アストロノト!

アストロノト! (MF文庫 J あ 5-1)
アストロノト! (MF文庫 J あ 5-1)赤松 中学

メディアファクトリー 2007-11
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おすすめ平均 star
starナキアミのメイド服姿がかわいかった
star活きのよい新人さん
starSFロマンラノベ

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失敗した
もっと早く読んでおけば良かった・・・
面白い。実に面白い

ストーリー

発展しつつある魔法と、そして古代の遺跡から発掘される科学とが、微妙な配合で共存している世界。
主人公のノトは、昼は港で、夜は自分で飲食店を開いて暮らしている「額に×字」の傷のついた少年。混血が進み、何人にも見えるし、何人にも見えないが、タフで優しく・・・そしてちょっと不思議な魔法「恋する共感(ラビン・シンパシア)」を使う事が出来た。
この能力は実は「自分の恋する相手が今どこにいて、何を感じているのか」がだいたい分かるというもので、大抵は女性に現れる能力らしい。でもノトにはその能力があったので、それを恥ずかしがって隠して生きていた。
で、彼はその日も——途中でケモノ耳の女の子(ナキアミ)を悪漢から助けたりしたが——「恋する共感」を使ってその相手である幼馴染みで優秀な魔法少女であるレンビアの世話を焼いたりしていた。
そんな彼の日常だったが、ある夜、夜空に浮かぶ月を見上げた時にそれは一変してしまう。

「俺……月に、行かなきゃ!」

意外と言えば意外、でも王道なファンタジー(SF?)作品です。

良いです〜

魔法も多少、科学も多少あるというアンバランスな感じも良ければ、「月へロケットに乗って行く」という突拍子の無さも良いですね。
しかも主人公のノトが「なんで突然月に行かなければならないと思ったか」がラストの方まで伏せられるので、その秘密についても楽しんで読みました。
それはそれとして、国を挙げて「月にロケットを有人宇宙船を飛ばす」というプロジェクトが進められているというのも突拍子が無いのは間違いないんですが、その辺りの物語への配合加減がまた上手くてですね・・・まあそう言う事もあっても良いかなという気持ちにさせられます。
東西冷戦時代の米ソではないですが、別に月まで行かなくても良かったんじゃ? と思わなくもない訳ですが、軍事的な理由や国の威信と言った理由より上に、現場にはやっぱり「ロマン」があったんじゃないかなあ・・・とか思う私としては、なんとも感じるものがありましたね。

キャラクターが好きです

いや、どのキャラクターも気に入りましたね。

ノト

実に良いですね。
訳あって突然宇宙飛行士になる事を決意してしまう彼ですが、普段は自分の日常を自分に出来る範囲で守り続けている少年で、実に真っ直ぐで清々しい若者という感じです。また、ライトノベルでは珍しく「レンビアが好き」というのも最初からはっきりしている所がまた良いですね。

ぶっちゃけると……認めるのが恥ずかしい事だったが……
ノトは、レンビアが好きなのであった。

のっけからこれですが、逆にこれがとても好感触でした。うん、ハッキリと心が定まっている少年の行動は良いです。
そうは言ってもノトは色々な理由から自分にコンプレックスを持っており、その思いを口に出せずにいる訳ですが・・・それでもいいなあ、こういう少年は。
宇宙飛行士になる事を決めた後も持ち前の真っ直ぐさ/必死さで駆け上がって行く事になります。

レンビア

ノトに思われている魔法少女です。ツンデレデレ(位?)。
魔法陣士(アラベスカ)という肩書きを持っている少女で、魔法の力を引き出す魔法陣の研究をしている少女です。まあ実力をメキメキ伸ばしているようですが、それでも失敗を連続していて、登場シーンは魔法に失敗して「壁に埋まった状態」で出ていたりします。
ノトとの仲は良いようですが・・・はて、彼をどう思っているやら?

「ばッ、バカノト! ちがうわよ! そ、そっ、そういう意味じゃなくて! ほ、ほら、時計見なさいよ! いくらあんたでも、こんな夜中過ぎに外なんか出歩かない方がいいってこと!」

つい「泊まって行きなさいよ」と言った後の反応ですが・・・可愛いですねえ・・・。

「ぴざ……」
妙に顔を赤らめながら、レンビアはセリフを噛んだ。
そしてちょっとのけぞり気味の姿勢になり、むりやりノトを見下ろすような目線を作る。
「ひざまくら、してあげるから! きょ、今日だけだからね!?」

少女キャラクターの王道ですが、でも見事な華ですね。
彼女はノト、ナキアミと絡みつつこの話の中心に居続けることになります。

ナキアミ

悩んだんですよ・・・レンビアを先に紹介するか、ナキアミを先に紹介するか・・・という位にはちゃんと魅力を発揮している少女です。
この世界にも少数しかいない「ラタラ族」と呼ばれる亜人の一人で、田舎者ですが、彼女も実は宇宙飛行士になるために故郷の期待を一身に背負って街に出て来た少女です。
そうは言っても自信家とは言えず、宇宙飛行士のテストで不合格になったと信じ込んだ彼女は、

「で、なんで穴なんか掘ってんのよ……?」
レンビアが尋ねると、ナキアミは上目遣いに2人の方を見てはらはらと涙を流した。
「こんなダメなナキはもう埋まりますっ。穴を掘って埋まって死んだ方がいいんです!」
「ちょっ……なによその個性にあふれた自殺法……」

というようなお笑い系でありつつも、

「えへへ」
ナキアミはシッポをうねうねさせながら、レンビアに笑いかけている。
「なによ」
「ノトがね、ナキのこと褒めてくれたんだあ」
「あっそう」
「いっぱい、なでなでしてくれたんだよ」
「……あっそ」
「ナキ、褒められちゃった」
「それは今さっき聞いたわよ」
「ノトの手って、すっごく優しくて、あったかいの……」
ぶち。
音が聞こえそうな勢いで、レンビアがキレた。
「あのねぇ! あんた、なんでそれをいちいちあたしに自慢しに来るワケ!?」
レンビアの剣幕に怯えて、ナキアミはそそくさとノトの背後に逃げてくる。
いまノトの視野のギリギリ外側に入った瞬間、ナキアミがフッと小さく笑ったように見えたが……まぁ今の流れで笑うわけはないので、疲れ目が錯覚でも起こしたのだろう。

絶対に錯覚じゃないぞ、それ

サベラ

良い所に生まれた貴族の女性で、かつ宇宙軍の将軍ですが・・・。
新天地を切り開くという夢を持っていて、それに向かって邁進しようとするうら若き女将軍でもあります。ノトやナキアミを見出した本人であり、夢と毅然とした態度を失わない見事な女性ですね。

「お前たち、そこの宙士を侮辱したな! それはつまり、宙将軍である私を侮辱したということでもある! もう一言でも侮辱すれば、このサベラ=ファーマインが鳳爵家の名にかけて——その素ッ首、叩き落とすッ!」

平民のノトとナキアミを庇っての行動です。素晴らしい。しかし、恋愛方面にはもの凄く疎くて・・・。

「うむ……うむ! こ、こんなカワイイ美少女に好かれるなんて、その男は三国一の幸せ者だぞッ!」
なぜか凛々しい顔になりながら腕を組むサベラは、その高い鼻からつつーと細い鼻血を垂らしていた。興奮のあまり、自分ではそれに気づいていないらしい。マヌケな絵である。

実に味がありますな〜。

さて

そんなキャラクター達を中心に「月面へ有人宇宙船を送り込む計画」が進むわけですが、もちろん恋の鞘当て以外にも色々な挫折や陰謀があったりしまして、飽きさせません。さらにはノトの動機が不明という事もありますし、もちろん「無事に月に到達する事が出来るのか」という危険なミッションも控えています。果たして、彼らの行く末に待っているものが一体どんな結末なのでしょうか?
このお話はそこに「幾つもの素敵な奇跡」を用意して待っていてくれます。あとはあなたがこの本を買って、読み始めるだけでその素敵な奇跡を体験出来るでしょう。

総合

星5つ。いや〜大好きですね。
キャラクターたちは上にも書いた通り王道ですが、使い方が上手いですし、全員がそれぞれの魅力に溢れいています。ノト、レンビア、ナキアミ、サベラ・・・それぞれが魅力的で飽きませんね。
それにやっぱり「今年の夏は、一足先に火星に!」なんてエントリを突発的に書いたりした事のある私としては、なんですか、宇宙的ロマンという奴に弱いのです。やっぱり大事だよねえ・・・そういう夢とか。
ラストシーンまで本当に上手くまとめてくれちゃって、探せばケチの付けどころとかあるんでしょうけど正直そんなのどうでも良いですね。大好きです。読まれていない方は、是非この本をレジに持っていってなんとなく買ってしまって下さい。面白いです。
イラストはbomi氏ですね。ちゃんとした宇宙船の絵が無かったのは残念ですが、全体で見た時コミカルかつ動きのある絵がとても好印象でした。好きですね。

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