アンダカの怪造学(8)Every DayDream

アンダカの怪造学 8 (8) (角川スニーカー文庫 185-8)
アンダカの怪造学 8 (8) (角川スニーカー文庫 185-8)日日日

角川書店 2008-01-01
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ストーリー

憤怒大公の侵攻を退けた怪造学会。しかし古頃怪造高等学校は機能停止を続け怪造学会の総本山となっていた。
そしてそんな中、最終兵器とも言える「独唱第五番(パンドラ・オンリーワン)」の使い手となった空井伊依(すかいいいより)は、最終兵器として保護されながらも、一時的に止まった敵の侵攻に対してどう振る舞ったらいいか分からない状態で宙ぶらりんになっていた。
しかし彼女の知らない所で既に次の侵攻は始まっていた。憤怒大公の次に姿を現すのは・・・悲哀大公。そして姿を消していたヴェクサシオンが伊依への憎しみも新たに接近する。
一つの決着が付く事になる最新刊の8巻です。

メインは

悲哀大公ではなくてヴェクサシオンですね。
彼女の内面が伊依と同じか——それ以上に丁寧に語られます。ヴェクサシオンのその悲惨の一言に満ちた半生が。
どうも個人的には伊依よりもヴェクサシオンに感情移入しちゃいますね。もちろん伊依が悪い子だとかっていう事はもちろんないんですけど、やっぱり良くも悪くも主人公。強過ぎるんですよね。
というか・・・伊依の周りの仲間たちの結束が強過ぎて、ヴェクサシオンがどれだけ強かろうとページが進めば進むだけ負ける気がしなくなってくるところが何とも・・・。ひとりぼっちのヴェクサシオン

「なんで、どうして。どうして。どうして——わたしなんだ。どうしてだ。どうしてだ。なんで、あそこで笑っているのが……わたしじゃないんだ、誰か、応えてよッ——どうして、あいつじゃなくて、わたしなんだ……ふ、不公平だっ、あいつも、せめて——わたしと同じくらい……」
それは宣言だった。
人知れぬ、宣戦布告だった。
「あんたも絶望するべきなんだよ…… 空井伊依……!」

なんて、なんて悲しい一人の戦い。力の強さは時として悲劇の引き金ですらある。
そしてヴェクサシオンの悲劇の罪と罰は、一体誰が背負うべきなのか・・・。

そして

対する伊依ですが、いやあもう立派なもんです。
正直心配する所がない程には強いですね。しかし、人にはこんな風に言われたりする事もあります。

<理想の男の子がいないって、それは当たり前なんだよね。理想なんだから。イデアなんだから。男の子は天使じゃない。理想の産物じゃない。神格化して、理想のイデアに恋をして、ほんものの、現実に生きている男の子を見ないのは可哀想だ>

女の子に置き換えたりすると、あら? イタタタタタ・・・。なんか生々しく痛い気がするのは気のせいか!?
あるいは、こんな風に。

あなたって、けっこうたまに残酷だよ?

強く、激しく、一つの道を進もうとすることは、時として知らぬ間に周囲を傷つけている。
その強さと真っ直ぐさで一直線に進むだけで辺りを見渡す事をしない時、見えない所で誰かを踏み躙っている。そしてその事に人は一人では決して気がつかない。何故なら自分は——普段通り歩いているだけだから。
でも人の目があって、伊依は気がつく。共に手を取り合って歩いていく事の大事さを。

他人を好きになって、その親愛に甘えて、支えあうことは、恥ずかしいことじゃない。
むしろ、見ないふりをして遠ざけるほうが、よほど残酷だった。

次に問題になるのは・・・先に心を開くのは、自分? それとも他の誰かって事でしょうね。
でも彼女の周りでは既に心を開いた人達が沢山いた。それが、伊依の幸せ。伊依の強さ。気がつけばそこに道はあった。それが伊依の築いて来た道。

第三部ということもあって

色々と物語の伏せられていたカードも徐々に開いていって、ラストシーンが近づいているのだなという感じをさせてくれる展開でしたね。
これ以上捻くれ曲がった展開にされると先読みが全く出来ない・・・でもこれ以上シンプルにすると妄想する楽しみもない・・・そんな絶妙な所で話を作っているなあという気がします。楽しんで読むための条件をちゃんとそろえているという感じですね。

総合

でも星4つ。
ラスト。ラストの展開だけ納得・・・というか釈然としなかった、かな?
自分だったらきっとそういう風に生きてしまうだろうという気持ちもするけど、フィクションだからこそ無慈悲であって欲しかったという気がしないでもないですね。しかしそうなりきらない所が日日日という作家の持っている「あんしんのクオリティ」と言えそうです。
でも優しさって一体なんだろうと感じる一冊でしたね。ひょっとして「死ね」という言葉は「生きろ」より優しいのかもしれない・・・なんて感じた一冊でした。飼えない犬は拾うべき? 見捨てるべき? それとも一思いに殺そうか? 皆さんなら答えはどう出しますか?
ところで本編で出て来た「鬱魂」ですけど、なんて嫌な技なんだ・・・。聞いただけでタマが縮むわ!
イラストは相変わらずのエナミカツミ氏です。裸エプロンイラストなどもあったり、おっぱいポロリとかもあるんですが、うーん・・・不思議と色気を感じないなあ・・・。いや、好きだけど。

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