海賊彼女
- 作者: 鈴木一二三,MAKOTO2号
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/03/25
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
ストーリー
時は未来。人間は太陽系圏に広く進出している。
この物語の主人公はドキュメンタリー番組に感銘を受けた少年・バイク・カートライト。彼は中学校を出るなりTV制作会社に就職し、いつか自分の企画の番組を撮りたいという夢を持っていた。しかし、そんな彼の夢は一向に叶う気配がなく、毎日毎日女性の肌が露出過多な低俗番組の編集を繰り返していた。つまり彼は・・・日々燻っていた。
そんな矢先、彼をこき使う上司・神楽坂の作った変態性欲番組が犯罪の引き金になったのではないかというような刑事事件が発生してしまう。しかしこれを切っ掛けに、カートライトに自分の企画を撮るチャンスが転がり込んでくる。
これ幸いとそのチャンスに飛びついたカートライトは、発作的に宇宙海賊のドキュメンタリー番組を撮るのだと言ってしまう。OKこそ出たのだが、神楽坂からは「女だけで、セクシーな宇宙海賊ならよし!」という条件付を付けられてしまう。
そんな条件通りの宇宙海賊に接触するツテも無ければ、取材の知識も経験も未熟なカートライトだったが、なんとか海賊たちに接触して取材を開始する。しかし、取材の現場では地球の想像を超えた木星の現実が横たわっていた・・・。
あとがきを読んで
読んでいる最中の違和感の答えが分かったような感じがしました。
作者の人はこの作品を最初「コメディ」のつもりで書き出したようです。しかし編集からボツが入って大きく改稿することになり、現在の「基本シリアス」形に落ち着いたという経緯があるとの事です。
しかし、個人的にはこの「コメディ」から「シリアス」への方向転換が成功しているようには全く思えませんでしたね。大幅改稿という形が悪かったのか、中途半端にコメディ色が残っているように感じました。とにかく、コメディであればおバカキャラとしてそれなりに面白かったかもしれない神楽坂というエロオヤジが醸し出す空気がひたすらに中途半端で気持ち悪いのです。
・・・まあ
フィクションの中の人物の嗜好なんてどうでもいいっちゃあいいんですが、物語中盤で神楽坂が「女性が火あぶりで処刑させる衝撃動画」を「火に焼かれて快感に喘ぐエロ動画」に作り変えたエピソードでは流石にこのキャラクターに引きました。まあそれでも神楽坂が「命懸けでエロに突っ走る馬鹿」というのであればまだ良かったんですが、そうでもありませんしねえ・・・。
とにかくこの「ひたすら空気の読めない神楽坂」というキャラクターがいつまでも出続けているのが全体で見渡した場合にかなり邪魔臭く感じましたし、それなりに良くできているように思える「色々な伏線」を楽しむ喜びを台無しにしているような気すらします。
最初から「女海賊突撃取材&少年の成長もの」という路線で書き始めて、最後までそのまま真っ直ぐ進んでいればもっと楽しめたんじゃないかなあ・・・とか思いましたね。
でもまあ
主人公のカートライトは作品の中での出来事を通じてちゃんと成長してくれますし、取材対象となった女海賊たちも中々にキャラがたっていて良かったです。メインヒロインと思えるシャスクの過去や、イヴに与えられた過去は予見できるものではあったものの、その悲劇性と容赦の無さが・・・残酷な話ですが、良いと思いました。
それと一緒に、ちょっと良かったと思った部分を引用してみようと思います。
「公表して止めさせて、木星圏の臓器腐食に苦しむ人間を見捨てろというのか」
「そんなことは言ってない。別の手段をいろいろと考えればいい」
「その別の手段とは一体何だ。言ってみろ。それが実現できたらクローン人間の臓器利用などいつでも止めてやる。だが、代案もないままに止めろというのは受け入れられん。お前の背負っているのは正義感だが、我々が背負っているのはアオンで生きる人々の命なのだ! 代案が実行され軌道に乗るまでは、私らはLEクローン人間ビジネスに目をつぶるしかないのだ。それが食用やポルノに利用されようともな」
他にもありましたね。これとか・・・。
「復讐とか仇討ちというのは、何の得にもならないし、みんなが傷つくだけだと分かっていても、やらずにはいられないものなんです」
色々な人々の希望/野望/欲望が混じりあってこの物語の骨格を作っています。それは良かったですね。
総合
星2つ。
なんか妙にイライラしながら読んだ一冊という事でこの結果となっていますが、この作者の人は物語を作る能力は結構あるんじゃないかな〜とかも平行して思いました。
この話の主人公じゃないですが、ちゃんと企画を練ってから作品を作り出せばもっと良いものを書き上げられる感じがしますんで、この作者の今後の動向を見守りたい所ですね。
ところで、
羽田貨物空港。地球・日本地区最大の貨物専用空港である。
・・・羽田が宇宙のターミナルになっちゃうのか!? シュールというか、変というか、ユーモアがあるというか・・・? 判断に困った。