<本の姫>は謳う(1)

“本の姫”は謳う〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

“本の姫”は謳う〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

ストーリー

人気の無い砂漠のただ中の遺跡を一人歩く姿があった。
彼の名前はアンガス・ケネス。ある人物の要請に従って、原初の力を秘めた「文字(スペル)」を探して各地を放浪することを生業にしている若者だった。
そして彼に要請をした人物というのは——本の姫。アンガスが手にした古書を開くとうら若い女性の姿として現れ、彼に罵詈雑言やら指示やら助言やら魔法などを繰り出す謎の存在である。
力のある原初の「文字」から生まれたとされる世界をまたにかけて放浪と冒険、人との出会いと謎を散りばめて語られるファンタジー作品の1巻です。
・・・長い積ん読だった・・・。

おお〜

と最初に思ったのはあとがきですね。作者によるとこの本は既に全4巻として既に脱稿しているらしい!
ということは間違っても醜悪商法のような事にならないと思われる訳で、私の購買意欲もうなぎ上りで明日2巻買ってくる! という感じであります。
イラストレーターが同じでも作者と編集部が違うと随分と展開が違うね! などと妙な厭味を飛ばしつつ本編について話す事にします。

この世界での

文字はかなり色々な力を秘めています。
もちろん原初の「文字」はそれだけで大きな力を持っていて通常は使いこなす事など出来ませんし、そこらじゅうに溢れているようなものでもありません。「文字」は世界全部に散らばって存在しているらしいですが、それでも全部で22種類22個しかありません。替えの効かない貴重な文化遺産のようなものです。

しかし

それ以外にもこの世界ではそれ以外に複雑な図形を組み合わせて作られる「刻印」という特殊な記号が新聞を埋め尽くしているという形になっています。
この「刻印」は特殊な訓練を積んだ人間なら記述する事が出来るものとして扱われていて、「刻印」はそれを目にした読み手の内部に働きかけて、特有のメッセージを投げかけたりすることも出来れば、読み手それぞれにとって変わるイメージを喚起したりする力を持っています。
刻印を見ているとホログラムの様なものが浮かんで見えるような感じで本編では描写されます。・・・うーん、これは読み手の持っている情報によって動的にHTMLを生成するPHPで描かれたWebページのようなものをイメージすればいいかな? 読者の想像力が試されますね。

ストーリー自体は

アンガス青年が世界各地を走り回る現代(?)のストーリーと、「」としか記述されない何者かが天使の名を持った人々と暮らしていた——恐らく大昔(?)——の天空に浮かぶ島を舞台にしたストーリーの二つが平行して綴られます。
どちらも大事な物語となっていて、過去(?)の「俺」の物語が現代(?)のアンガスと本の姫の物語が密接に関係していることを匂わせながら描かれます。ちなみにクエスチョンマークが乱舞しているのは物語内でどちらがメインのストーリーとも明示されないからですが・・・まあアンガスが主役の話が物語上で現在の話になるんでしょうね。
「俺」の物語は「文字」がもっと力を持って人々の生活に密着していて、ネットワークなども発達した世界での話となっています。進歩しつつも滅んだ過去の文明の物語・・・でしょうか。
アンガスの物語が冒険の物語だとしたら、「俺」の物語は謀略の物語でしょうか。とにかく全く違う味わいの2つの物語が交わって一つの作品を作っています。この入り組んだ作りの妙は同作者の前作「煌夜祭」でも遺憾なく発揮されていましたが、今作でも似たような形で楽しめますね。

キャラクターについてですが

アンガスはもちろん、本の姫も特徴的なキャラクターとして書かれます。特に気に入ったのはアンガスで、最近のライトノベルでは珍しいくらい真っ直ぐで努力家で希望を失わない若者として描かれます。・・・まあそれには一種訳ありなのですがそれでも読んでいて気持がいいのは事実ですね。
本の姫は——いかにも”らしい”姫です。高飛車で、美人で、その割には意外と・・・アンガスのことをいつも気にしているなんとも言えない人間味がある女性です。うーんいいですね。
ちなみにサブキャラクター達もなかなか魅力的なキャラクターがそろっていまして、特に物語後半で多く関わってくる優男のジョニーは中々に楽しい存在です。

総合

期待大の星4つ。
多分わざとだと思うんですが、ストーリーを断片化する事によって読者をアンガスと同じような気持にさせようとしたのだと思いますが(アンガスは古書の断片を探しては売り払ってお金に換えて生活しています)、ちょっと断片化をしすぎちゃってないかな? という感じはしました。
結果として個人的にはちょっと読み辛い印象があります。その点を除けば興ざめなところは一切無いと言えそうな本でした。でも私が欠点と感じた部分も人によっては魅力に映るかも知れませんね。
キャラクター良し、設定の練り込み加減も良し、散りばめられた謎の具合も良し・・・という一冊でした。