サイレント・ラヴァーズ(3)作戦名<大蛇>

ストーリー

大規模都市カイオンの中心都市・セキレイは狭く行軍が難しい土地、通称<蛇の回廊>に守られていた。そしてカイオンはその回廊を見下ろす高台に砲台陣地を設置しており、それがセキレイを難攻不落のものとしていた。
しかしついに一つの転機が訪れる。その砲台陣地を無力化するために七都市連合軍で一つの機密性の高い作戦が実施される事となった。荷電粒子砲を運搬し、遠距離から砲台陣地を叩くという代物で、ヒバナアンタレスの所属するクロスナイフ小隊を中心とした精鋭が集められ、その護衛にあたる事になったのだ・・・激戦の想像される作戦に戦く小隊。そしてそれと同時にヒバナは恐ろしい話を耳にしてしまう。
戦場で戦う恋人達と、彼らを取り巻く過酷な状況を描いたSFアクションシリーズの3巻目です。

ついに

といって良いのかもしれません。
ヒバナにアンタレスの秘密の一端が漏れてしまう事になります。その事実は荷電粒子砲を運んできた技術将校からもたらされるのですが・・・実際に会話をしたのはアンタレスとその将校で、ヒバナは偶然それを耳にしてしまいます。その結果彼女は一種の恐慌状態となり、作戦行動中に脱走を図るという暴挙に出てしまうのですが・・・。それを知ったアンタレスがどう行動したかも要注目です。

この話では

繰り返し繰り返し、戦争そのものの愚かさ、無駄さ、馬鹿さが強調して語られます。
歴戦の勇士と呼ばれる者から新兵の一人まで感じている事は同じです。前線で繰り返される死には意味など無く、<戦争という魔物>に猟られた犠牲者として扱われます。
アンタレスは・・・。

(おれの未来を鋼鉄の体に封じ、ヒバナをこんな狂気に陥れ、ヤドリの村の人々をあんな目にあわせた……その元凶、戦争! お前は何者なんだ! 人々の運命を狂わせ、破滅へと追いやる、お前はいったいなんだというんだ!)

(終ってくれ。もう終ってくれ。戦争、その魔物の息の根を止めてくれ。この戦争を終りにしてくれ)
怒りも、憎悪も、悲しみも、もう何もかもが飽和状態だった。アンタレスははちきれそうな心を抱えて祈った。

古兵である小隊長のアラシですら、

「ヨガラス。終らせようや、この戦争を」
「おうとも。長かったよなァ、まったく」

願うのは勝利ではなく、戦争の終り。

そして

カイオン側でも1巻で少しだけ出てきた彼が再登場する事になります。恋人のカスミを失った一人の傷心の戦士・シデンです。彼らはもう一組の主人公達と言えるかもしれません。
彼はカスミ亡き後、復讐鬼と化しています。もちろん彼はカスミの魂そのものがまだ残っている事を知りません。そしてアンタレスの中に秘められたエデンの事も・・・。アンタレスの中のカスミはシデンの死をもちろん望みません。アンタレスは自分の内側に潜在的な敵を抱えたまま今回の作戦に駆り出される事になります。
敵、味方、そしてエデンを目指す者達。三者三様の思いを抱えたまま、物語は進んで行きます。

総合

まあ3.5って感じだけど、なんとなく星4つ。
ちょっとストーリー中盤ではご都合主義が強く出たかなあという感じがしました・・・が、全体で見ると、こんなに皮肉に満ちたご都合主義も無いですね。最後の方で大きなどんでん返しがありますので、そこを読んだ時に感じる気持ちを大事に持ってもらいたいなあなんて思います。終盤の展開を知った上で読みなおすと・・・また違った感じ方が出来るようになっているから不思議です。
イラストの結賀さとる氏ですが、カラーページ、白黒の両方のイラストが結構好きですね。特に口絵カラーの美しさは素晴らしいと思います。本編内含め、絵にするシーンも良いんじゃないんでしょうか。

感想リンク

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