BLACK BLOOD BROTHERS(9)
BLACK BLOOD BROTHERS9 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 黒蛇接近― (富士見ファンタジア文庫 96-15) | |
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ストーリー
ミミコの声は空を渡り、海を渡り、そして日の当たる場所から月下の世界へと届いていた。
特区インパクトと呼ばれた出来事はまだ終っていない。それどころか拡大の様相を呈していた。ミミコの一声はその始まりを告げる喇叭に過ぎなかった。
彼女の声に煽られるようにして右往左往する何も知らない赤い血、知りながらも過去に捕われて身動きの取れない黒い血・・・。確かにミミコの声には力があったが、決定的な最後の一押しが足りていないのが現状だった。少なくとも、多くの黒い血達にとっては。
しかし、そうした夜の世界とは別に動き続ける九龍の血統達。彼らは家族の間にある結束だけを頼りに、足踏みする世界を尻目に一つの恐るべき計画を実行に移そうとする・・・。
「葛城ミミコだ。——彼女を九龍化する」
ページの1ページが歴史の1ページだ! とでも言わんばかりの圧倒的とも言える筆力で描かれる赤と黒の戦いは、九冊目にしてますますヒートアップ!
しかし
なんですかね、この読みやすいのに重厚とも言える描写は。
既刊を全て読んでいる人間にはすんなり入ってくる内容でありながら、それでいて一瞬たりとも間延びした印象を与えず、ひたすら流転し続け、しかもその根っこにはどっしりとした土台を感じさせる物語・・・こう表現するのは簡単ですけど「他に類を見ない」と言い切ってしまってもよさそうです。しかも読者に先を読ませない・・・作者はただ者ではないですね。
物語は
世界各地で展開していきます。
カンパニーの現在の拠点となっているシンガポールでは壮絶バトルが展開し、
特区は九龍の支配下ではあるもののレジスタンスや”ある血族の生き残り”が活躍し、
ジローは遠く崑崙で自分の血と戦い続け、
黒い血達は未来を模索する為に蠢き出し、
九龍の血族達も牙を尖らせ続ける・・・。
中心の人物が3方向に散った関係で物語の中心が3カ所に分裂した感じもありますが、そのそれぞれの場所で綴られる物語は細胞分裂のようにどんどんと増殖して、それぞれが別々に読者を圧倒してくれます。
ミミコは
今や歴史の教科書に載りそうな人物ですが、相変わらずと言えば相変わらずです。
「世界中の頑張りが集まって世界の行方を少しづつ決めていくのだとすれば——」
とミミコは健やかに笑顔を見せる。
「それは、とても素敵なことだと思います」
特区の精神は彼女とともにあり、ミミコが心から笑う時、それは特区の精神と”母なる海”の精神が笑う時です。
コタロウは
勘の冴えこそ相変わらず全開という感じで、お気楽極楽という意味でも相変わらずです。
完全に軟禁されている状態でありながらも、
「ぼくの方が、若干リード」
とか適当な事を考えていたりします。というかコタロウ、全く身動きできない状態でいながらも、「孤高の戦い」を続けているつもりらしいです・・・って、まああながち間違いでもないのでしょうけど・・・なんだかな〜。
ジローは
ここの所あまり格好いい見せ場がありませんでしたが、今作ではやってくれますよ。この九巻は彼の叫びの為に用意された一冊だと言っても良いかもしれません。
——聞け!
彼が放つ言葉の向こう側に見える先の見えない未来。しかし強く激しい希望——。ミミコが海になろうとしているとするなら、彼は海に注ぐ大河に育ちつつあります。この辺りのシーンは震えが来る程楽しいですよ。
ただ、
今回一番気になったのは上記の三人ではなくてあの黒蛇——カーサです。
彼女の叫びには正直哀れみを感じてしまいました。過去に何があったのかはまだはっきりとはしませんが、彼女はやはり・・・失敗した葛城ミミコなのでしょうね。
「その強さと脆さこそ、私の本質だ。矛盾と未熟が、私なんだ。それは、新たな力になり得るものだ。調和と定めではなく、破壊と創造に。宿命ではなく、可能性にっ」
何かどこかで私も感じた事がある想いをカーサは持っています。彼女のこの想いを私は間違いとは言いたくない・・・。
でも、遅い。何もかもが致命的なまでに遅い。そしてその姿同様に若過ぎる・・・。カーサのその有り様はとても悲しくて、哀れですらあります。
運命に、意地に、強さに、弱さに、愛情に、憎悪に・・・あらゆるものに翻弄されてもう後戻りする事が出来ない悲しさに悲鳴を上げ続けているように見えるカーサの捻れすぎてしまった姿は余りにも痛々しくて哀れですね・・・。
もし少しでも運命の天秤がどちらかに傾いていたら、物語は彼女にとってもう少し分かりやすく、そして優しい方向に進んだに違いありません。