薔薇のマリア(8)ただ祈り願え儚きさだめたちよ

ストーリー

ジェードリの街には平穏が戻っていた。
港町を襲った血みどろの戦闘は終り、マリアローズ達、クラン・ZOOの面々は観光したり、海に行ったりして穏やかな時間を過ごしていた。そうした中、マリアローズはあの糞溜の街・エルデンと——あいつを思い出していた。
エルデンに帰ったらあいつとの関係をはっきりさせなければならないだろう・・・そんな想いがマリアローズの心を去来する。でもどういう風に「はっきり」させたらいいのだろう?
そんな気持ちを抱えたマリアローズを乗せた馬車はエルデンへと進んでいく・・・しかし、その先で待っていたのは・・・。

ああああ!?

な、何が、何が起こっているのですか!? いや、こんな展開になるとは思っても見なかった。
これはアレですよ。外伝の3巻読んでないと何が何やらさっぱり分からんかったと思いますよ。でも読んであったので分かりましたけど*1、一体何が起こっているんだい??? という「?」は終始脳みそのどこかにあるような感じでしたね。
現実? 夢? それとも何かの魔法? 必殺技? 精神攻撃? みたいな何を信じたら良いのか分からない状況。まあ「あの人」が出て来ているので7巻とは直接繋がらない時空での物語という事だけは分かるのだけど。

しかし

やっぱりアジアンを「薔薇のマリア」シリーズの「もう一人の主人公」と認めざるを得ないんだろうなあ・・・。
個人的には、マリアローズの述懐じゃないですけど、

嫌いじゃないけど、好きじゃない。

そんな感じです。
アジアンの真実はまだまだ伏せられたままですが、マリアローズに対しての心情がまるで刃のように真っ直ぐで、一片の曇りのないモノだというのは分かっちゃいるんですが・・・むーん・・・。
心境としては「娘は貴様のような馬の骨にやる訳にはいかん!」みたいな感じ? あ、つまり捻くれた嫉妬みたいな感じですかね。

まあそれはそれとして

本作ではアジアンを語り手として彼の無垢な魂の始まりと、人間性の獲得、そして人との繋がりを意識しだした過程がつぶさに描かれていきます。
さて・・・これが本当の事なのかどうかは別として・・・いやあ、この作者には驚かされますね。一冊の本に詰め込まれた文字数もそうですが、まるでアジアン本人が作者の隣に実在しているかのような描写です。というか作者の別人格とかと違うかって感じですかね。
作者の人は「マリアローズの中の人」であり「アジアンの中の人」であり・・・というか「薔薇のマリア」シリーズに登場する全ての登場人物の「中の人」な訳で、うーむ・・・。
でもこういう展開は今回限りにして欲しいと思ったりもする。これ以上続くと「独り言述べる」・・・じゃなかった「独り言ノベル」になっちゃうので、いつもの俯瞰視点の楽しさが無くなっちゃうから。

ところで

今回もナイス台詞などはあちこちにあったりしますので、その辺りはご安心下さい。

「何が大切か、何を守るべきなのか。簡単なようで、意外と難しいよな。考えりゃあわかるはずだって思うんだが、これがなかなかそうでもない。人間は揺れるもんだしな。今はこうでも、一瞬後にはまったく正反対のことが頭にあったりする。結局、自分で決めるしかない。いったん何か心に決めても、折りにふれて迷うかもしれん。ふらつくことだってあるだろうさ。それでも歩いていくしかないしな。よさそうな道がなくたって、いつまでも座りこんでいじけてるわけにもいかん。」

実はこの台詞はもっと続くんですが、きっと作者もこんな気持ちで「薔薇のマリア」というシリーズを書き続けているのかな・・・なんてしみじみ思ったりしてしまいました。作品の中にどんな日々の想いを織り込んでいっているのだろう? きっと作者本人にしか分からない「それ」を感じる事ができたらな・・・なんて思いました。
あと、

あいつは、おお、と泣いた。おお、おお、おおお。

この辺り・・・上手いなあとしみじみ思ったりしました。

総合

星4つ・・・だけどね。アジアンのファンの人にはたまらない展開ではないでしょうか。
謎は謎のまま、いっそう怪しげな匂いを放ち始め、変な人も出てきますし、なんだかあとがきによると来月には9巻が出るとか書いてあるし、マジで? 作者の人過労死とかしない? みたいな心配をしてしまったりする訳ですが、まあ読者としては読めて嬉しいので文句はないのだけどね。
しかし、本当にどこに流れていくのかなあこの物語は・・・。
イラストは相変わらずのBUNBUN氏です。口絵カラーと表紙に出てくるマリアローズの可愛らしさは素晴らしいの一言ですな。相変わらず性別不明だけどね。

感想リンク

*1:感想は書いてないのにな!