マージナル(2)
- 作者: 神崎紫電,kyo
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/02/20
- メディア: 文庫
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ストーリー
マージナル。それは境界線の上にいる者。
その境界線とはいったい何を指すのか? それは「人か、獣か」の上に引かれた絶対に踏み越えてはならない境界線を指していた。
ここでの獣とは、殺人の愛好者の事を指す。そして主人公の摩弥京也(まやきょうや)はマージナルの一人であり、殺し、犯し、喰らう、最悪の欲望を身の内に宿しながらも一線を踏み越えずに生きてきた若者だった。
そして彼はアンダーグラウンドのWebサイト・ブラッディユートピアの管理人でもあり、多くのマージナルから一目置かれる存在である。特に最近ではその評判はうなぎ上りだった。「エクスター公爵の娘事件」の犯人に対して彼が制裁を下したと思われていたせいでもある。
webサイト上では「ヴェルツェーニ」と名乗る彼の前に一人のブラッディユートピア会員が語りかけてきた。
「これから月森市で人を殺していく」
と。
一つの事件の集結とともに訪れる新たな猟奇殺人事件。内側にも外側にも「殺しの禁忌」を抱えた主人公を中心に綴る、血なまぐさい死に彩られた物語の2巻です。
何気に
いつになったら新刊・・・というか続きが出るのかな〜? と期待して待っていましたので続きが読めたという事実をまず喜ぶべきでしょうね。
前作での事件は世間的には真相が明らかにされないまま収束していた。迷宮入りという結末で。しかし
南雲御笠(なぐもみかさ)だけはその現実を簡単に受け入れられない。実の姉と友人をほぼ同時に失った彼女は、京也が何かを知っているのではないかと疑い続けていたのだから。しかし、そんな御笠に対して京也は冷静に告げます。
「残念ですが、私は御笠さんが想像しているようなことはなにも知りません」
その回答に心底の安心を覚える御笠。しかし京也の抱えた真実は違う。
彼は殺人愛好家一歩手前の人間である。しかしこの彼の選択は間違っているだろうか? 誰に教える事が出来るだろう? 教えてどうなるというのだろうか?
真実が時として人を破滅させる事を知っている人間であれば、恐らく彼の中に怯えと優しさの両方を見出す事が出来るに違いない。たとえその表情が常に凍り付いていたとしても。
で、
今回の注意点としてはこれが前後編の前編に当たる作品だという事です。
新しく現れた殺人者との戦いの決着は本作では付きません。これは・・・うーん、どうなんでしょうね? とりあえず作者の気合いと意気込みは買いますが、後編の出来次第では評価が大きく分かれそうです。
ちなみにこの手のアブナい人を主人公に据えた作品としては、最近だと「みーくんまーちゃん」が思い浮かびますが、個人的には戯言使いの匂いのする彼よりも、この京也君の方が好きですね。
なんというのかな〜、
- 「欲望と痛みを持っているかどうか自分でも分からない人間」
- 「欲望と痛みを持っている事を知りつつギリギリで自制する人間」
であれば、私は後者の方が好きなんだなあということですかね。まあ、比較しても意味ないですけど。
それから
今回はヒロインの御笠以外にも重要な役割を「果たしてくれそうな/持っていそうな」人物・宇佐見風香と、京也に恐ろしい弁当を作り続ける妹・蘭が登場します。
前者は京也がまだ「ちゃんと笑えていた頃」を知っている少女で、
「なんかさっきから私だけ君のこと『きょーちゃん』って昔の名前で呼んでるのに、きょーちゃんは、『宇佐見さん』なんて他人行儀な呼び方をしてるわよね?」
という感じの良い娘です。
昔、彼らの精神的距離は相当近かったようですが、それは今では太陽と月のごとくに離れています。そして風香が何気なく放った言葉が京也を酷く苦しめる事になります。
後者は・・・色々な意味で怖い妹です。
今回ヒロインの御笠が初めて京也の家を訪れる事になり、そこで妹の蘭と会う訳ですが・・・いきなり、
「こんにちはアバズレ」
です。ブラコンもここまで行けばいっそ清々しいですね。他にも同席する京也に知られないようにホワイトボードで、
メスブタ
とか書いて御笠にだけ見せるという悪辣さをモリモリと発揮します。うーん、こんな妹がいたらどんな風に扱えば良いか分からないねえ・・・。
まあ彼ら彼女らを中心にして、今回も悪夢のような殺人事件が幕を開けます。
総合
星3つかな〜? もともと4つにしていましたがバランスを考えるとこの位になるかな? 3.5位ですけど。
まあ楽しんだんですが、前作と違ってやっぱりちょっと緊張感に欠ける感じはありますね。
物語の風呂敷が広がったのは良いのですが、やはり前後編ということになると前編はどうしても「続きはCMのあと!」的な展開になりますので、5つ星は付け辛い、かな? 新キャラの活躍が後編に持ち越されたというのもちょっと痛いかも。
好きな作品だけど、未消化な部分が多く残っているので仕方がないかな〜。でも4つだからやっぱり好きだわな。
あとやっぱり殺しがテーマなので、あんまり死体を増やしすぎると名探偵漫画並みに色々難しいでしょうから*1、今後話を続けていくならその辺りの物語的な必然性を準備する必要性がありそうですね。どうするんだろ?
*1:奴は死体と出くわし過ぎだ!