時載りリンネ!(3)ささやきのクローゼット

時載りリンネ! 3  ささやきのクローゼット (角川スニーカー文庫)

時載りリンネ! 3 ささやきのクローゼット (角川スニーカー文庫)

ストーリー

最近隣の家の女の子で、かつ「時砕き」という役目を背負っている・・・とは到底思えないおてんば娘のリンネは機嫌がちょっと良くない。それは僕がものを書くためにしょっちゅう机に向かっているため、リンネをちょっとばかりほったらかしにしているからだ。
多分退屈しているんだろうとは思うけど、でも学校には毎日一緒に行ったりしているんだからそんなに不機嫌になるようなものでもないと僕は思ってる。でも僕がどう思っていようとリンネの機嫌はちょっと斜めな訳さ。
そもそも僕が机に向かって書き物をしなければならなくなったのも元はと言えばリンネが色々と事件を起こすせいなんだから、なんだか理不尽な気もする。
リンネには「最近起こった出来事を記録しているんだ」と答えたんだけど、リンネは逆に「いま書いているお話に私も出てくるの?」と聞いてきた。そのまま素直に言うとまたリンネがヘソを曲げる可能性があったから、なんとか「登場人物のモデルとして登場する事はあるかも」って答えた。
そうしたらリンネは「その時は私をかっこよく書いてね」と言って、それでとりあえず手打ちという事になった訳なんだ。
・・・え? 僕? 僕は久高(くだか)。リンネの友達で・・・うん、友達だな・・・。
という感じで綴られる「本」と「時載り」と呼ばれる種族と、それに関わる人たちとの交流と冒険を描いた瑞々しいファンタジー作品です。

渋いんだわ・・・。

何がってこの作品なんですけどね・・・この本ってば、読めば読むほどなんとも言えない侘び寂びというか、百年燻じた囲炉裏のような味わいというか・・・まあつまり「渋い」んですね。
なんというか、この話の書き手を想像するときどうしても若い作家は思い浮かばないんですよ。お爺ちゃんが万年筆で原稿用紙にノートに向かって手遊びで書いている感じがするんですよね。そうですねえ・・・例えば、自分の可愛い孫に語って聞かせるために自分自らが筆を執っているという・・・そんな印象。
私の脳内にはオーク材で作られた年期の入ったデスクとランプによる抑えられた光量に囲まれて、孫に語るその時を想像しながら楽しそうに物語を綴る口ひげを生やした白髪の老人が思い浮かぶんです。もちろん、傍らには煙を吐くパイプがあってね。そうそう、暖炉もパチパチと木々を鳴らしています。

そんな印象の作家(あくまで印象ですよ?)によって書かれるリンネの3巻は「ささやきのクローゼット」というサブタイトルがついています。
このネタの選び方がまた渋いというかなんというか・・・文章は純文学のように濃いのにテーマは実に少年少女文学的という不思議な組み合わせになってます。それが良いんですけどね。
クローゼットって未だになんとなく時めきませんか? え、私だけですか? でもついクローゼットって意味もなく開けたくなりませんか? 父のネクタイやスーツやコートの掛かっている向こうに何かの秘密が隠れているような気がして、子供の時には意味もなく探り回したもんです。結局散らかしただけですから、母はさぞ迷惑だったでしょうね。多分。
でもそんなことをつい思い出してしまうような話です。

今回も

やっぱりリンネと久高の冒険の話です。ある意味では今までで一番冒険っぽいですね。
リンネ達がクローゼット経由で「街」では暮らせず「塔」で暮らす「時載り」達が暮らす「バベルの塔」へと行ってしまうお話です。そこはまるで巨大な迷路のような場所で・・・そんな場所で彼らはネリーという名前の一人の少女と出会います。
もちろん人一倍元気なリンネの事、すぐに彼女らは大の仲良しになるのです。しかし「塔」と「街」では時間の流れが違う事に気がついて、それが原因で一つの大きなトラブルを呼び込んでしまうのです。その問題にリンネ達がどう立ち向かったか、じっくりと文字を追いかけて結末を確認して欲しいです。

でも

一つだけ大きな不満があります。それは・・・イラストです。以下の文章を読んでみて欲しいんですが・・・。

しばらく行くと、僕らの前に一本の回廊が現れた。そこは壁の縁に沿ってUの字形に湾曲した通路で、吹き抜けに面した片側の壁が解放され、ちょうど窓のようになっている。手すりに摑まって下をのぞきこむと、矩形に縁取られた視界のもと、階下で縦横に回廊や翼廊が走っているのが窺えた。
まるで、高層ビルのてっぺんから遙か地上を見下ろしているような眺めに僕らは改めてこの塔の規模を思い知らされる。

こういうシーンで是非ともイラストが欲しいんですけど・・・。
いや確かにリンネのイラストは可愛いのでそれには不満はないですが・・・でも、この本の良さってこういう風景描写の秀逸さが2〜3割位は最低でもありませんかね? だからせめて、せめて1枚でいいから「塔」内部の様子を詳細に描いたイラストが欲しかった・・・。

総合

いやそれでも星は5つなんですけどね。
とにかく元気なリンネ、リンネとどこまでも仲良しな久高、そしてその二人と仲良くなる少女ネリーの交流がとても楽しくて読んでいる最中ついつい童心に帰ります。いやあ、何冊読んでもこの楽しさは変わらないですね。
とにかく素敵な物語なので多くの人に手にとってもらいたいですねぇ・・・。上でもちょっと書きましたが、内容はどこまで行ってもライトノベル的なのに、その描写そのものは純文学的な清浄感に満ちています。とても美しいという印象のある本ですね。
しかし文字数といい、内容といい、たっぷりした本です。薄く見えても読むのに時間が掛かるんですよね。うーん、スニーカー文庫にはそういう作家が集まる傾向があるんでしょうかね?

感想リンク

あわせてやりたい

この話の「塔」のイメージが気に入った人ならこれもかなりの確率で気に入ると思います。

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私なんか今でも時々「観光目的」でこのゲームやりますからね。やらないと損です。美しいですよ〜。