とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

ストーリー

レヴァーム皇国と帝政天ツ上はいつ果てるとも知れない戦争状態にあった。
二つの国家は海と、その真ん中を走る長大かつ巨大な自然の大瀑布を挟んで相対しており、昔はその存在をお互いが知らない関係だったのだが、飛行機械の発展とともに滝という自然の要害を超えて存在を知り、そしていつしか争うようになった。
レヴァーム皇国の最貧民層に生まれた若者・シャルルは傭兵飛空士として天ツ上と日々空戦を続けていた。戦闘機の性能で天ツ上に上回られつつも善戦する空軍の隠れたエースパイロット。そんな彼はただただ空に憧れた若者だったが、ある日彼に一つの命令が下される。

「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」

奇しくも彼と運命を共にすることになったのはその美しさが「光芒五里に及ぶ」と讃えられたファナという貴族の娘。
この物語は二つの国の間で巻き起こり、長きに渡った戦争という悲劇のドラマのほんの一場面を切り取った「恋と冒険の物語」である。

ヤバイ

超失敗した。
発売日に超速攻で買って、そのまま超速攻で読んで、読了して超速攻で悶々とした気分になれば良かった。さあ買え。いーから買え。損しないから買え。
ちょっとだけ読んで終りにするつもりがあれよあれよと物語に引き込まれて、明日も朝が早いのに気がついたら午前3時という訳で今日はもの凄く眠かった。でもそれは損ではなかった。
というかその後にムズムズとしまくって感想を書きたくて仕方なかったのに、なんとか社会人としての自制心を発揮して寝た自分を褒めてやりたい。その位にはキた。なんか凄いのキた。
とにかく役者も舞台も全部この本の中に整った今、読者はページをめくるだけでこの数奇な運命が織りなす儚くも美しい恋と冒険の物語の中に入り込める。・・・それはなんて幸せだろうか!

とにかく

面白いんですよ。同作者の「レヴィアタンの恋人」も面白いけど、この本は震えが来る程面白い。
身分が天と地程も違い、それまでの暮らしも全く別のものでありながら、かつて一度だけすれ違った二人の男女が戦争によってまた近づく・・・という展開にも熱く滾るものがあるのに加え、敵中を単機突破なんてもの凄く燃える展開です。つーか燃えなきゃ貴様の精神はインポに違いない。
状況からも避け得ない戦闘機同士の格闘戦の描写による手に汗握る楽しさもあれば、とにかく美しい娘を無事に運ばなければならないという英雄的な任務の心躍るような高揚感、さらには危機を超えて二人の間で芽生えるとても美しい恋心・・・。
これが実話なら映画化は固い。というか忠臣蔵並みに毎年ドラマになる。

「今年もいよいよこの季節になってまいりました〜!
・・・ご覧下さい! あちらではシャルルとファナが中央海を単機敵中翔破の準備で大わらわですね!
今年の『とある飛空士への追憶』はなんと24時間ぶっ通しのスペシャル番組で〜す! しかも超豪華俳優陣でお届けします!」
『今年もってなんだよ』

という会話が毎年どっかで交わされる位には固い。

キャラクター造形も

非常に自然な感じでありまして、二人の距離が縮まっていく過程も非常によいです。
個人的にはライトノベルローマの休日ということにしたい。というかしてくれ。つーかもう決めた。
シャルルはグレゴリー・ペックでファナはオードリー・ヘップバーンですね。と言う訳でこれを読んだ女性は容赦なく髪型をヘップバーンカットならぬファナカットにして下さい。というかしろ。
しかしなんだろうな、感想を書けば書く程自分の知性とムードの無さに失望して、脳みそが腐っている感じがどんどんやってきてイヤになってくるラノベってなんか久しぶりな感じだなあ・・・。
いつかもう少し時間が経って、この本が思い出になったならこの感想に追記しようと思う。作者の人が間違ってこのブログを読んじゃった時に、ちょっと「ニヤッ」とするような感想を書いてみたいね。

総合

問答無用の星5つ。
この作品をもってして作家・犬村小六の名前を永遠に自分の魂に刻もうと思う。素晴らしい。
ただただ型に嵌められていたお嬢様のファナが誇りを抱いて昂然と胸を張り、顔をあげて世界を睨む瞬間を見よ。そしてそれに報いるかのように空と海の青に包まれた無限の大空で踊るシャルルを絶技を見よ。それぞれの瞬間はきっと読んだ人の心に痛い程美しい光景となって永遠に焼き付くに違いない。
とにかく私はこの本を手に取った読者に、楽しい本を読み終わった瞬間にやってくるあの「おののき」と「酩酊感」をお約束しようじゃないか。いや、私が約束しても意味ないけど。なんか約束したい感じ。
それにしてもやっぱり空ってなんか特別なのかなあ・・・なんて美しいんだろう・・・。
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