灼熱のエスクード(2)LADY STARDUST

灼熱のエスクード2 LADY STARDUST (富士見ファンタジア文庫 132-8)
灼熱のエスクード2  LADY STARDUST (富士見ファンタジア文庫 132-8)貴子 潤一郎

富士見書房 2008-07-19
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ストーリー

魔族を猟るための剣・ブラディミールに魅入られた若者の深津薫(ふかつかおる)。
彼はエスクード<盾>と呼ばれる戦士になって、レイニーと呼ばれる妖艶で年齢不詳の美女に導かれながら魔族と戦い続けていた。
そんな彼の元にイギリスからの一つの依頼が舞い込んでくる。イギリスは当然英国国教の国でありながら、バチカンの元に所属しているエスクードの薫、そしてルーシアもに力を借りたいという。その選択は夢見の力によって選ばれた必然とも言える選択だった。
英国の依頼を受け、魔族達の巣窟となっていた魔城へと乗り込む薫とルーシア。そこには先行部隊としてクラウディアまでもが含まれた魔導師部隊がいたのだが、行方知れずになっているという・・・。
薫とルーシアは彼女たちの行方と、夢見にあった「外道祈祷書」を求めて地底を彷徨う。そこに大きな罠が待ちかまえていることを知らずに。
「灼熱」と名前を変えて続けられるシリーズの第二巻です。通算では5冊目ですね。

ぱっとしないです

ストーリー的には非常に盛り上がる展開のはずなのですが、本当にぱっとしないという印象でした。
なんというか・・・魔族達の勢力図や、バチカンや英国その他の国々などの関係、エスクードの力が発揮できる範囲、などなどがくっきりはっきりしないために魅力の幾つかが魅力になっていないように思います。
そうした根っこのそうした部分がはっきりしていないので、何が例外的な要素で何が当たりの要素なのかがはっきりしないという曖昧な状況で本を読み進める羽目になっているように思います。

例えば

  • 魔族やエスクード達が普通の敵性軍隊と戦ったりとか。
  • エスクードが一般人と一緒になって戦うシーンとか。
  • 宗教の垣根を越えて人間達が協力して魔族包囲網を作ったりとか。

そんな展開があれば作品の印象が大きく違ったような気がするんですが・・・。
上記の例のような「普通人と魔族関係者を対比するようなシーン」が殆ど無いため、この話は「普通の人間の尺度」がどこにあるのか分からないんですよね。
読者がそれぞれの関係を読み解く上での「指標」や「尺度」の変わりにしやすい「裏世界(エスクードや魔族の世界)」と「表世界(普通の宗教者や人間達の世界)」の関係や関連がはっきり描かれないので、なんだか世界を揺るがす凄いことが起きているのにその印象がない・・・という感じでしょうか。うん、

「ブラディミールの剣を持った薫って本当に強いの?」

「魔王復活したら本当に地球は大ピンチなんですか?」

そんな印象がどこまで行っても拭えないというか・・・。
ゲートが開いたら凄いことが起こるはず! ・・・でもその割には少数の人間しか動いていない感じがする・・・そんな所とかですかね。

あと

物語の展開を急ぎすぎた感じがしましたね。
前半・後半くらいで2冊に分けてもうちょっと周囲の状況をちゃんと書き込んで話を作った方が面白くなったような気がします。特に今回は地上と地下に分かれて話が進むので、その印象が強いですね。
薄い物語が煮詰まって濃くなるならいいんですが、この話の場合設定関係は意外にしっかりしているので話を急ぐとどうしても要点だけ抜き出した話になるような気がします。
会議に至るまでの経緯や会議そのもののシーンなんてもっと膨らませた方が分かりやすく、魅力的だったんじゃないでしょうか。それこそ真澄やヴァルデリーの出てくる辺りなんてあれで終わらせてしまうのはもったいないという感じですね。

そうすると

同じように地下で巻き起こる話も弱くなります。
今回は話の舞台にもの凄く魅力的な場所や敵を用意しているのに、それを書ききらないまま話が決着に向かってしまったという感じがありますね。
あんな地下迷路やら地下都市やらを用意しているのに、ただの街角を駆け抜けるように描写してしまったという感じでしょうか。折角色々と奇怪な生き物とかいそうなのに・・・やっぱりもったいないですね。

総合

星3つ。
上記で上げたような欠点がこの話の魅力を大きくそぎ落としているという感じですね。
上手く見せていれば星5つが固そうな話がそこにあるのに、それが上手く読み手に提示できていない・・・という所でしょうか。
あとサブの登場人物が多いのに、それを上手く印象づけるのに失敗している感じもします。メインキャラクターに関しては薫の立ち加減が未だに弱いと思いますし・・・レイニーやルーシアや真澄は濃いんですけどねえ・・・。
今作では幾つも大事な謎が開示されることになるのでこの話の終わりも近いと思いますが、なんだかこれで終わったら最後までパッとしない物語だったなあ・・・という事になってしまいそうですね。
ここから挽回するのは難しいとは思いますが、作者の人には次のシリーズに繋げる楽しい話を次は書いて欲しいと思います。

感想リンク