地を駆ける虹(2)

地を駆ける虹2 (MF文庫 J な 3-2)
地を駆ける虹2 (MF文庫 J な 3-2)七位連一  光崎瑠衣

メディアファクトリー 2007-12-20
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ストーリー

「力が欲しい」「憧れていた」「でもなにもして来なかった」
鬱屈した気持ちを抱え持ったまま引きずり続けた幼稚な憧れが一つの破綻を一人の少年にもたらした。少年の名をネイブという。
彼は一つの悲劇を元に戦うための力——エレメント<地の白>——を手に入れ、結果として大切なものを失い・・・憧れが地に落ちた事を知りながらその世界で生きていく事を余儀なくされます。自分の犯した償いきれない罪を少しでも清算するために。
そして彼はかつての戦いの師匠であったフレアの率いる戦士団に入団するのですが、そこでは新たな出会いと過酷な現実に直面する人々がいたのだった。
大きなものを失っても前進を余儀なくされる少年・ネイブの進む先にあるのは一体何か。シリーズの2巻です。

大体において

子供というのは青春時代のある時期「根拠の無い自信」に満ち満ちていたりするものですが、このストーリーではその真逆の人達が沢山でてきます。つまり自信やら意地やらを現実という奴に叩き折られて凹みまくった状態の連中が出まくっている訳ですね。
その筆頭が主人公のネイブです。

「なあ。起きてくれよ」
返事はない。
「なあ」
呼びかけというより、それは懇願だった。
「なあ、死ぬのか。また、おれの前で死ぬのか」
声は次第に嗚咽に変わっていった。背筋が折れ曲がり、自然、ベッドに前のめりに伏す格好になる。
「頼むよ。起きてくれよ。もう、おれのせいで、死なないでくれ」

未熟。どこまでも未熟。
大切なものを失いながらも、人はそんな簡単には変われない。相変わらず肥大しっぱなしの自意識が彼を苛んでいます。
そしてその彼の肥大しっぱなしの自意識を、別のキャラクターは一刀両断します。

「あんたさ、人が死んだら、暗い顔してればいいと思っているんでしょ。そうやって、死んだ人を悼むふりして、心の中では別のこと考えているんだ」
「なに言っているんだ? ちがう、おれは——」
「違わないよ。そういうことでしょ? あんたは生き残っちゃったことが悪いような気がしてるんだ。それで、死んだ人に『こんなに反省してる』『こんなに悪いと思ってる』っていう態度を見せて、『だから許して』って言いたいだけなんでしょう。許してほしくてやってるだけなんだ。自分のためなんだ。この——卑怯者」

・・・ちょっと違うんじゃないかな〜。でも当たっている所もあるんだろうな〜、なんて思いながら読んでいましたが、この作品は脛に傷持つキャラクターしか出てきませんので、言っても言われてもそれは反射して自分に降り掛かる事になります。

そしてまた

今回はスヴァルトという「かつてのネイブ」のようなキャラクターが出てきます。
彼は戦士でしたが、怪我が元で戦いを取り上げられます。一種の戦闘ジャンキーなのですが、彼はそれを取り上げられ・・・やはりエレメントに縋り付きます。

寄る辺を、生き様そのものを破壊され、スヴァルトの舞台には幕が下ろされようとしている。それでも生き続けようとするならば、残りの生涯はこう呼ばれるものになるだろう
余生、と。
「余生……だと」
スヴァルトは怒りにうち震えた。余生。余りものの生。なんとつまらない響きだろう。薪が燃えたあとの炭のように、たとえ熱はあろうとも、二度と自ら炎を生むことはない。ほの赤く色づいて、誰にも気づかれぬまま、静かに少しずつ冷えていくのだ。

スヴァルトとネイブは反発しながらもお互いを深いところで理解し合います。

奴もきっと、同じ気持ちなんだろう。でも、お前の気持ちはわかるだなんて言えやしない。<地の白>を手に入れた今となっては、きっと皮肉にしか聞こえない。

現代でもありますね、こういう関係・・・。

あとこの本

結構な名言が詰まった作品じゃないでしょうか。エゴイズムに満ち満ちた名言ですが・・・。
人の死を前にして・・・。

「ああ、くそ、重い」
文句を吐いて、でも、とネイブは思い直した。これは命の重さなのだ。温かい体。まだ生きている。死ぬな、と呟いた。なあエルザ、おれはわがままか。お前のためでなく、おれの自己満足のために死ぬなという、おれはわがままか。

命を投げ出そうとする者に対して・・・。

「そのあとも色々言われてさ、極めつけがコレ。『そんなに死にたいんなら、今度はおれの見てないところで死ね!』」

焼かれていく本を眺めながら・・・。

「それでもいいんじゃ。薪の山に見えるというなら結構。じゃが奴らは、それが宝の山に見える我々のような人間がおる、ということを知ろうとせん。奴らの幸せは儂らの幸せ——ふん。そんなはずがあるまいて」

死を前にして・・・。

「俺を……憐れんでくれるな……この虹を……この輝きを……この生き様を……否定してくれるな……他の誰が否定しても……どうか……お前だけは……どうか」

総合

個人的に痛い人達がリアルな感じで好きですね。星4つ。
なんというかひたすらにみっともなく、見苦しく、ろくでもない話ですが、その見苦しさが味ですね。
今回はタイトルに関連しそうな「虹」というエレメントが出てきますが、今後ネイブの前にどのようにしてこのエレメントが横たわるのか興味が出てきました。ご都合主義に流れていくのか、あるいはひたすら報われずそれでも前を向いて歩くことを要求される物語になっていくのか・・・分かりませんが、しばらくは見守ってみたいと思える作品ですね。

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