カンピオーネ! 神はまつろわず

カンピオーネ! 神はまつろわず (カンピオーネ! シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 神はまつろわず (カンピオーネ! シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

ストーリー

神を殺したものは、その神の持つ力の簒奪者となるという。
神殺しという偉業を達成した者達はいずれにしても強大な力を手に入れ、人として上ることの出来る最大の力を持つに至る。人は彼らの事をカンピオーネと呼んだ。王、魔王、堕天使、混沌王、羅刹――あらゆる剛力を持つものを二つ名とした恐るべき人間の事である。
そして現代の世には6名のカンピオーネがいる。それぞれ東欧の老侯爵、中国南方の武侠王、妖しき洞窟の女王、新大陸の異形の英雄、大英帝国の漆黒の貴公子・・・そして欧州最強の剣士。
しかし、それに連なるもう一人のカンピオーネが東洋の島国に生まれたことを知るものは少ない。その人物の名は草薙護堂。先日までは当たり前の高校生だったのだが、魔術師・エリカ・ブランデッリと関わることで人ならぬカンピオーネとなった者だった。
そんな彼に欧州から助力の依頼がやってくる。「まつろわぬ神」――いわば先祖返りを起こした、人の神話を超える彷徨える神――が現れたことによってカンピオーネの有する超常的な力が必要になったというのだ。
護堂の求めるものは実は「平穏な暮らし」だったのだが、彼の思いとは別に彼の力とエリカはトラブルを持ってくる・・・しかもエリカは自分が護堂の愛人だと言って憚らない・・・。加えて「まつろわぬ神」の襲来。護堂はこのトラブルにどう立ち向かうのか?
神と、神と戦う力を持った主人公の巻き起こす超常的な戦いと、世界に充ち満ちている魔術を舞台に作られたアクションファンタジー作品です。

おお!?

想像よりずっと面白かったというのが第一の印象ですね。
神様だとか神殺しとかって言葉を冠しているとどうもまず設定ありきの「俺強ぇ物語」だと思いがちだったんですが、この話はそういう予想を良い方に裏切ってくれました。
主人公の護堂は確かにカンピオーネと呼ばれる超人ですが、それ以外の部分については非常に普通の部分を残した少年です。
まあ高校生らしく遊びもしたければ、お色気的なイベントにもそこそこ弱く、若者的な正義感や優しさも持っており、同時にバカみたいに根性が太いわけでもなく、だからといって腰抜けでもない・・・「カンピオーネ」としての自分の事も、そのままの自分の事もよく分かっているという少年です。無条件の善人ではないですが、間違っても悪人でもないという、そういうバランスのとれた少年ですね。

逆に

護堂を取り巻く周囲の登場人物達はかなりの変人揃いですね。まずはヒロインのエリカですが・・・相当なタマです。現代の峰不二子とでも言いましょうか。

『聞いて。いま、護堂がわたしのところに来てくれると、すごく都合がいいの。――ということだから、明日の朝の便でこっちに来なさい。迎えにいってあげる』

電話一本で日本にいる護堂をイタリアに呼びつけたり。

「お、俺はおまえの恋人じゃないっ。いいかげんにしてくれよ、頼むから!」
「あなたの方こそ、いいかげんにわたしの愛を受けいれなさい。わたしのどこが不満なの? 容姿でしょ、若さでしょ、あとスタイル、この辺は全く問題ないと思うんだけど。……もしかして護堂、すごくマニアックな趣味があるの?」

堂々たる愛の押し売り。・・・どこまで本気なのだか・・・。

「わたしは護堂が好き。護堂もわたしのこと、かなり好きでしょ? ほら、もう大丈夫。結婚しても、きっと上手くやれるわよ。わたしたち、地上最強の夫婦になれるんじゃない?」

積極的に護堂を人生の墓場へと誘うエリカ。優秀な魔術師なんですが、困った性格の少女ですねえ・・・でも萌えます。

また

もう一人のヒロインとして並び立つ事になる万里谷祐理も特徴的です。彼女はエリカの正反対・・・という風に考えてもらえば分かりやすいですね。

「よくいらして下さいました、草薙護堂さま――。カンピオーネである御身をお呼び立てした無礼、お許し下さいませ」

礼儀正しく、質素かつ可憐。エリカと同じように魅力的でありながら、真逆の魅力を持っている少女です。

「大いなる力には、大いなる責任を伴うと申します。だというのに、草薙さんはあまりに無責任ではありませんか。こんなに曰くありげな神具を、愛人の女性にせがまれるまま故国に持ち帰るだなんて――」

礼儀正しいかと思えば一転、苛烈にカンピオーネすらも叱りつける。なんといっても媛巫女と呼ばれる神職に就いている巫女さんですからねえ・・・実に萌えます。

まあ

そんなこんななキャラクターに囲まれつつも護堂は「まつろわぬ神」と戦う事になるのですが、その戦闘シーンがまた新鮮で良かったです。超人 vs 神ですからどんな凄まじいバトル展開が待っているかと思いきや・・・そうはならなかったんですね。
確かに凄まじいと言えば凄まじいんですが、想像していた方向とは全く違う方向で凄まじかったです。なんという蘊蓄の嵐! とでも言えばいいでしょうか。
力と技の戦いではありますが、同時に知恵の戦いでもあるというあたりが実に新鮮でした。この新鮮さを是非読んでもらって味わって欲しいですね。

総合

星4つ。
安心して読める出来ですね。
読み始めから読み終わりまでライトノベル的お約束を外すような事をしないのに、きっちり予想の上を行ってくれた辺りは実に新鮮で良かったですね。キャラクターの肉付けも上手いこと行っていると思いますし、ストーリー展開も急ぐでなく遅くもなくいい感じでした。楽しい読書体験でしたね。
「まつろわぬ神」――つまり服従しない彷徨える神――との戦いをシリアスに描いた作品ですが、何とも言えないコメディ要素も併せ持っているあたりが実に良かったと思います。次の作品が楽しみですね・・・というか続編書いて欲しいなあ・・・。
何故ならこの本では草薙護堂がどのようにしてカンピオーネとなったのかは描かれないからですが。そのあたりを続編でフォローしつつ次の話を読ませて欲しいですねぇ。

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