな臭い展開となって行きます。

意地と意地

それはもう単純に「父と子」の意地のぶつかり合いです。
停めて守ろうとする者、飛び出して行こうとする者、それぞれに信念と意地を賭けて衝突します。父は父で馬鹿ですが、馬鹿は馬鹿なりに色々思う所があり、息子は息子でやっぱり馬鹿ですが、馬鹿は馬鹿なりに手を伸ばしたい希望がある・・・そんな所でしょうか。
どちらを応援するとかではなく、どちらも応援したくなるような衝突は、ちょっと読んでいて良かったですね。

総合

星4つ。
実はあんまり今まで評価のよろしくなかったこのシリーズですが、この父がたまにでも登場するなら読み続けるのも悪くないかなあ・・・なんて思う位には面白かったですね。
家族をテーマにしたライトノベル作品が少ないなか、この作品は家族を真っ向から扱っているある種の「意欲作」な訳でして、そしてそれが楽しめる出来になっているなら大いに期待したい・・・と思いました。刊行スピードも想像以上に早いしね! 作者の人も頑張ってんだなあ・・・。
イラストの出来も良かったんではないですかね? 特に父・耕作と母・志乃の恐らく昔の姿を描いた一枚はセピア色に染め上げられて中々いい感じです。