レヴィアタンの恋人(3)

レヴィアタンの恋人 III (ガガガ文庫 い 2-3)
レヴィアタンの恋人 III (ガガガ文庫 い 2-3)赤星健次

小学館 2008-01-19
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ストーリー

2077年、現代文明が一つの破滅的なウイルスによって跡形も無く破壊されたあとが物語の舞台。
そんな時代の中、調布新街に暮らす人々のコロニーは、白河の侵攻を受ける事態に対してすぐさま「武蔵野共同戦線」を構築し、白河軍との全面戦争に踏み切る事となった。白河軍と武蔵野軍は荒廃したかつての新宿で正面衝突をすることに。
そして戦いに駆り出される超人・特進種である女性の久坂ユーキ。そして彼女にタマと名付けられた若者。彼らを中心として、過去の因縁、幾つもの思惑、そして容赦の無い現実を見せつけながら描かれる近未来の歴史。
前巻の比較的おとなしめの展開は一気になりをひそめ、血で血を洗う戦いの描写に明け暮れる3巻です。

戦争なので

いきなりのグロ度アップです。
私は別にどうって事無い感じではありましたが、本編を覆い尽くす湯気が出そうな臓物描写とかは嫌な気分になる人もいるかも知れませんね。例えば・・・、

鋼鉄と鋼鉄が激しく打ち合う。そこかしこに斬撃の火花が散り、倒れた肉体からは湯気と一緒に様々な内部器官が漏れ落ちて、はみ出た十二指腸が軍靴の底で踏みにじられる。悲鳴、絶叫、断末魔と荒ぶる蛮声が交響する。切断された肉体の部位が宙を舞い、血飛沫はやがて赤狭霧となり、足下では人間のなれの果てが思うさまに踏みにじられて、汚穢暗色の沼沢へと変じていった。

まー正直、想像力の優れた人なら出来立てほやほやの脳みそ灰色って感じが飛び散ったりする様とか、筋繊維の断裂するプチブチって音とか大腿骨やら肋骨やら背骨やら頭蓋骨やらがへしゃげる音やらがもれなく再現出来るような描写がみっしりです。
・・・ま、多分大丈夫じゃなかろうかとは思いますけど。

今までは

どちらかと言えばタマとユーキの二人に話の焦点が合っていましたが、今回は合戦という事もあって今まで出て来たその他のキャラクターにもかなりの量の文章が割かれます。

  • ユーキと同じ特進種でありながら、人を殺す事を躊躇う心優しき若者の真岡牛丸(もうかうしまる)
  • ちょこちょこ出て来て美味しいところを持っていっていた謎天然娘の羽染静(はぞめしずか)
  • 弓に優れ、飄々とした兵士の斉藤準平
  • かつての衝突で捉えた姫路コロニーの特進種である鳥辺野ミゲルと岩佐木満男
  • 八王子からの援軍に所属している百武沙也加とその筋肉執事の雨宮

あたりはちゃんと書かれます。
特に牛丸が戦場の狂気に染まっていく辺りですとか、かつての敵の岩佐木の暴走っぷりでとか、あるいは・・・鳥辺野ミゲルの変態っぷりが惜しげも無く描写されます。この中でもさらにピックアップしろと言われたら・・・鳥辺野の変態っぷりですね。

「眼球が無いだけじゃないぞ。僕は陰嚢が両方とも無いんだ。ふたつとも手で引きちぎられてしまったからなあ。だからもう男でもないんだ。かといって女でもない。そんなわけのわからない存在なのに、そんな僕にも勝てないお前らはうんこ並みに価値のない存在なんだ」

これでも相当なキワモノですが、さらにキワモノっぷりが悪化しまして、

「死ね死ね、うんこ、うんこ死ねぇぇぇっ」

うんこを連発し出し・・・遂には、

「うんこぉぉぉっ。うぅんんこう。うううんんんこうううっ」

・・・今時こんな事口走る奴なんていませんからねえ・・・変態というか、もう生きながら妖怪になっているというか・・・。

もちろん

主役二人もちゃんと書かれます。
ユーキは最前線で最後まで戦い抜く事になりますし、タマも昔取った杵柄とでもいうような感じで見事な根性と指揮官っぷりを発揮します。
恐れを知らず、戦場慣れしたタマの存在感は狂乱に包まれた血みどろの戦いの場では、他の兵士達にとっての拠り所のような存在に自然となってしまいます。
戦場において容赦をせず、また必死になるでもないのに確実に敵の命を刈り取っていく様は・・・かつて霧崎キリヒト<簒奪王>と呼ばれた面影を色濃く残しています。

「お前達は戦士だ。戦士は容赦しない。戦士は前しか見ない。敵をなぎ倒し、踏みにじり、斬り伏せろ。死を畏れるな。魂を燃やし尽くせ。あいつらを全員ぶっ殺すしか、おれたちが生き残る道はない」

味方に対する鼓舞と、かつて培われた戦術眼が武蔵野勢を助けます。

そして

2巻で登場し、気になる存在だった「フォックス」と呼ばれる娘が一体どういう形で絡んでくるかとか、あるいはユーキと生き別れになっていたかつての仲間二人の現在の様子、そして澁澤美歌子の現在といった辺りが描かれます。魔剣であるテラトマの力の一端とともに。
・・・しかし伏せられたままの過去が気になりますね。霧崎キリヒトは何故彼を愛していたはずの澁澤美歌子に殺されたのか、そして霧崎キリヒトは何故蘇りながらもその力を伏せたままにしているのか、そして霧崎キリヒトが逃げ続けている「役目」とは一体なんなのか、実に気になります。うーん。

総合

星4つ。うん、面白かった。
なんというか群雄割拠の架空歴史作品として十分楽しめる出来じゃないかと思います。
戦場で花開いちゃったりする恋もあったりとか(惚れられるのはタマです)、強力な戦士として成長しているユーキの過去の仲間(恐らく潜在的な敵です)などもありつつの展開が実に楽しいですね。今回の合戦で関東は武蔵野連合の手に落ちそうですが、他の勢力も山ほどいる状態ですから今後も目を離せない展開が待っていそうです。うん、楽しみですね。
ところで「レヴィアタンの恋人」って「レヴィアたんの恋人」って書くといきなりぽわぽわラブコメ小説っぽくなるよね。本当にどうでもいいけど。

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