紅〜醜悪祭(上)〜

紅~醜悪祭 上 (集英社スーパーダッシュ文庫 か 9-6)
紅~醜悪祭 上 (集英社スーパーダッシュ文庫 か 9-6)片山 憲太郎

集英社 2007-11
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おすすめ平均 star
star面白のですが・・・
starちょっと薄いかな、ページ数が少ない
starおもしろいよ

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本編と全然関係ないんだけど、昔の感想の書き方と今の感想の書き方、随分変わったなあ・・・。

ストーリー

前作からの経過時間は本編内に「つい先日」とあることから、それほど時間は経っていない模様。しかし街はそろそろクリスマスムードに染まりつつあり、その辺りでは主人公・紅真九朗の心を掴むべく、女性陣の暗躍/謀略/陰謀が渦巻いていたりした。
しかし真九朗の本業はあくまで「揉め事処理屋」であり、かつ彼は重度のニブチンである。仕事こそ余りないものの、彼の揉め事処理関する情熱は相変わらず失われておらず、女性陣のアプローチにも気がついていなかったりする。それは彼の憧れる存在である柔沢紅香の存在があったからである。
しかし今回、真九朗の協力者の一人である村上銀子から驚きの情報が伝えられる。それは柔沢紅香の死であった。しかしその情報を信じる事が出来ない真九朗。奇妙な苦悩の中、彼に久しぶりの仕事が舞い込む。仕事を持ち込んだのは小さな少女。彼女は一言だけ彼に告げた。

「もめごとしょりやさんに、お願いがあるの!」

紅シリーズの「ようやく出版された」3巻です。

相変わらず

普通の社会を基本のベースにしているはずなのに陰鬱な世界観は見事ですねえ・・・。いや、後者は褒めているのか貶しているのか分かりませんけど。
前シリーズの「電波的な彼女」とかの時の「えぐり魔」とか「幸福値」とかの概念も凄かったですが、まあ相変わらずえげつない感じの事件を作って話の中に織り交ぜてくれます。しかも、のっけから。
この辺りを読んでいて「ああ、こういうシリーズだった」と再認識したとかしないとか。

ただし

その「暗さ」を救っているのが百花繚乱と言えるキャラクター達の魅力的な描写ですね。色々とピックアップしたくなる名言/迷言/妄言が散りばめられています。この辺りは作者の才能ですかね〜。

九鳳院紫

メインヒロインのはずだけど、驚きの年齢7歳。しかし恋するが故に侮れない7歳。色々な意味でただ者ではなく、将来が楽しみな逸材です。ラノベ界のロリの星の一人としても有名です。

「ちなみに、今日の下着は真九朗の好きな白だ!」
「あー、さっき見たよ」
「もっと見るか?」
「……いや、結構」

・・・血の涙を流すロリ星人多数か。何故、何故、ああ何故私の傍にはこのようなステキ幼女がいないのであろうか!? 神よ! とか。

「……しんくろう……」
「ん? どうした?」
急に名前を呼ばれ、真九朗は返事をするも、紫からの応答はなし。どうやら、ただの寝言のようだった。彼女は小さく口を開き、真九朗の制服の襟をムニャムニャとしゃぶっている。夢の中では、まだ食事を続けているのだろう。「こらこら」と頬を摘むと、紫は「むう……」とぐずり、仕方なさそうに口を離す。その様子を見て、真九朗は思わず笑った。

・・・難しいコメントなど要らぬ! 可愛い! 猛烈可愛い! イラストも付いているシーンなんですが、もうこれは死者が出る可愛らしさです。

崩月夕乃

女性の理不尽さと怖さを全身に詰め込んだ真九朗の年上美少女。戦って強く、気合いも充実、私生活も完璧、外見も良しとケチのつけようの無い完璧の年上のお姉さん。

「……真九朗さん。これは、どういうことですか?」
「えっ?」
「どうして、すぐに追いかけて来ないんですか?」
「いや、だって、夕乃さん怒ってるし……」
「怒ってますよ」
「今日は、ここでお別れしましょうって……」
「言いましたよ」
「だから……」
「それでも殿方は、ちゃんと追いかけてくるものです!」

個人的には実に堪らないキャラクターですね。いいなあ・・・。

何やら神妙な顔。真九朗は急いで姿勢を正し、彼女の言葉を待つ。
夕乃は湯飲みに茶碗をテーブルに置き、オホンと咳払い。
「学生として勉学に勤しみながら、なおかつお仕事までしているあなたのご苦労は、わたしなりに理解しているつもりです。この世の中は、至る所に闇だらけ。迷いや誘惑は、さぞかし多いことでしょう。心が揺れたことも、何度かあるはずです。でも、大事なことを忘れてはいけません。それは我が家で、十分に学んだはず。そうですね?」
「はい、もちろんです」
「では真九朗さん。わたしが最初に教えた、人生の指針となる言葉はなんですか?」
「えーと…………年上の女房は金の草蛙を履いてでも探せ」
「偉い、その通りです!」

最初に教えた言葉がそれなんか・・・いいなあ真九朗。崩月家の母からも「クリスマスには夕乃とアレしちゃっていいわよ許可」が出ちゃってるし・・・くっそ〜! いいなあモテる奴は!
で、以下オマケ。

「ちずる、お兄ちゃんがいい」
「……えっ?」
「ちずるが大きくなったら、お兄ちゃんが教えてね?」
「あー……」
「やくそくね?」
真九朗の手をギュッと握り、散鶴は無邪気な笑顔。

・・・ちなみに散鶴ちゃんが「教えて?」と言っているのは、上で出ている「アレ」です。・・・俺なら即教えてあげるけどなあ!(え?)

村上銀子

ツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンデレ、位の割合でツンデレが存在している眼鏡少女。有能な情報屋かつ真九朗の一番古い友人であり、幼いころ一緒の風呂に入ったこともある仲です。

「料金の踏み倒しなんて、絶対に許さないからね。プロとして、きっちり回収させてもらう。お金がないなら、体で払いなさい」
「体って……」
「今年の冬休みは、うちの店でバイト」
……そうきたか。
「毎日通うのは面倒でしょうし、うちに住み込みでいいわ。ちょうど一部屋開いているから、そこを使えばいい。布団は貸してあげるし、三食も付けてあげる。朝の仕込みから閉店後の掃除まで、馬車馬のように働きなさい」

・・・これは怖い! 策士だ! そういう方向で貸しを作りまくって身動きができなくなった所を絡めとってしまおうという戦略か!
そうは言いつつも真九朗の甘い(優しいとも言う)所を人一倍心配しているのも事実でして、彼女は真九朗に、

「真九朗。まだ仕事を続けるつもりなら、気をつけなさいよ。この世界には、冷たい真実と、温かいウソしかないんだからね」
「優しい現実は?」
「それは、幻想というのよ」

・・・しかし、しかしですよ?
こういう言葉が綴られる世界で、逃げることなく真実と戦う真九朗の中から迸る嘆き、悲しみ、苦痛、そして怒りと喜びこそが、この物語に差し込む光そのものと言えます。
ま、厳しい銀子ですが、今回は彼女にとって(?)のサービスシーンもありますので、まあ損な役回りですけど納得してもらいましょう。

色々と

長々と引用をしてしまいましたが、そのくらいにはキャラクターの立っている作品ですので、読まれていない方は是非、という感じですね。特に今回は「電波的な彼女」の登場人物に間接的に言及していると思われる部分もあるので、そちらのファンも要注目です。
ただ・・・個人的には真九朗は揉め事処理屋なんぞさっさと止めて、ヒモ稼業でも始めた方が儲かると思ったりします。
料理も出来るし、世話焼きで優しい。そしてルックスも良く、戦わせても(それなりに)強い。これらの能力を開花させている結果、出てくる女全員(年上から幼女まで)にフラグ立ててますからねえ・・・! 2巻の「刃物持たせたら危険な人」も、ど〜もうさん臭いしなあ・・・。

総合

星4つ。面白いけどやっぱり途中で切れているのが痛い。
今回は星噛絶奈(ほしがみぜな)という危険人物も新規に追加されて(また女だ・・・!)、血なまぐさい匂い全開です。
ただ、今までの場合はどれだけ血なまぐさく、救いがなく、やりきれなく、煮え切らないという展開が前半を覆い尽くしていたとしても(2巻とか)、ラストの真九朗の清々しいと言える爆発があったからそれですっきりさっぱりと読了感も良かった訳ですが、今回は(上)とある通り、それが無い訳です。
そうすると暗澹たる展開がラストを覆ってしまうので、読了後の開放感が無いのです。話自体は面白く、キャラクターも魅力的なので続きが大いに気になるのは事実ですが、この本一冊で見た場合の評価は苦しくならざるを得ませんね。
ただし、続きの出来次第では評価がうなぎ昇って5つ星になる可能性も大いにありますので、作者の人には通常の5倍位の勢いで本を書いてもらって、来年の頭には続きを出版して欲しいもんです・・・! 急いでー! ここにガマンが出来なくてヨダレが出ちゃってる読者がいますよ〜!
イラストは山本ヤマト氏ですね。好きな絵師なので特に不満はありません。個人的には口絵カラーの出来が良いと思いますね。

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