銀月のソルトレージュ(4)

銀月のソルトレージュ 4 (4) (富士見ファンタジア文庫 147-5)
銀月のソルトレージュ 4 (4) (富士見ファンタジア文庫 147-5)枯野 瑛

富士見書房 2007-12
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ストーリー

かつて一人の魔女がいた。
その魔女は自らの力を大量の「本」の形にして封じたが、封じた力は少なくない数の人間を蝕んだ。そして蝕まれた人間はそのまま不死者(レヴナント)となり、現代を未だにさまようという。
ジネットという女性がいる。彼女は「琥珀の画廊」という魔道書の力を身体に宿した不死者であったが、彼の前に姿をあらわしたリュカという若者がジネットの生き方を少しだけ変えてしまう。
そしてそのリュカが行方不明になった事によりジネットはリュカを探す旅へ・・・それから2年の月日が流れた。戦争の始まった世界は陰鬱な空気に包まれていたが、その中で偶然ジネットはソルと名乗る小年と邂逅する。
パワーバランスが崩れ、全てが曖昧になりつつある世界で始まる新たな不死者たちの戦いを描いた4巻です。

・・・微妙に足りない。

と思った4巻でした。
何が足りないの? って聞かれたら「今起こっている事を映像化するために必要な描写が足りない」ですかね?
特にオリジナルの設定の「夜の軟泥(ワルプルギス)」とかが活躍するシーンでの描写に物足りなさを感じます。確かに設定としての「夜の軟泥」は魅力的だったりするのですが、それが物語の中で使われる時、

  • 基本的にどんなものなのか。
  • どのような用途として使われるものなのか(基本と応用的な使い方全て)。
  • 使っている時にはどのように見えているものなのか。

といった辺りの表現に足りなさを感じます。

夜の軟泥によって書き換えられたその世界に踏み込んできた銃弾は、その瞬間に、内包していた運動量をぐちゃぐちゃに捻じ曲げられ、
自壊し、あさっての方向へと放り出された。

・・・いや、その展開に納得出来るかと言えば納得出来るだけの必要な量の描写はあるのだけど、十分ではない、という感じですかね。
どのように夜の軟泥は出現して、どのように物理法則に作用して、どんなものとして知覚されているのかという「客観的な描写」が弱いと感じました。
上手く説明出来る自信がありませんが「作者の脳内では十分すぎる描写、でも私という読者の脳内では『・・・?』という描写」でしょうか。・・・「作者本人&何度も本作を繰り返し読んでいるディープな愛読者」だけが納得出来る作りになっているような気がします。
別の言い方をすれば「円環少女」から「魔術が発動する際の論理的な説明を5割削った感じ」とでも言えば良いですかね。原因から結果に至るまでの途中経過の描写が足りないと、そんな風に感じます。分かるけど、物足りない、そんな感じです。

・・・もう一つ足りない。

今度はなんだよ? って言われそうですが、ズバリ「我慢」あるいは「ページ数」ですね。
この作者の本を読んでいて一番魅力に感じている所は何かと言われたら「その世界観とキャラクター描写の秀逸さ」と答える私なのですが、個人的に読んでいて

「ちょい役のキャラクターもちゃんと掘り下げるだけのページ数があればもっと魅力的になるに違いないのになあ・・・」

と思ったりした訳です。
この本でちゃんと描写に文字数が割かれていて、ちゃんと定期的に登場しているキャラクターと言えば、リュカ、ジネット、アリス、アルト老位なんですが、他のキャラクターの描写が削られている所がもの凄く惜しいです。もっと具体的に言うと「そのキャラクターを形作っているはずの過去の描写が削られているところ」ですね。
今回で言えばエンリケッタやクロアはとてももったいないと感じましたね。クリストフは結構書かれていましたが・・・もっと前の話からこの三人を積極的に本編に登場させておいて良かったんじゃないかな? と思いましたね。
物語の展開には「空白の2年間」がある訳ですが、そこを空白にしないで一冊くらい本にしてくれると嬉しかったかなあ・・・なんて思いました。変な言い方ですが、ソル、エンリケッタ、クリストフ、そしてヴィルジニィが主演の話を読んでみたかったと思ったという事ですね。あるいやクロアやその他の面々の話です。
え? その話でのジネットとアリスのフォローはどうすればいいかって?「その頃のジネット」「その頃のアリス」みたいな感じで短編挟めばいいじゃない! なんて思ったりして・・・。

なんて

マイナスっぽく感じた所を並べ立ててみましたが、それでも面白いことは変わりないですね。
上の2点は「私的5つ星に届くための足りないと感じた所」であって、「これが足りないから全体としてつまらない」という意味ではないです。やはり人間味があって味のあるキャラクター達は魅力的ですし、全体的な世界観も魅力的であるからですね。
やっぱりちょっと素直になっているジネットは可愛いですし、

「本当に、気づくのか遅すぎるのだな、私は。諦めなければならない今になって、ようやく分かった。私は彼を必要としているのだと……いや、欲しがっているのだと、今なら素直に認められる
これが、私が今追い求めている望みのひとつなのだと、躊躇わずに口にできるよ」

・・・もう完全なる愛の告白ですが、本人不在ですしね。ジネットの気合いが試されるのはこれからかなあ?
あと、新しく登場したソル少年も見逃せないです。

「さっき、あなたの顔を見たときに、何か思い出せそうになったんです。
なんていうか……僕の中の誰かが、あなたを見て驚いた……」

うわ〜うさん臭い。まあその理由は本編でどうぞ。
それに加えて注目すべきはクリストフですね。

「おぼっちゃま!」
「…………」
「…………」
「…………」
《…………》

色々な意味で泥沼だなあ・・・。

前の感想で

良く分からんね、と書いた辺りですが、今回ちゃんと分かった辺りを書いておきます(当然ネタバレ有りですので注意)。

魔女の書いた「魔法書」から生まれた魔術を使う者には2種類いて、

焼け残った「魔法書」をそのまま使う者達の事です。

    • 魔法書の代役(バーント・グリモア)」=「不死者(レヴナント)」である*2

焼けた「魔法書」から流れ出した「夜の軟泥」が人間の中に宿ったもの達ですね。「魔法書の中身」に取り憑かれている者達ですね。

  • 妖精(フェイ)システム

フィオルとリュカがナニしてアレするシステムです。世界を誤解させて安定させるシステムと言い換えても良いのかも知れません。つまり魔女は死なない。

「わたしとリュカの、どっちに似てるかは分かりませんけど、きっと良い子ですよ」

まあその辺りは本編で確認を。

総合

相変わらずの星4つ。やっぱりキャラクターの魅力によるところが大きいですね。
今回はラスボスっぽい存在としてロジェ・ヴィルトールという野郎がピックアップされますし、その正体についても一端が明かされることになります。そして物語に復帰するキャラクターと、新しく登場する不死者の存在。とにかく次の話がどうなるのかが楽しみですね。
物語の舞台もまたフェルツヴェンに戻るような気がしますし、そうすると私の好きなアリスも再登場してくれそうですから次が楽しみです。
イラストはやっぱり私の好みストライクな得能正太郎氏ですね。表紙も口絵も本編内のイラストもどれも良い感じです。

感想リンク

*1:ライア・パージュリー(クローディア)やクリストフは不死者とは言えなそう。

*2:ジネットやアルト老など。