腐り姫

腐り姫
腐り姫
Liar-Soft 2002-02-08
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おすすめ平均 star
star伝説の傑作
star何かを求め続けるものが辿り着く先を描く

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いやその・・・価格の関係でつい手を先に出してしまったんですけどね・・・。

ストーリー

父と妹が死んだ。そしてそれと同時に自分の過去を失った青年・簸川五樹(ひのかわいつき)は、失われた記憶を求めて故郷である街・とうかんもりにやって来ていた。そこで彼は蔵女(くらめ)と呼ばれる妹に瓜二つの少女と出会う。それが物語の始まり。
そして世界は巡る。同じ夏の4日間を繰り返し、最後の日には世界は必ず赤い雪に包まれて腐り落ちる世界で、主人公は自らの失われた記憶を求めて時間と記憶の迷宮を彷徨う・・・。

映像と音楽がとても良い!

ゲームを始めた直後から感じた事の一つに映像と音楽がとても素晴らしいという事が挙げられますね。
水彩で滲むように描かれた風景と、そこに当てはめられるキャラクターの表現も良ければ、音楽の紡ぎ出すムードが素晴らしいです。背景画はそのままPCの壁紙にしたくなるような雰囲気を持っていますし、音楽もBGMとして流しておきたいような気持ちにさせられました。
もうこの二つでかなり物語に引き込まれてしまいましたね。

オープニングムービーがyoutubeにあったので、それを張っておきます。映像と音楽のイメージがこれで掴めると思いますので。

そして

物語は主人公である簸川五樹を中心に語られる訳ですが・・・最後までプレイし終わった後に残るこの感情をなんと説明したら良いものか・・・正直今とても困っています。
主人公を含め登場する人物達は全て秘められた過去や罪の意識や決して見せまいとしている欲望を持っています。そして登場人物達の持つ欲望を蔵女を切っ掛けとして、そして五樹が過去の記憶を掘り起こす事で明らかにしていく事になるのですが・・・そのどれもがとても、とても醜くて・・・そして美しいのです。

この話は

近親相姦を中心に扱う事になるのですが、ゲームを進めて登場人物(特にヒロイン達)の心の奥底を覗き込む事によって、そこに善とか悪とか、モラルとかいった感覚を持ち込む事がおかしいように感じるようになって行きました。
上手く説明出来ませんが・・・人を愛したり欲したりする事に本当にタブーは存在するのだろうか? 愛し合う二人の関係にタブーは本当に存在するのだろうか? という気持ちになるからです。
兄を愛してしまった、息子を愛してしまった、そして欲してしまった、そして受け入れてしまった・・・これらの感情は確かに社会規範的に言えば間違いなく「タブー」であるはずなのです。しかし、研ぎすまされて不純物の無くなった欲望はむしろ美しく見えます。
そして、彼女達はその真っ直ぐな欲望のために全てを投げ出してしまえる。そうして今まで積み上げてきた過去が崩壊する姿に一つの美意識を見出す事が出来るのです。つまり・・・この話は美しい破滅の物語なのです。

キャラクター

登場人物を少し追いかけてみましょう。多くはありません。

簸川五樹

過去の記憶を失っている主人公。
物語の重要な要素はほぼ全て彼の過去に隠されています。性格は穏やかで、包容力に優れていると言っていいでしょう。本編で多くは語られませんが、その優しい性格と整ったルックスから女性に良く好意を向けられていたようです。

蔵女

赤く古ぶるしい着物を纏った謎の童女
神出鬼没で五樹の周りに登場し、物語を展開させる存在です。彼女の本当の姿に迫る時、物語は同時に終焉を迎えます。

簸川樹里

五樹の妹で、物語開始時点で既に死亡していますが、物語において非常に重要な存在となっています。
彼女の生き方を肯定する事も否定する事も出来ないのがこの物語の素晴らしいところでは無いでしょうか。何もかも投げ出して、ただ一つの大事なものを貪ろうとするその姿は・・・人間の本性そのままのような気すらします。
愛故に何もかも捧げる、愛故に何もかも奪う・・・それは表面だけなぞるととてもとても恐ろしい事に見える。でも当人達にとってはどうだろう? そこには奪い奪われ貪り貪られるという「終りの無い循環」にはまり込んだ一種の恍惚が存在しないだろうか?

簸川芳野

五樹の義理の母。全盲の女性ですが常に穏やかな雰囲気を纏っており、家族の中心となっていますが・・・。
正直にいってこの人のHシーンが一番淫靡に感じましたね。なんというか、壮絶というか・・・しかしその様は淫靡になればなる程美しく花開きます。

簸川潤

五樹の義理の妹。芳野の連れ子であるため、五樹との血縁関係は存在しません。
常につけているヘッドホンがトレードマークで、五樹としばしば衝突します。キュートな印象ですね。五樹の実の妹の樹里と対極にいるような存在として描かれますが、その本音とは・・・。ちょっと痛々しい少女ですね。

伊勢きりこ

五樹の恋人ですが、五樹はその記憶を失っています。
五樹が過去を取り戻そうとする事について積極的に反対する姿勢を持っていて、とうかんもりに帰ってしまった彼を追って東京からやってきます。この人のHシーンもなんだかこう・・・いやらしいですねえ・・・。

簸川夏生

五樹の年上の従姉妹。
五樹が過去を思い出そうとすることを積極的に賛成していて、反対の姿勢の伊勢きりことは犬猿の仲です。結構怖い人。

総合

星4つ・・・でしょうか。
恐らくですが、普通のゲームの作り手が作らないところまで話を作り込んでしまった結果、どこにも逃げ道が存在しない閉塞へとひたすら向かっていく様がなんとも・・・説明に困ります。
また、ラスト付近の展開は賛否両論ありそうです。突飛な展開であるという事もありますが、それとは別にラストの展開のおかげでプレイヤーは確かにこの迷宮の最終地点に到達する事が出来ますが、それはあくまで最終地点であって「迷宮の出口」ではないという所が問題です。終着点にはただ一つ、どこまでも美しい破滅しか無いからです。
こう言っては何ですが、ゲームプレイ後に夢や希望や妄想をさせてくれる余地がどこにも残りません。例えば先日プレイした「CROSS†CHANNEL」では「その後」を想像する余地がありましたが、この話は一切それを許してくれません。
辿り着いた先にあるのは破滅・・・破滅・・・腐り落ちて消え行く破滅・・・しかしその様は美しく、プレイヤーはその美しさを受け入れる他無く、しかもその破滅は恐らく幸福であるに違いないのです・・・。

感想リンク