オトナリサンライク

オトナリサンライク (ファミ通文庫 た 6-2-1)
オトナリサンライク (ファミ通文庫 た 6-2-1)八重樫 南

エンターブレイン 2008-07-30
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ストーリー

キーチ・シキシマ少年は訳あって辺境の地、サスクノックへと訪れることになった。
彼は都会の悪たれであり、犯罪行為を犯した罰として奉仕活動を命じられたのだ。サスクノックは大アルアニア連合諸島の外れ、特に何もないところで、強いて言えばカキの名産地である。
しかし一つだけ、もの凄く特殊な所があった。ここでは妖精が実在するのである。古い家にはブラウニーが、宝を守ってスプリガンが、靴屋にはレプラコーンが・・・本当に洒落ではなく存在するのだった。中には人間と雇用契約を結んでいる妖精までいたりする。
キーチ少年はそのサスクノックにて「善き隣人にまつわる相談センター」というところでやっかいになることが決まっていた。そのセンターはつまり、妖精と人間の間のトラブルなどの調停を専門に行うところで、そこには妖精達と同じように一癖も二癖もあるような連中がそろっていたのだった・・・。
不良少年が更生のために送り込まれた片田舎で遭遇する、ファンタジックで夢がある、ちょっと涙な物語。

痛がゆ〜い!

というのが最初の印象だったりします。
なんと言うんでしょうかね。主人公のキーチ少年の半生が前半を中心に語られるわけですが、そこら辺が実に痛がゆいんですよ。男だったら決して人には(特に女には)見せたくない類の傷口を暴かれて無理矢理治療されているような気分とでも言いましょうか。
いや、傷が治るんだからいいじゃんと思われるかも知れませんが、そう簡単には割り切れないのが男という生き物であって、ひたすら意地を張りたいところもあったりするわけですよ。そこをほじくり返される感じが痛がゆい・・・ですかね。
まあキーチ少年もまだ子供なもんですから、まだまだ傷は古傷という感じではなくてかさぶたレベルな訳でして、それを「善き隣人にまつわる相談センター」の所長であるディアナに見切られてしまって、きっちり手当されてしまうんです。

「ディアナ」
「あ?」
「所長様なんて口がかゆくなるから。ディアナ・カーウェン。まんま呼び捨てでいいだろ」

うん、ディアナは悪気があるどころかキーチ少年の事を思ってくれているわけですが(年上の包容力のあるお姉さん的に)、それがまた痛がゆい。突っ張りたい、でも突っ張れない、物語が少年の反骨心を抜いていく・・・ああそれがなんとも苦しいです。

例えば

先日名作入りが確定した「AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜」あたりと比較するとそのあたり分かりやすいですね。
あれはなんだかんだ言って「痛気持ちいい」物語です。かつて負った傷は塞がらないけれど・・・傷口を掻きむしってそれを抱えたまま前に行こうじゃないか、という物語ですかね。
が、対してこちらは「痛がゆい」。治療に伴う痛がゆさです。傷を医者の手を借りて塞いで大人になっていこうじゃないか、という物語ですね。
どちらが好きかは読者に任されることになりそうですが、どっちかと言えば前者の方が好きな私です。でも女性から見たとき可愛らしく思えるのはこの話のキーチ少年じゃないかな・・・なんてことも思いました。やっぱり逆切れするわけでもないのに素直な少年は可愛いもんです。

本作は

大まかに分けて四つの話から成り立っています。
キーチ少年がサスクノックに訪れて、一つの決着に至るまでの話が納められています。・・・でも全体の雰囲気としては妖精達の存在と、それの巻き起こすトラブルのお陰で微妙にのほほんとした空気が漂ってます。それがどんなものかというと・・・。

爺さまがよぼよぼした手つきで、斜面の一部を指さしている。
『こうやってな、円形にキノコが生えてるとこはな、妖精どもが踊った跡だっぺな』
『んだんだ』
『へえ!』
キャスター姉ちゃん、完全におのぼりさんである。
『輪の跡を順々に追ってけば……ほれ。あそこでまだ踊ってるべな』

とまあそんな感じで妖精が普通にいます。普通すぎるくらい普通にいます。

しかし

・・・この妖精ですが、やっぱりその・・・どうしても「人類は衰退しました」と比較しちゃったりするんですよね。少年の成長物語としては「AURA」と、ネタ的には「衰退しました」比較できてしまってなんとも複雑な心境です。
もう少し早くこの作品をリリースしてれば印象も変わったと思うんですけどね・・・。
まあ妖精のイメージは全く違いますけどね。レプラコーンは普通に靴作ってますし、ノッカーは銀細工作って売ってます。こちらはキャラクターとしてちゃんと個性がある感じですね。
あ、そうそう、他にも主要キャラクターは出てきます。メアリ(超真面目)、アニー(やる気皆無)、ルシアナ(不思議貴族)などですね。どのキャラクターも——特にメアリは——立っていてそこは非常に魅力的です。

総合

うーむ、難しいなあ・・・星、3.5位なんだけど・・・3つにしておこうかな・・・。
面白いんだけど暑苦しいところもあったりして、そのあたりがどうもコメディチックな雰囲気と微妙にミスマッチというか、そんな感じがします。
完全にシリアスに寄せてしまえばもうちょっと尖った作品になったような気もしますし、あるいはコメディに寄せてしまっても良かったような気もします。同作者の前作の「マイフェアSISTER」にもそのごった煮感があったと思いますが、それがこの作品にも受け継がれていますね。
それをこの作者独特の味と楽しむか、あるいは中途半端と思うかは読み手次第、ですかね。私はどちらとも言えずにこの星の数になりました。

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