モーフィアスの教室

モーフィアスの教室 (電撃文庫 み 6-20)
モーフィアスの教室 (電撃文庫 み 6-20)三上 延

メディアワークス 2008-01-10
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おすすめ平均 star
starテンポ良く流れます
star「妹」と「棗」をもっとプリーズ。
star続巻が待たれます

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ストーリー

両親を共に既に亡くしている高校生・岸杜直人は毎夜の生々しい悪夢に悩まされて、ここの所寝不足が続いていた。
彼の悪夢と時を同じくして、彼の通う学校でも一つの悪夢が話題になっていた。どうやら「ヨミジさん」と呼ばれる「かつて転落死を遂げた少女」に関連する悪夢をクラスメイト全員が同時に見ているようなのだった。そしてその悪夢の中では「赤い目」を持った灰色の怪物が現れ、クラスメイトを食べてしまう・・・そして食べられたクラスメイトは目覚める事のない眠りについてしまうという異常事態が起きていたのだった。
しかし、訳も分からず混乱する直人に幼馴染みの少女・久世綾乃が警告と助言をし始めた事によって、事態は別の顔を見せ始める。「何かの事実」を掴んでいるらしい綾乃と一緒に事件解決に乗り出した直人の前に広がる、驚愕の展開とは。
夢と現実の狭間を描いたファンタジー作品の1作目です。

おお

面白いですね。
夢と現実っていうのは比較的良く使われるテーマですが、しばしば「どこから夢でどこから現実か」と言った「幻惑される感じ」を楽しみの一つとして盛り込むケースが多いですが、この話はその区別をはっきりと付けるようにしている所がちょっと新鮮だったりしました。
普通に読み進めるとホラー的な要素が強いのですが、ホラーだけに陥らないためのオリジナルな設定も興味深く読ませてもらいましたし、全体で見た場合に綺麗にまとめたなあ・・・という感じがします。

また

結構新鮮だったのがキャラクター描写ですかね。
直人は別段変わったところのない少年として描かれますが、ライトノベルでありがちな気が弱かったりタイプや流されやすかったりオロオロしたりするタイプや異常なまでに人が良いタイプというよりは、ごく普通に「腹が立てばヒロインにだって皮肉を投げつけたりする」、本当に現実にいそうなタイプとして書かれます。

「頼りにならない奴の助けなんかいらねえだろ。お前が一人でやれよ」

この時はこの時で「まあそういう反応をしてもおかしくはないよな」という感じですね。少年はただの少年で、伝説の勇者でもなんでもないですし、馬鹿みたいなお人好しでもないのです。そして、そこが良いですね。
そして久世綾乃ですが、こちらもなんと言いますか・・・不器用な感じがとても新鮮ですね。
正直に言うと「不器用過ぎ」なんですが、その不器用さ加減が実に上手く書かれていて、好感が持てます。難しく考えなければもっと上手くやれそうな気もするんですが、なんといいますか、見え隠れする本音を深読みしていくと実に可愛らしいキャラクターです。

「……このヘタレ」

読み始めは本当に「ただの口の悪い少女」なんですが、読み進めると印象が変わってくる感じは良いですね。また、最初から最後まで凛々しい印象崩れなかったのも良かったです。描写がとてもナチュラルで良い感じです。

彼らに加え

クラスメイトの倉野棗(大人しくて真面目、そして判断力に優れた美少女!)や、直人の妹の水穂がいい味を出しています。
特に水穂は綾乃との仲が悪く、直人に対して、

「あんな人と、仲良くしてる人は、うちには入れません……」

良くできた妹なんですが、この微妙な怖さが嬉しいような怖いような・・・いや、怖いな。

総合

星4つ付けちゃうな。
中盤からラストにかけての急展開は、ともすれば荒唐無稽となってしまいそうな暴走特急という感じでしたが、それを上手く御してちゃんとラストシーンにまで繋げきったという感じがしますね。また、秘密として伏せられたカードを空けるタイミングも良かったように感じました。
ライトノベルのジャンルとしては私が余り好きでは無い「ホラー」に入る作品だと思うのですが、キャラクターも良いし、設定も良いし、全体の流れも良かったので楽しく読んでしまいました。うんうん、次も読むね。
イラストは椎名優氏です。表紙、カラーイラスト共に非常に好感触です。特に綾乃のイメージは強気で凛々しく、実に良いのではないでしょうか。本編内のイラストも好きですね。

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