薔薇のマリア(9)さよならの行き着く場所

薔薇のマリア〈9〉さよならの行き着く場所 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 十文字青,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 文庫
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ストーリィ(十文字青風表現)
ジェードリから帰ってきたマリアローズを待っていたもの。それはの呻くように泣き崩れるアジアンだった。
マリアローズは何も知らない。アジアンが一体何者で、何を大事に思っていて、何を失ってきたのか。自分を無くしたかのように立ちすくむアジアンに戸惑うマリアローズ。
いつもの調子も出ないままに街に出たマリアローズとアジアンの前にクラン・昼飯時(ランチタイム)の一人・ヨグが姿を表し、驚愕の現状を伝える。それは数名を除いてクラン昼飯時のメンバーが行方不明になっているというものだった。不自然なまでに調子を落としているアジアンは突然の災難にさらに調子を崩すのだが、マリアローズは彼に提案する。
ZOOのメンバーに力を借りようか——? と。息つく暇も無く展開される異常事態。彼らは振って湧いたこの事態にどう応えるのか? そして仕掛けられた悪趣味な「ゲィム」とは?
・・・積まれた挙げ句今更感想かよ! という感じの9巻です。
アジアン、アジアン、アジアン
いや、僕は君が嫌いだったんだけどね・・・こんな姿を見せられたら好きになってしまうじゃないか。
でもねえ、マリアローズじゃなくても好きになってしまうと思うよ。強くて、殆ど人外とも言える強さを持っていながら硝子のように繊細で、とても弱くて・・・うーん庇護欲をそそると言ったらおかしい?
「会いたかった」
あいつは振り返らなかった。
「キミに、会いたかった」
風が強い。
つめたい風だ。
確かにマリアローズに会いたかったのだろう。普段から愛、愛、愛と五月蝿い男だからして、ある意味普段通りなのだろうけどそれでもこれはちょっとグッときたね。彼の心の中で渦巻いている「マリアローズを求める気持ち」が痛い程分かるような気がする。
辛いとき、悲しいとき、どうしようもないとき、一筋の救いの光のように誰かを求めてしまう。たとえ相手が自分の気持に応えてくれなくてもそれでも光に誘われる羽虫の様に——。
アジアンの心の底で蠢くマグマのような熱が行き場を失って体の中で渦を巻いている様で、見ていられない感じとでも言えば良いのかも知れないですね。うーん、なんだか母性本能をくすぐられるというか(私ゃ男ですがね!)・・・。
そしてそんなアジアンを見て、マリアローズもこんな風に思います。
きみの泣き顔が頭から離れないんだ。たぶん、しばらくは忘れられないと思うんだ。ひょっとしたら、一生忘れられないかもしれない。僕はかわいそうだって、思ったんだ。きみをかわいそうだって。
可哀想なアジアン。幾つもの思いに縛られて、泣く事も出来なくなっているアジアン。そんなアジアンを見ているマリアローズの心の中は——きっと本人にも分からない気持があるのでしょうが、それでも優しくて、少しの罪悪感と、母のような強さが見え隠れします。
彼ら以外にも
この9巻ではあっちこっちで恋の花が咲いていまして、シリアスな展開と裏腹に面白い描写が目白押しです。
- 自分の心の読み切れない荊王
「気がつくと、俺は……俺は、我を忘れた。こんなことは初めてだ」
嫌いになれないタイプの変態。
- 仲良しになるユリカと飛燕
「つーかデートじゃね? デートっぽかったよなァ?」
「ち、違いましゅ! しょんなこと言ってなかったでしょう! ただ遊ぶとしか!」
ユリカに、ユリカに悪い虫がっ・・・!
でも流石はユリカです。今回を持って彼女はフルネームがユリカ・白雪ではなくて、ユリカ・”最強”・白雪となりました。いや、確かに最強です。
- 調子の悪いトマトクンと、彼を看病する事に決めたサフィニア
サフィニアはこれからするべきことのリストを頭の中で作成しながら、不退転の決意をもって胸中で師に告げた。
これがわたしの魔道です。
いやそれ魔道じゃなくて看病。それからこれはついでですが、
「え……? 布団を……蹴飛ばしたり、まくろうとしたり……すること、なんですが……言いませんか……? ばふばふ……」
うん、フツーはばふばふとか言わない。
総合
星4つは固い。
コメディ的な要素を交えつつも本筋はどんどんシリアスの度合いを深めていきまして、アジアンの苦悩も深くなる一方ですが、心強い味方も多く出来てクランの枠を超えた混成パーティを作る事になり、彼らとともに一つの「ゲィム」に挑む事になります。
敵は魔人と言われる魔術師・ルヴィー・ブルームですが、彼はトマトクンとも旧知の間柄のようですし、しかもアジアンの過去についてもかなり詳しく知っているようです。これは話がどう転んでもおかしくありませんね。
一応作者のあとがきによるとこの「ゲィム」は10巻で終る予定みたいですが、しかし先が読めない話になってきたなあ・・・。
そういえば今回はコロナもちょびっと出てきてましたね。オマケ扱いですが。