神様のメモ帳(3)

神様のメモ帳〈3〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈3〉 (電撃文庫)

気がつけば最新刊が出版されるのを待ちわびていた自分がいたりします。

ストーリー

ひきこもりの少女・アリスは自称ニート探偵。部屋から世界を見渡して、死者の言葉を代弁する。そんな少女探偵の助手をいつのまにか続けている少年・藤島鳴海。そしてかれらを取り巻く本当のニート達と、彼らにとって優しい場所・・・。
そんな場所であるラーメンはなまるの路地裏に一人の少女が帰ってきた。色々なものを無くしながらもそれでも帰ってきた。その少女の名前を篠崎彩夏という・・・。彼女は記憶を失ったまま、再び鳴海の前に現れたのだった。
彩夏が戻ってきた事でかつての姿を取り戻しつつある路地裏。しかし少しだけ変わってしまった彩夏に鳴海は戸惑う。彼女に付いてしまった過去の傷と、今の関係とを思って鳴海は一人で異様な焦燥感に取り憑かれつつあった・・・。
そんな矢先、鳴海と彩夏の学校での居場所とも言える園芸部が生徒会によって潰されそうになる。1巻の事件の事を差し置いても園芸部には色々と怪しい所があり、過去には一人の死者すら出しているというのだ。その事実を知ったとき鳴海は再び動き始める。それが一体何を求めての事なのか、自分でもよく分からないままに。
優しくって、弱い若者達の姿を通じて描かれる青春劇の3巻です。

正直な所

最近すっかり作家・杉井光に魅入られてしまったような感じですね。
この「神様のメモ張」シリーズもそうですが、今も平行して続いている「さよならピアノソナタ」シリーズも好きですし、最近一迅社文庫から出た新作「死図目のイタカ」も面白く思った口です。うーん、どんな作品も楽しんで読む事が出来る作家が出来るのって幸せな事だよな〜とか思ったとか。
ハマった切っ掛けは「さよならピアノソナタ」でのジミヘンのネタを読んだ辺りですかね・・・って凄い細かい所ですけど。いや、いい味出すじゃな〜いって思ったのは事実ですしねー。

1、2巻では

桜庭一樹の「GOSICK」との類似点とかを気にしたりしていましたが、流石にもう止めます。
なんでかというと・・・この物語のキャラクターも巻を進める毎に徐々に徐々に輪郭が濃くなっていって、類似性が気にならなくなってきたという事と、もう一つは「似てようが似ていまいがこの話が面白い」からです。これって一番大事な事だよね?

そうそう

アリスは本編でこんな事を口にします。

「ナルミ、何度も言ったね。探偵は死者の代弁者だ。その所業は生者を傷つけ、死者を辱めるかもしれない。手にするものはつまらない慰めや、名誉の回復に過ぎないかもしれない」

・・・忸怩たる思いと共に、ですが。
ところで、私はテレビでやっていた人気番組の「古畑任三郎」が面白いと思いつつもキライなんですが、それはあの古畑任三郎にはこの「死者と生者を傷つける」という事に関しての苦しみをあまり感じていないように見えるからだったりします。
推理を楽しみ、殺人に対して怒るだけの推理というのは、私からするとちょっと人間味に欠けると言えば良いでしょうか。

まあとにかく

今回は彩夏が帰ってきた事によって動揺する鳴海と、そんな鳴海を見てなんだか困ってしまう彩夏と、嬉しいけど色々と複雑な感情から喜びきれないアリスと・・・という感じで話が語られます。
さらにはニート仲間であるテツ先輩の過去と園芸部での出来事に繋がりがある事が分かってきて、鳴海はテツ先輩が固く口を閉ざした過去の秘密についても足を踏み入れて行く事になります。
それは・・・誰かを傷つけてしまう事なのかも知れない。それが正しい事なのか鳴海には分からない。でも心の中にある”何か”の答えを見つける為に、彼は行動します。時には自分を傷つける事になっても・・・。
結果として今回彼はガチバトルをすることになってしまって、まあ結果としてアリスに激怒されたりする訳ですが。

「だ、だ、だれがっ」アリスは顔を真っ赤にして、感電したみたいに髪を逆立てた。「だれがきみの心配なんてしたんだ!」
いつぞやとまったく同じ怒り方で、色んなものを手当たり次第投げつけられた。枕とかリモコンとか空き缶とかプリンタとか——って、おい、プリンタはやめろ!

まあこんな風にアリスにあたられてしまう鳴海です。

彼は彼で

色々と変な所がある少年なのは事実ですが、時には真面目にこんなことを考えたりします。

世界が、自分を愛してくれているという感触。自分を受け入れてくれるという幻想。
その幻想なしで生きていける人は、たぶんこの地球には一人もいない。

確かにその通りに感じますね。ですが・・・。

「どうせきみのことだから、テツたちが来ているのを見て、なにかくだらないことをぐちぐちとかんがえていたんだろう」
「うん……ちょっとね、愛について考えてた」
アリスは、間違って虫でも飲み込んでしまったときみたいな顔になって、しばらくその大きな瞳で僕の顔をまじまじと見つめた後で、やおらベッドから下りた。てとてとと台所まで行って両手にいっぱいのドクターペッパーを持って帰ってくると、僕に一本手渡す。
ドクターペッパーというのは、もともと薬として売り出されていたようだよ。頭の病気にも効くかどうかはわからないが」
「余計なお世話だ!」

・・・まあいきなり「愛について考えてた」なんて言えば大抵の人はこんな反応をしそうですし、鳴海が鳴海たる所以ですが、鳴海の気持は分からんでもないですな。

初めてあの娘のまばたきに
くちづけた時
トンネル抜けた小鳥のように
悲しみが消えた


佐野元春(スウィート16)

認められる事、受け入れられる事、その瞬間に世界が開けるような感じ。他のものでは決して手に入れる事が出来ない感触とでもいいましょうかね・・・。でもそんなことをいきなり言われてもアリスも戸惑うでしょう。戸惑うというか、やきもきするというか・・・。
時に鳴海はいきなりアリスに向かって、

「あのさ、アリス」
『うん?』
「僕は、大丈夫だから。僕だけは」
携帯を逆の手に持ち替えて、息をつき、言葉を続ける。
「いなくなったりしないし、どんだけひどいことを知らされても、アリスのこと、いやになったりしない。ちゃんと、いつも隣にいるから」

さらりとこういう致命的な言葉を口にする奴だったりします。この言葉に対してアリスが取った反応は・・・まあ、本編を読んで確認してください。猛烈に可愛いですよ?

総合

星4つ・・・いや4.5くらいなので応援の意味もこめて星5つにしちゃおうかな?
過去の秘密がまた一つ明らかになるとともに、また一つ大人になっていく鳴海とアリス。そして帰ってきた彩夏との関係もまた新しい場所へと進んでいく事になります。「さよならピアノソナタ」の続きも期待しつつ待っている私ですが、この話も先が気になって仕方がなくなってきました。
「たった一つの冴えたやり方」——。そんなありもしないような答えを求めて走り回る鳴海とアリスに共感を覚えずにはいられませんね。面白いです、実に。サブキャラクターももちろん魅力的ですし見所満載ですよ? 今回は小百合先生かな〜。うーん可愛い。
岸田メル氏のカラーイラストもとても力作ですし、本編内のイラストも良い感じです。

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