晴れた空にくじら 浮船乗りと少女

晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫 お 3-5)
晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫 お 3-5)refeia

ソフトバンククリエイティブ 2008-07-15
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ストーリー

大空を鯨が悠々と泳いでいく。そんな世界で人間達は文明を築いていた。
そして人間達は大空を泳ぐ浮鯨(ふげい)たちを猟り、その鯨から<浮珠(ふじゅ)>を利用して大空に船を飛ばすことに成功していた。そして時は1900年代の初頭。一人の若者が大陸で空を見上げて呆然としていた。
鴨田空輸の所有する交易船<かもた丸>の乗組員である彼の名は波田野雪平(はたのせっぺい)。荷物を大陸まで運んだはいいもののそこで金策に問題が出たらしく、社長が資金調達に出かけたまま帰らない状態となっていたからだった。
かなり厳しい状況にあるという事をなんとなく理解しつつも半ば自棄になって昼寝を続ける昼行灯気味の彼の元に、ある時一人の少女が突然訪れる。その少女の名はクニ捕鯨船――浮鯨を狩る方の――の乗組員だったという彼女は、彼の元に「船をくれ」とお願いに来るのだった。
そんな簡単に船をあげたり出来るものではない・・・というのは誰にでも分かりそうなものだったが、少女は頑固一徹とも言えそうな勢いで雪平に迫る。どうやら彼女は今まで乗っていた捕鯨船を戦争のとばっちりで撃墜されたようなのだった。
状況の良く飲み込めないまま「なんだかなあ」という感じで重い腰を上げる雪平。いずれにしてもこのまま昼寝をしている訳にもいかないのだから・・・。
なんとも緊張感の欠ける大空の物語の開幕です。

いや〜

変な話ですよ・・・。分野タグは適当に付けてますが、敢えて言えば「淡々」とかですかねぇ。
とにかく緊張感がゼロなんですね。特に主人公の昼行灯というか起きていても寝ているようなその性格はちょっとした幸せ精神ですね。こういう人は一生精神病とかにならないでしょうねえ・・・。

「あ」
と、そこまで考えて、雪平は、思い出すんじゃなかった、と後悔した。あ、だけではおさまらなくなって、もう一度言ってみる。
「ああああ」
雪平は、なんだか足をばたばたさせてみた。思い出すと不安になるばかりだし、考えたって仕方がないので、忘れることにしていたのだった。ただ、そのように忘れることに決めて、本当にきれいに忘れてしまった場合、なぜ忘れなければならなかったのか、その理由も忘れてしまうわけで、だからつい、ふとしたはずみで思い出してしまうのである。

・・・どんだけお気楽な脳みそをしているんでしょう!? 忘れる努力をした結果本当に忘れてしまうヤツっているんでしょうか!?

まあとにかく

主人公の雪平はこんなヤツです。
こんな雪平に頼み事をするのがヒロインのクニですが、頼んだ相手がこいつで良かったのか悪かったのか・・・なんとも判断に困りますね。まあ雪平は善良ではありますけど。
ちなみにヒロインのクニは最初、雪平に「頼み事」をするとき、雪平に刀を突きつけながら「頼み事」をします。・・・まあ普通は脅迫しているとも言いますが、この話には致命的に緊張感がないので、やっぱり「頼み事」ですかね。
だってねえ・・・雪平は刀を突きつけられながらどうしていたかというと、

「ぶえくし」
雪平は大きなくしゃみをした。しながら、その一瞬前、クニが反射的に力を込めた刀の先を、雪平は右手の指で、無造作につまんでいた。刀をつまんだまま、雪平はもう一度、ぶえくし、とくしゃみをする。それから、ずず、とまた音をたてて、はなをすすった。
「ああ、ごめんごめん」
と雪平は、つまんだ刀を自分の鼻に軽く当てて、そこで離すとまた両手を挙げた。

なんという剛の者! ・・・ではなくてただのバカですねこれ・・・。
ところでヒロインのクニに殆ど触れていませんが、寡黙で、真面目で、上手いこと言うヤツには暴力を振るう・・・という点だけ抑えておけば大丈夫です。やっぱりユニークですね。

キャラクターの方は

こんな感じでなかなか味のある作りをしていますが、世界観や世界設定などもなかなかにユニークです。
上でも触れましたがこの世界には浮鯨という存在がいて、これらの鯨の体内にある浮珠という「空に浮かぶ珠」を使用することで船を空に浮かせています。その辺りについては船の浮く仕組み、離陸するときの動作、高度を上げるときの動作、高度を下げるときの動作などがかなり丁寧に説明されます。
そうですねえ・・・ヘリウムガスとかを積んだ飛行船の操縦を想像してくれれば分かりやすいかも知れません。あるいはスキューバダイビングをやったことのある人なら、その時の「中性浮力の取り方」や「潜行の仕方」「浮上の仕方」などを思い出してみると分かりやすいでしょうね。
この辺りの説明は結構長々とあるのですが、平易な言葉で分かりやすく説明しているために結構すんなりと頭に入ってきましたね。親切設計ではないでしょうか。

総合

星3つ。
まだまだ物語は動き出したばかりという感じではありますが、見所はあります。
これからこの物語はどう言った展開をしていくのかなあ・・・なんて思ってみたりしましたが、よく考えたらこの大西科学って人は「ジョン平とぼくと」を書いた人ですから、どう考えてものほほんとした空気は消えないに違いありません。
そうですねぇ、なんとなく平和な気持ちになりたい人にお勧めしておきたいですね。間違っても血で血を洗うアクション巨編とかを期待する人は読むべきではありません。いや、新しい刺激を求めるのもアリかも知れませんが。
イラストはrefeia氏です。作風に合ってはいるようですが、今のところは及第点という感じでしょうか。でもカラーイラストの2枚目は綺麗でいいですね。

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