時載りリンネ!(2) 時のゆりかご

頑張って書いた。頑張って書いたけど、何か足りない。うーん・・・。感想って難しいねえ・・・。

時載りリンネ!〈2〉時のゆりかご (角川スニーカー文庫)

時載りリンネ!〈2〉時のゆりかご (角川スニーカー文庫)

ストーリー

僕の家の隣に住んでいる女の子、リンネはちょっと変わった女の子だ。美味しいものは大好きだし、オシャレにも目がないけれど、たった一つだけ普通と違った所がある。それはリンネが「時載り」と呼ばれる一族の一人だという事だ。
「時載り」達は200万字の文字——およそ本10冊分の本——を読む事によって1秒だけ時間を止める事が出来る一族だ。普段はその力を使う事を家族に止められているんだけど、リンネは時々面白半分で時を止めてしまったりするような結構困った女の子だよ。
そうそう「時載り」の一族についてもう一つ変わっている所があったな。リンネ達は普通の食事の代わりに本を読んで食事にするんだよ。・・・その割にはリンネは読書が嫌いなんだけどね。
あ、そういえばついこの間、リンネは「時砕き」っていう世界に七人しかいない伝説の時載りの一人になったんだった。でもリンネは夏休みを普通に遊んですごしたんで、ちっとも「時砕き」らしくはならなかった。でも肌は小麦色になったよ。
——この本は、ちょっと変わった力を持つ少女と、その友達である僕、久高(くだか)が過ごした冒険を綴る、ファンタジーストーリー。

発売日以降

読み始めては止め、また読んでみて止め・・・ついにこんな日になってしまった。
・・・何故かって?
私は読書中に気になった所に付箋紙を貼るのを習慣にしているのだけど*1、この本は読んでいると自然に付箋紙だらけになってしまう。
ああ、ここの描写が美しい、こちらも湧き出るユーモアが良い、ここも生き生きとしていていいなあ・・・気がつくと数ページ毎にべたべたと付箋紙が貼られる事態になってしまう。
本来は感想を書く時に便利なように使いだした付箋紙が、意味を無くすどころか、逆に邪魔以外の何ものでもなくなっている事に気がつく。じゃあ一体どうやってその時感じた「快感」を記録しておけば良いのだろう? と考えた結果、読みながら随時感想を書くという新しい試みに挑戦するハメになった。
つまり、この本にだけ相対する時間を作れないと、感想が書けないと思ったのだった。

私は

基本的にラノベを読む時、その中でどんな出来事が起き、そして登場人物たちがそれをどうやって受け止めて行ったかという部分に興味が集中して、他は舞台装置と割り切るという傾向があるのだけど・・・この本は違う。
読んでいる最中に「時載り」ではないけれど、なにか美味しい食事をしているようなホクホク顔になってしまう。
ありきたりの日々の暮らしすらも、書き方によってはここまで瑞々しくなるものなのかという驚愕、感嘆、歓喜。読書中、柔らかく温かくそれでいてウキウキするような空気が本から滲みだし、自分の周囲1m位を覆ってしまうような気がする。

物語については

前作と同じく、やはり「逸脱者」と呼ばれる時載りの暗躍と、それに翻弄されるリンネと久高達のお話だ。
でも余り難しく考える事もないだろう。「時間」が物語の中心にあるとは言え、難しい理屈を考えながら読み進める必要もないと思われる。読者である我々はただ最初のページをめくるだけで良いのだ。後は流れに身を任せてしまえばいい。
そこに一度身を投じる事さえすれば、後はラストシーンまで物語が勝手に読者を運んでいってくれるだろう。
・・・こんな読書体験をさせてくれるライトノベル作家はそういない。強いて言えば、桜庭一樹は「匂い立つような色気のある文体」で私を虜にしているけれども、「清野静」も同じように「瑞々しくも優しい色香のある文体」で私を虜にしてしまった作家として、新しく名前を追加しなければならないようだ。

キャラクター

主人公のリンネ、語り部の久高、リンネの友達のルウを簡単に対比すると・・・、

「まったく。男の子って単純ね。広い場所を見たら走り回る事しか考えないんだから」
僕は口を尖らせた。
「じゃあ、ルウならどんなことをするんだよ?」
「そうね。私だったら木陰に座って優雅に好きな本でも読むわ。風が梢を渡っていく音や木々の匂いに包まれながら、お気に入りの詩集の、お気に入りのページを開くの。きっと素敵だわ」

とかなんとかルウがおしゃまな事を言って久高をやり込めていると、

「ほらほらルウ、そんなところで何してるのよっ。駆けっこしましょ。どっちが速いか、あそこの楡の木まで競争よっ。それっ」
言うなり、僕らの遥か前方をブロンドを靡かせダッシュで駆けていく女の子が一人。

リンネはこういう少女です。
そしてそれを見守り、自分から手を繋ごうとかはしないけれども、かならずリンネの手が届く所にいるのが語り手の久高少年です。
魅力的なキャラクターや描写には事欠かない本作ですが、とりあえずこの二人の間にある繋がりを想像しながら読む事が出来れば、それだけで楽しむ事は出来るでしょう。

総合

星幾つかなんて・・・改めてここで宣言する必要があるかな?
とにかく、なんだか華やかに語って来てしまったけれども、この物語はそれでもやっぱり「ライトノベル」と言って良いし、「ライトノベル」として王道と言って良い展開をし、そして「ライトノベル」として面白い。私の付けたカテゴリに「アクション」やら「魔法」やらといった文字があるけど、そういうものとして単純にストーリーを追いかけるのも良いだろう。
でも「読んでいるという行為」そのものが既に心地よい。これを読書の快感と言わずして何を快感と言おうか。
不思議だ。読んでいると物語の中の風景や出来事が心の中で、文字から音声へ、音声から映像へ、映像から描写されていない「何か」まで緩やかに変わって行くのを感じる。清らかな流れが止めどなく流れていく様を眺めている・・・と言えばしっくり来るだろうか。
私はこのシリーズが好きだ。
ストーリーだけで言えばもっと「夏みたいに波乱に富んで」、「秋のように趣き深くて」、「冬のように密やかな魅力」を持った物語があるかもしれない。でも、それでも好きだ。この本には「春みたいな穏やかさ」を感じるから。

関連リンク

雲上四季(『時載りリンネ! 2』に登場する書名&作家名リスト)
今回もsindenさんが怪しいパトスを炸裂させています。うーん、やっぱりスゲエ仕事ぶりではあるな・・・。

感想リンク

感想リンク
ちなみに「灰色未成年」さんの評価は厳し目なんですが、その気持ちが想像上ではなんとなく分かるような気もします。

*1:だからまとめて収納する時大変だったりする。