ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 (一迅社文庫 し 2-1)
ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 (一迅社文庫 し 2-1)朱門 優

一迅社 2008-05-20
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ストーリー

日輪(たちもりりん)少年の暮らす十五夜草(いふご)町では十年ぶりに町を挙げての祭が開かれようとしていた。そのお祭りは「お見合い」という特殊なもので、二人、あるいは三、四人で組んで執り行われるものであるとの事だった。
「この祭は、相手が見えなくなったものを探すお祭りなのです」——と、彼の幼馴染みであり腐れ縁、そして飼い主(?)である神社の神主の娘・穂積之宮いちこは彼に言った。そして同時に彼女は「私と一緒にお見合いをしましょう!」という事を言い出して、彼は有無を言わさぬ勢いで祭に引きずり出されたのだった。
なんだかよく分からないまま祭に引き出され、真夏の間の数日続くその祭の間町を理由も分からないまま歩き回る事になった日輪。
彼は夏は何故か意味不明な水難に遭う事がやたらと多いので、夏休みの間は家に引きこもる予定だったのだが、いちこに引きずり出された結果その予定は崩れ去ってしまった。
しかも正体不明の娘・アネモイまでも現れて、事態は日輪の想像を超えた方向へと進み出して・・・?
これは意外にストレートな青春ものですね。なかなか読ませる一冊です。

予想GUY

に面白かったというのがまず第一の感想でしょうか。キャラクターが実に良いですね。

日輪

思春期特有の”アレ”を発病しているけれども、どうも憎みきれないようなところのある少年ですね。

改めて思い出そうとすれば思い出せるかもしれないが、他人の名前なんて普段は意識して考えもしない。例えクラスでも割とよく話す間柄であろうが関係ない。
——このくらいの距離が丁度いい。

"親としての義務"を果たすのは、いつも大変そうですね。
すみませんがこの家は、俺にとってまるで手触りらしき感触がありません。

学校にはちゃんと友達もおらず、家では親と上手く行っていないのが丸分かりの文ですが、いちこと一緒にいる時は別の表情を見せます。その辺りは簡単には言い切れないところがあるのですが・・・まあ読んでみて下さい。捻くれているだけの少年ではありませんので。

穂積之宮いちこ

全力で女王様っぽい性格か? と序盤で思わせておきながら、話が進むに連れて全然違う表情を見せる少女です。

「生徒手帳を開いてみろ。校則に”ペット禁止”という一文がある。これは”ペットの持ち込み禁止”という意味ではなく、”他人様をペット扱いすることなと人として間違っているので今すぐ禁止”という大変ありがたい訓示だと俺は解釈してるんだ」
そんな俺の抗議に対し、いちこはやれやれといった様子で大げさに首を振った。
「誤解なされておられますわ。わんちゃんは愛玩動物などではありません。あなたはわたしくの大切な——」
じっ……と俺の瞳を見つめて、彼女はきっぱりと断言した。
「——下僕ですもの」
うん、なんとなく分かってた。

そういえばこの辺りの描写には主人公の日輪くん(わんちゃん呼ばわりされてます)の性格も垣間見えたりしてますが、いちこさんは正真正銘の巫女さんであり、巫女マニアとも言える存在であり、学校に来るときも巫女装束の強者です。ですが・・・?

「わっ、わたくしと——『お見合い』なさってっ!!」

日輪くんをお祭りに誘う時には年相応な健気さを垣間見せますし、その後どんどんど可愛いところを見せてくれます。
「他の男を誘った方が良かったんじゃないか?」という日輪くんのデリカシーの無い一言に対しては、

「……おバカ」と。
「おバカおバカおバカ鈍感おバカおバカおバカッ!」
えええええ。
「いや、でもさ」
「うるさいボケ」
「いやちょっとボケって当たってるけどお前」
「うるさいうるさいうるさ————いっっっ!!」

気持は分かるけどそれは最近だとシャナを想像させる感じだ。でもそんな感じでもあるな・・・。
とにかく後半になればなるほどどんどんと可愛い少女になって行きますので、その辺りも注目しつつ読んでみて下さい。

アモネイ

突然現れ、突然引っ掻き回して、とにかく先の読めない謎の娘です。
が・・・どうも一筋縄ではいかない少女のようでして、口が達者ないちこに口で負けないどころか、ケムに撒いて一本とってしまうような少女です。

「わたくしが未熟なのでしょうか。あなたがおっしゃっている意味が皆目わかりませんの」(いちこ)
「きさまは未熟ではないです。がんばっているきさまは、そう、完熟です」(アモネイ)
「それはどうも……」
「む? いかんです。完熟だと後は腐り落ちていくだけということになってしまうです」
「…………」

なんて具合に言ったかと思えば、日輪に対して

「あのな、わんちゃん。感謝というのは、相手が要求しているからするものではない。嬉しかったんだと、助かったんだと、そういう自分の気持ちを相手に伝えるのが大切なんだ」
「でもそれじゃ、ただの自己満足じゃないか?」
「そうかもしれない。けれど、それはとても大切なことだ。自分が満足することがではない。相手に伝えることが大切なんだ」

なんて事も言ったりします。謎めいていますが、物語の中心人物でもありますのでやはり要注目なキャラクターですね。うんうん。

総合

星4つは固いな〜。
ストレートかつちょっとファンタジックないかにもライトノベルという作風を評価してます。
後半の展開はちょっと性急だったかもしれないけれども、それでもストレートに少年少女の心の中を描いた作品として評価したいところだし、それを盛りあげる為の小道具も結構良く練り込まれていて、個人的に読んでいて実に楽しめましたね。
もうちょっと主人公の家族側の描写が欲しかったところだけども、ひょっとしたら続編なんか考えていたりするのかな? でも結構綺麗にまとまってしまっているから難しいかな? もし続編が出たら家族側のネタを積極的に取り上げて欲しいところですね。もちろん主人公の恋の行く先も気になるところですしね。中盤には読み返してみると伏線とも言えるような小話も入ってますしね。
あ、イラストも作風には合ってたと思います・・・でももうちょっと風景描写などいれてくれると私の好みにストレートです。

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