クダンの話をしましょうか(2)

クダンの話をしましょうか 2 (2) (MF文庫 J う 3-6)
クダンの話をしましょうか 2 (2) (MF文庫 J う 3-6)内山 靖二郎

メディアファクトリー 2008-01
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おすすめ平均 star
star出会いと別れの物語

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少女は土地を変えて、今では北海道に居を移していた。少女の名前はクダン
一年中セーラー服を着て(他の服を持っていないから)、変な帽子を被り(実はバクという生き物)、バイトを変えながら各地を転々として「」と呼ばれる存在を探していた。
クダンには人の未来——ただし災いに関する事のみ——を読む不思議な力が備わっていたのだが、その力は本気で発揮してしまうと「見て」しまった相手とクダンの間にある「縁」を完全に切ってしまう。
そしてその力のためにクダンは親しくなった友達を失ってしまい、孤独を抱えこむ事になる。しかし相手に訪れる災いを放っておく事が出来ずに、クダンは力を使う・・・。
親しくなった人との「縁」を失う悲しみに耐えながら一人で「鵺」を求めて各地をさすらう暮らしを続けるクダン。何故なら「鵺」はクダンのこの呪われた力とも言える能力を消してくれる存在だという話があるからなのだが・・・。
そんなクダンが北の街で出会った幾つかの物語が収録されている第2巻です。

しかし

前作(続きはもう出ないのかな?)と雰囲気がかなり違うものの、とても面白く仕上がっている作品ではないでしょうか。
正直読了後にちょっと悲しい気持ちになってしまうのでなんとなく読むのを先延ばしにしてしまったんですけど、読んでみるとやっぱり面白いんですよね。
今回は北の街に伝わる(まあ北海道の函館じゃないかと思いますけど)「コロポックル」出現の噂を聞きつけて、クダンは街に入り込みます。でも話の切り口がまた独特で「手のひら」が全ての話に関わってくるんですよね——え、手のひら? 手のひらってあの「掌」?
そうです。手のひらです。物語の序盤ではこんな描写が出てきます。

幼い頃、子供たちは手を見て育つ。
最初に見たのは、母親の手のひら。
それから、頭を撫でてくれた父親の手のひら。
いつも自分に優しく差し伸ばしてくれる、大人たちの手のひら。

ここを読んだ時「あ〜」って思いましたね。
背が小さくて、大人達の半分ほどしか無い頃は確かに大人達の手のひらを見て過ごしていたような気がします。「手は口ほどに物を言う」なんて言葉はありませんが、確かに手を見て大人達が今どんな気持ちでいるのかを読み取ろうとしていたような気がします。

で、

そんな「手のひら」の発展系として「手形」が出てきます。手形は子供たちの間だけで通じる一種の暗号みたいなものと言えばいいでしょうか。
絵の具を手に付けて、あちこちに自分の手形を付ける。そしてその時の気持ちを手形として残して行く。
子供たちにしか入り込めないような秘密の場所、秘密の時間にそうやって子供たちはお互いの存在を感じ取りながら不思議な繋がりを作って行く・・・。
この話では「コロポックル」という存在が出てきますので現実とは同じではありませんが、私も遥か昔の子供の時には確かに何かの暗号をもって大人達には分からない秘密の会話をしていた記憶が何処かにあります。そしてそれは大人になると忘れてしまうようなものなのですね。
そしてクダンは子供の暗号である「手形」を通じて、コロポックルを追いかけます。

今回も

クダンにはちょっといい出会いと、悲しい別れが待っています。
彼女を父親のように見守ってくれる「バク」が傍にいてくれるものの、どうしてもクダンが力を使えば使うだけ、クダンにとっては悲しい出来事が起きます。
実際、2つめの話では正直な所「あんまりだ〜」とか思ってしまいました。別に誰が悪いという訳ではないんですけど・・・それでもクダンの純粋さ(幼さと言った方が良いんでしょうが)が美しく見えると同時に憎らしくも思えてしまいましたね。

総合

星4つ。十分に面白いんじゃないかと思います。
軽い語り口ながらも作者の着眼点の良さというか、閃きの素晴らしさみたいなものを感じる事が出来た作品ですね。
理不尽だと思える所も幾つもあるんですが、それでも「子供」がメインに据えられてしまうとなんとなく納得してしまう所が不思議です。自分も昔子供だったのに、もう子供をなんだか不思議な妖精のように見ているんですね。それこそコロポックルみたいに。
イラストを手がけたのが朝未氏ですが、この本のイラストは実に良いです。読んで頂ければ分かるんですが・・・一種の連作イラストになっているんですが、それが作品に合っていてとても良かったですね。

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